薔薇の席順・夜の記録
その夜、レティシアは「薔薇の席順」について確かめられた範囲を整理した。夜、レティシアは起きたことを日付順に書き留めた。感情と推測を別の頁に置き、確かめられた事実だけを細い筆で残す。
変更前の席図では、レティシアは王太子の右隣にいた。新しい図では三席離れ、その間へ外務卿夫人とセシルが加えられている。
ノエラは席図を見ても驚かず、姉の扇を別のものへ替えた。遠い席からでも合図が見える色だと笑ったが、園遊会への出席は体調を理由に断った。
ノエラは姉の手袋のほつれを直しながら、怖いかとは聞かなかった。代わりに明日の朝食を一緒に取れるかと尋ね、未来が続く前提だけを差し出した。
オスカーは紙質、封蝋、配達時刻を一覧へ加えた。同じ紋章が押されていても、蝋の産地や書記の癖までは同じにならない。
廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。朝になれば妹は何も知らない顔で現れ、姉もまた何も気づかないふりをするのだろう。
午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。
公爵領から届いた便りには、雪解けと今年の種蒔きが記されていた。王都の予定とは違う時間が流れていることに、レティシアは少しだけ息をつく。
姉の予定表を覗いたノエラは、空白の日へ小さな丸を付けた。その日は二人で温室の鉢を植え替える約束だったが、王宮の招待が来れば消える空白でもあった。
食後、レティシアは家人の名を一人ずつ覚えているか妹に試された。二人は昔からこの遊びを続け、最後には必ず新しく来た下働きの名まで確かめた。
夕刻の鐘を合図に、屋敷の門番が交代した。レティシアは階下の足音を聞きながら、明日も同じ穏やかな朝が来ると思おうとした。
(本文実測:723字)




