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婚約破棄された悪役令嬢は、証拠だけを信じる ~感情ではなく記録で真実を覆す、静かな逆転劇~  作者: 竜太郎


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春の肖像・消えた足音

次の朝までに一つの記録が動いた。真夜中、南の廊下で扉が一度だけ鳴った。見回りの名簿に欠けはなく、翌朝には机の位置だけがわずかに変わっていた。


亡き母の肖像は十六年前と同じ場所にあった。レティシアは似ていると言われる灰青の目を上げ、今日から増える王宮行事を予定表へ書き込んだ。


父ギヨームは領地から届いた麦価の報告を読み、娘には午後の作法教師を休まないよう告げた。心配は命令の形になり、会話はそれ以上続かなかった。


ノエラは姉の手袋のほつれを直しながら、今年は一緒に何度温室へ行けるでしょうと尋ねた。答えの代わりに、レティシアは次の休日へ印を付けた。


ノエラは読みかけの本へ細い青紐を挟んだ。姉が題名を尋ねると、まだ途中ですから、読み終えたら話しますとだけ答えた。


レティシアは鏡の前で口元を整えた。明日は婚約者として王宮へ上がる。その前の静かな夜を、姉妹はいつもよりゆっくり過ごした。


マルタは窓辺へ季節の花を一輪だけ飾った。過剰な装飾を好まない姉と、明るい色を選びたがる妹の、ちょうど中間になる白い花だった。


午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。


公爵領から届いた便りには、雪解けと今年の種蒔きが記されていた。王都の予定とは違う時間が流れていることに、レティシアは少しだけ息をつく。


姉の予定表を覗いたノエラは、空白の日へ小さな丸を付けた。その日は二人で温室の鉢を植え替える約束だったが、王宮の招待が来れば消える空白でもあった。


食後、レティシアは家人の名を一人ずつ覚えているか妹に試された。二人は昔からこの遊びを続け、最後には必ず新しく来た下働きの名まで確かめた。


(本文実測:719字)

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