白い招待状・消えた足音
次の朝までに一つの記録が動いた。真夜中、南の廊下で扉が一度だけ鳴った。見回りの名簿に欠けはなく、翌朝には机の位置だけがわずかに変わっていた。
セシル・ローネは地方男爵の娘で、病に伏す叔母の代わりに王都へ来たという。宮廷での評判はまだなく、それがかえって人々の好奇心を集めた。
園遊会の衣装規定には淡色とだけある。同じ色を選べば競ったとされ、違えば王妃の意向へ逆らったと評されかねず、仕立屋は判断を求めた。
二人の母は違っても、幼いころ同じ温室へ隠れ、同じ教師から叱られた。宮廷が血筋を細かく分けても、姉妹の記憶に境目はなかった。
ノエラは読みかけの本へ細い青紐を挟んだ。姉が題名を尋ねると、まだ途中ですから、読み終えたら話しますとだけ答えた。
記録帳の末尾に、レティシアは最初の予定を書き入れた。まだ何も起きていない白い頁が、社交季の日数だけ用意されている。
オスカーは予定を一刻ごとに区切らず、移動と休息の余白を残した。宮廷は余白を怠慢と見るが、人は帳面どおりの速さでは動けない。
レティシアは分からないことを分かったふりで埋めなかった。小さな違和感も、今はただ日付と場所を添えて記録するだけにした。
夕暮れには公爵邸の窓が順に閉じられた。明日の支度をする使用人の声が行き交い、姉妹のいる居間だけは静かなままだった。
王都では春の馬車が増え、門前の石畳が一日中鳴っていた。新しい季節は華やかでも、公爵家の予定には義務の文字ばかりが並んだ。
マルタは窓辺へ季節の花を一輪だけ飾った。過剰な装飾を好まない姉と、明るい色を選びたがる妹の、ちょうど中間になる白い花だった。
午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。
(本文実測:736字)




