【第12話:鏡像】
舞踏会が終わり、深夜の静寂が訪れた公爵邸。 タルトの私室で、アロウはタルトを鏡の前に座らせ、自らの手でその「重すぎる」ルビーを外そうとしていた。
■ アロウ:【支配の残響】
アロウの指先が、タルトのうなじに残ったルビーの赤い痕を、執拗に、そして深く抉る(えぐる)ように叩く (……この痕こそが、お前が俺に従属している証だ。 今夜、お前を見ていた男たちの視線を、この痕がすべて焼き尽くしてくれればいい。 アロウはルビーを外した後も、震えるタルトのうなじを、何度も、何度も、肌が赤く腫れ上がるほど強くさすり続けるもその目は兄ではない姿に変貌を遂げている。
■ タルトの言葉:【震える無垢】
鏡に映るアロウの瞳を見て、タルトは初めて、心の底から込み上げる正体不明の「恐怖」に指先を震わせる。
「……アロ兄、もう夜も遅いから、あとはソウに手伝ってもらうわ。 アロ兄も疲れているでしょう? 私、なんだか今夜は、この部屋の空気がとても重たくて……」 タルトは努めて明るく振る舞おうとするが、その声は微かに震えていた。
彼女にとっての「アロ兄」が、自分の知らない「何か」に変貌しようとしていることに、本能が警鐘を鳴らし始めていた。
■ 五歩いつもの定位置:【沈黙のソウ】
その時、部屋の隅、影と同化したいつもの定位置から、ソウが静かに、だが逆らうことのできない意志を持って一歩踏み出した。
ソウ・アーヴィスと名を呼ばれ、「専属」を命じられたあの日から、彼は一度もその距離を違えたことはなかった。だが今、彼はアロウとタルトの間に、音もなくその身を滑り込ませよう腕を伸ばした。
「……閣下。あとの身の回りのお世話は、私が。 タルト様の肌は、これ以上の刺激に耐えられぬほど、今夜の装飾に疲れ果てておいでです」
ソウの言葉はどこまでも恭順で、表情は鉄のように無機質だ。 しかし、その大きな身体がアロウの視線を遮るようにタルトの背後に立った瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がった。




