薔薇の席順
園遊会の席順が直前に変更され、レティシアは王太子アドリアンから離された。彼女が抗議すれば傲慢、黙れば不仲と読まれる配置だった。 朝、レティシアは侍女長マルタから予定と来客名を聞く。衣装の色一つにも政治的な意味がつき、選ばないことさえ意思表示として数えられた。
ノエラは席図を見ても驚かず、姉の扇を別のものへ替えた。遠い席からでも合図が見える色だと笑ったが、園遊会への出席は体調を理由に断った。
帰邸するころには、レティシアが席の変更に腹を立てたという話が先に門へ届いていた。彼女は抗議もしていないが、否定を急げば噂を広げる。
二人の母は違っても、幼いころ同じ温室へ隠れ、同じ教師から叱られた。宮廷が血筋を細かく分けても、姉妹の記憶に境目はなかった。
レティシアは自分に有利な証言も、その場で採用しなかった。確かめられない味方の言葉へ寄りかかれば、後で崩れた時に真実まで巻き込まれる。
机には母の肖像を写した小さな額がある。レティシアは答えを求めず、明日も公爵家の娘として立つことだけを静かに決めた。
夕暮れには公爵邸の窓が順に閉じられた。明日の支度をする使用人の声が行き交い、姉妹のいる居間だけは静かなままだった。
ノエラは読みかけの本へ細い青紐を挟んだ。姉が題名を尋ねると、まだ途中ですから、読み終えたら話しますとだけ答えた。
王都では春の馬車が増え、門前の石畳が一日中鳴っていた。新しい季節は華やかでも、公爵家の予定には義務の文字ばかりが並んだ。
マルタは窓辺へ季節の花を一輪だけ飾った。過剰な装飾を好まない姉と、明るい色を選びたがる妹の、ちょうど中間になる白い花だった。
午後の作法稽古では、歩幅と視線の高さを何度も直された。レティシアは不満を見せず、終わると教師へ礼を述べて妹の待つ居間へ戻った。
(本文実測:742字)




