春の肖像・昼の応接
翌日、「春の肖像」に関わる書類が応接室へ集められた。昼の応接で、家令オスカーが封書と帳面を運ぶ。レティシアは封を開く前に、誰がいつその紙へ触れられたかを確かめた。
父ギヨームは領地から届いた麦価の報告を読み、娘には午後の作法教師を休まないよう告げた。心配は命令の形になり、会話はそれ以上続かなかった。
レティシアは王太子との婚約を、幼いころから家の務めとして教えられた。喜びか不安かを問われた記憶はなく、自分でも答えを持っていない。
ノエラは姉を励ます大げさな言葉を持たない。湯を替え、窓を閉め、机に必要な紙を置く。その小さな順序が二人の日常だった。
姉妹は温室へ移り、冬を越した白薔薇の芽を確かめた。そこでは王太子の婚約者も病弱な令嬢も関係なく、二人で土の乾き具合を言い合えた。
記録帳の末尾に、レティシアは最初の予定を書き入れた。まだ何も起きていない白い頁が、社交季の日数だけ用意されている。
レティシアは分からないことを分かったふりで埋めなかった。小さな違和感も、今はただ日付と場所を添えて記録するだけにした。
夕暮れには公爵邸の窓が順に閉じられた。明日の支度をする使用人の声が行き交い、姉妹のいる居間だけは静かなままだった。
ノエラは読みかけの本へ細い青紐を挟んだ。姉が題名を尋ねると、まだ途中ですから、読み終えたら話しますとだけ答えた。
王都では春の馬車が増え、門前の石畳が一日中鳴っていた。新しい季節は華やかでも、公爵家の予定には義務の文字ばかりが並んだ。
午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。
(本文実測:688字)




