春の肖像・夜の記録
その夜、レティシアは「春の肖像」について確かめられた範囲を整理した。夜、レティシアは起きたことを日付順に書き留めた。感情と推測を別の頁に置き、確かめられた事実だけを細い筆で残す。
朝食室には二人分の茶器が並び、ノエラが蜂蜜の匙を姉の側へ押した。社交季が始まれば、この静かな食卓を毎日守ることさえ難しくなる。
マルタが選んだのは公爵家の色を控えめに織った春服だった。華美にも地味にも見えない線を探すのが、婚約者となってからの日課である。
姉妹だけの時、ノエラはレティシアを「お姉さま」と呼び、宮廷で使う完璧な礼を忘れた。レティシアも妹の前でだけ、背もたれへ少し深く身を預ける。
夕暮れには公爵邸の窓が順に閉じられた。明日の支度をする使用人の声が行き交い、姉妹のいる居間だけは静かなままだった。
机には母の肖像を写した小さな額がある。レティシアは答えを求めず、明日も公爵家の娘として務めを果たすことだけを静かに決めた。
王都では春の馬車が増え、門前の石畳が一日中鳴っていた。新しい季節は華やかでも、公爵家の予定には義務の文字ばかりが並んだ。
マルタは窓辺へ季節の花を一輪だけ飾った。過剰な装飾を好まない姉と、明るい色を選びたがる妹の、ちょうど中間になる白い花だった。
午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。
公爵領から届いた便りには、雪解けと今年の種蒔きが記されていた。王都の予定とは違う時間が流れていることに、レティシアは少しだけ息をつく。
姉の予定表を覗いたノエラは、空白の日へ小さな丸を付けた。その日は二人で温室の鉢を植え替える約束だったが、王宮の招待が来れば消える空白でもあった。
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