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Chapter6 Robin Hood and the Forest Witch

day:5/7/2035 sat


『ドルフィン4、こちらドルフィン2。今回の演習の目的は〈グラディエータ〉の試験運用とどれぐらい技術が向上したかのテストだ。当たり前だけどいつもの演習用リミッターをかけておいて』


 コクピットの無線が起動して、副部長の声が聞こえる。

 第四校BN部のパイロットに割り振られたコールサインは『ドルフィン』。2が副部長、3が星奈、4が俺、5、6が例の対戦相手二人のものだ。


「了解。リミッター起動」


 復唱して、俺はコクピット内に無数にあるスイッチの中の一つを押した。

 演習用リミッターとは、その名が示す通り演習の際に使用するリミッターだ。

 相手のペイント弾やら訓練用カッターに被弾すると、システムが損害をシミュレーションし、『評価』する。

 そして『破損』と『評価』されたらその部位の運動を停止させる。

 要するに腕をペイント弾で撃たれて、一本って判断されたら腕が動かせなくなるって話だ。


『大和、後でコーラ(おご)るからさ、流石(さすが)にアレは許してよ……そりゃぁ病院送りになった原因なのは私のカレーだけどさ、まさかあんなことになるなんて思ってなかったんだって』


「はぁ……あんなやばいもん初めて食ったぞ……」


『ごめんなさい!』


 まぁ、からかうのはこんぐらいにしておこうか。


「いいよ。流石に俺も引っ張りすぎた」


『二人とも、ラブコメはそこま――』


「「違う! じゃなかった違います!!」」


『――はぁ……そこまでにしておいて。演習を始めるぞ』

 スクリーンにカウントダウンが表示される。


《スリー、ツー、ワン……》


 気合を引き締め、前傾姿勢を取る。


《ゼロ》


 カウントが聞こえると同時に、〈グラディエータ〉2機は、飛び上がった。――後ろに向かって。

 前に飛ぼうとした二号機を、一号機が襟首(えりくび)を掴んで後ろへ飛んだのだ。


『ちょ、ちょっと! 何してんのよ!』


 星奈の抗議と同時に轟音(ごうおん)が響き、数十m先……つまり、もしも前に飛んでいたら居たのであろう場所で、土と塗料が混ざった煙が巻き起こった。

 おくれてくる銃声。


『……え? 何があったの……?』


「狙撃だ。テレビで見たか本で読んだか、はたまたネットで見たかは忘れたけど、1km以上の長距離狙撃だったら、銃声が弾丸よりもおくれてくるらしい」


 俺は機体を走らせながら答える。


「多分、相手のスナイパーだと思う。いい腕だ。とりあえず二手に分かれて森に潜伏しておこう。位置がわからなきゃ向こうも撃てない」


『わかった! じゃ、後で合流ね!』


 二号機は走り去ってゆく。


「……グッドラック」


 そう、俺は小さく呟いた。





「チィ、仕留めそこねたか」


 対戦車(たいせんしゃ)長距離(ちょうきょり)狙撃用(そげきよう)電磁(でんじ)投射砲(とうしゃほう)〈グングニル〉を撃ったスナイパー……岡田大翔(おかだ たいが)は、W-3B2〈ソルジャー・マグナム〉のコクピット内で舌打ちした。


『そーみたいねー。だからあたしがハッキングしてからのほうがいいって言ったじゃん?』


 そう、今回タッグを組んでいる相手……月野鈴(つきの すず)が、W-3C3《ソルジャー・ソーサラー》の中で少しふてくされたように声をかけてきた。


「やっぱそっちのほうがいいな。じゃ、頼むぜ」


『オッケー! ヘマしたら承知しないよ!』




 森の中を、《グラディエータ》二号機は走っていた。


《敵機予想位置まで、残り500m》


 星奈は、自機のAIミカンの声を聞き、声を引き締める。


「今に目にもの見せてやるわ……根暗狙撃屋と陰湿ハッカー!」


 正直、私はイライラしていた。狙撃屋もハッカーも見つからなかったからだ。

 この前のテロ事件を見て思ったことだけど、多分、彼の奥底にはまだあの傷が残っている。だから……だから、あそこまで自分一人で動こうとするのかな?

 だから――だから助けてあげたかった。いや、彼が傷つきやすいのも知っていたから、守ってあげたかった。本音を言うならここから遠ざけたかった――だけど、

 だけど……私はあの狙撃を見抜けず、大和は完全に見切った上に私を助けた。しかもそれでいて、いつも平然としている。それが当たり前のように。

 多分もう、彼には私なんて必要ないんだ……そう思い始めていた。あの事件の日から。ずっと。

 それでも、そうだとしても。


「せめてどっちか一機だけでも倒す……!」


 そして……


《敵機発見。B(ボギー)1に設定。十秒後に会敵》


 スティックを操り、腰の後ろのハードポイントに付けた二本の剣……〈エクスカリバー〉を順手で、〈カリバーン〉を逆手で引き抜く。

 せめて、この剣で悩みをスッパリ断ち切れたらいいのに。

 そう思いながらスクリーンを見る。


「…………!」


 目の前に立っていたのは、〈ストームブリンガー〉を構えた、黄色のソーサラーだった。





 同時刻、同じように森を《グラディエータ》一号機は駆けていた。


「おかしいな……」


 何故かはわからないが、ハルが返事を返してこない。数分前に『レーダーで辺りをさぐれ』と命令したきり、うんともすんとも言わない。

 仕方なく、レーダーを手動で動かして索敵する。

 レーダーを見て、敵機の光点を探す。しかし、どう見ても出てきたのは敵機を示す赤い光点一つ。

 青色……つまり味方が表示されないということは、おそらくどっちかと星奈が相打ちになったのだろう。

 すると、木漏れ日が差し込む広い空間に出てきた。

 まるで、昔の子供向けアニメであった、馬鹿でかいクスノキが生えている山。何故(なぜ)かそれを連想するような場所だ。

 思わず、自然の雄大さに見とれて足を止める。

 葉擦れや小鳥のさえずり、水の匂いが聞こえてくる。

 そして、それに混じって駆動音が響く。


「!?」


 俺は慌ててそちらの方を向いた。

 そこに立っていたのは、〈エクスカリバー〉と〈カリバーン〉を構えた電子戦機。機体名はわからない。

 電子戦機は体勢を低くして突撃してくる。


「ハル! モード2から3へ変更!」


 ハルは応答しない。


「おい! ふざけないで早くしてくれ! ストライキやめろ!」


 執拗に電子戦機は切りかかってくる。こんな状況でもハルは何も返事をしない。


「くそ……だったら」


 仕方なくタッチパネルを操作してモードを変更する。

 いつもは声一つですぐ切り替わるのに……まどろっこしい。

 こんな調子じゃ頭部20mmもあまり使い物にはならない。そう判断して、〈ストームブリンガー〉を引き抜く。

 片膝を着いた一号機は、電子戦機にガンモードの〈ストームブリンガー〉を向ける。


「吹き飛べ!」


 俺は、トリガーを引いた。




「ちょ、危ない!」


 まさか、至近距離であの滑腔砲をぶち込んでくるとは……私も予想できなかった。

 ていうか、滑腔砲なんてBNに装備させるもんじゃないわ! そう心のなかで、開発者に文句を言いながらうまくかわす。

 たしか、あの滑腔砲はBN用に改修したから装弾数が5発になってるはず。もっとも、いくつマガジンを奪ったかわかんないから、何発入ってるかわからないけど……


 二号機は、二刀を構え直し、突撃する。上に構えた〈カリバーン〉は首筋を、下に構えた〈エクスカリバー〉は腰を、まるでミサイルのように狙う。

 この二刀は一般的な高振動単分子ブレードより短いが、その分軽さと取り回し、切断力に優れている。


 絶対当たる、そう確信した一撃は〈ストームブリンガー〉によって防がれた。

 鍔迫り合いで、火花が飛ぶ。

 二刀はじわり、じわりと押し負けていってしまう。『一撃の重さ』では、軽量なのが売りの二刀では不利だ。

 そう悟り横へ跳びながら、右の腕部15mmチェーンガンを乱射する。だが、ひらりひらりと、それこそハリウッド映画ばりの動きでソーサラーは全弾かわし切る。


 弾幕が途切れた瞬間、ソーサラーは上へ飛び、〈ストームブリンガー〉をソードモードに変形させる。

 逆光を浴びながら、ストームブリンガーは振り下ろされた。



 やばい! そう俺は直感した。あの電子戦機の操縦者、近接戦に慣れている!

 こういう戦闘では本来、相手とは距離を取って戦うのが普通なのだが……あいにく、今は固定兵装を除くとピーキーすぎる大剣しかない。

 そもそも俺はあまり射撃が得意ではない。

 10発撃って3発当たるか当たらないかぐらいの命中率なのだ。これならガトリングガンやらマシンガンやらで弾幕を張ったほうがまだマシだ。


 それにしても……使いにくいんだよこの剣! 馬鹿でかいから重いし、速く振れないし、反動きついし。

 相手は腕部15mmチェーンガンを撃ってきた。俺とは違って正確な射撃だ。だが、バカ正直にコクピットばかり狙ってくるから避けようはいくらでもある。

 全弾を軽くかわす。戦闘時特有の熱くて冷たい何かが、どんどん俺を研ぎ澄ませる。

 そんな状態の俺にとっては、マッハ1で飛んでくる銃弾すらスローに見えた。


 ああ、腹立たしい。機体の腕力がもう少しあれば。そうすればまだ使いようがあるのだが……

 弾幕が途切れたのを見計らって、上へ跳ぶ。

 スティックを操作して〈ストームブリンガー〉をソードモードに変形させる。

 全重量を乗せた一撃。そして、この位置ならば必中。そう俺は確信した。

 その時。



《申し訳ございません、大和。少々ウイルスが厄介で手こずってました》



 やっとハルが再起動した。それと同時に、スクリーンの表示が切り替わる。

 電子戦機の姿は()き消え、そのかわりに立っていたのは二号機だった。


「はい!?」


 慌てて〈ストームブリンガー〉を投げ捨て、軌道(きどう)も無理やり変える。


《敵の電子戦攻撃です。先程までカメラ、無線、マイクに偽の情報を流し込まれたり、レーダーに妨害を受けたりしていました》


 話を聞きながら、操縦桿を動かす。

 二号機はまだ、こちらを攻撃してくる。


「星奈! おい、しっかりしろ! 俺だ! 大和だ! 切りかかってくるな!」


《無駄です。二号機も同種の攻撃を受けている模様。解除まであと2分ほどかかります》


「畜生……」


 やっとハルが戻ってきて、視界がまともになったとは言えどもこちらは丸腰。どうすりゃいいんだ?!


《私に良い作戦があります》




「うっそぉん……」


 鈴は、スクリーンに映る情報を見て絶句した。

 一号機の制御を奪い返された。

 それは、あたしにとって、認めたくない事実だ。そもそも理解できない。なぜ一号機『だけ』なのか。


『おい、どうしたんだ? 様子が変だぞ』


 大翔が無線越しに問いかける。


「ちょっと予定が狂ったっぽいなー……片っぽ制御取り戻してる」


『ハァ!? ちょっとどころじゃねぇ! 大本から狂ってるぞ! その事態!!』


「うん……援護射撃お願い」



 何が起きているの?

 星奈は、混乱した頭で考える。

 まず――コレがこの意味不明な事態の原因だった――攻撃の途中で、ソーサラーが〈ストームブリンガー〉を放り投げた。

 最初はなにかの作戦なのかと思ったが、即座に拾ったところから見ておそらく違うのだろう。

 その後、ソーサラーは着弾してきた砲弾を背に、逃走を開始した。

 あまりの衝撃で、数秒間私は棒立ちになった。

 だって……仕方ないじゃない! 攻撃の構えをしたと思ったら回れ右で走り出したんだから!

 当然、私はソーサラーを追いかけた。あの操縦者、わざわざ尾行を振り切るような動きをしていたからとおっっっっっっっても苦労したけど。

 そして、追いついた私が見たのは……同士討ちだった。



「よし! 第一段階クリア!」

《どうですか? なかなかのものでしょう》

 ハルがドヤってるのを半ばスルーし、戦闘を続行する。

 ハルが提案したのは、とてつもなく分の悪い賭けだった。


 まず第一段階。『振り切らない程度に、だが不自然ではないように』二号機を誘導する。まぁ、あいつのことだ。バカ正直に追ってくるだろう。

 ここまではいい。だが、問題はここからだ。


 次の第二段階は、ハルがハッキングを受けていた際、逆探知したデータを頼りに、電子戦機とスナイパーの位置を割り出す。


 そして最後の第三段階。俺が二機とも近接戦に持ち込む。それを見れば俺が味方だと気づいてくれるはず……これが作戦だそうだ。

 この作戦の問題点……それは、相手のハッキング能力が未知数だということ。もしかしたら電子戦機の見た目が『一号機』になってしまっていたら、確実に俺が星奈に……というか三人にやられる。

 成功率30%の賭け。それこそがこの作戦の本質だった。


「おい、てめぇら、さっきから好き勝手やりやがって! ……今度はこっちのターンだ!」



「どういうことなの……」


 マイクが、外の声を拾わない。

 そう気づいて私は戦慄した。もしかして……もしかして、二号機はハッキングされているの?

 その途端、答えがわかった。

 一瞬、スクリーンの表示が消え、緑の0と1の羅列が埋め尽くす。

 再起動したスクリーンに写っていたのは、マグナムとソーサラーに向かって啖呵を切っている一号機だった。


「うそでしょ……そんな……」


 私は……彼を斬ろうとしたの?

 守りたかった彼を?


『星奈、聞こえるか!? 大丈夫なら返事しろ!」


「う、うん……」


『俺はスナイパーを追うから、電子戦機をなんとかしてくれ! 頼めるか?』


「……」


『どうしたんだ? なにか問題があるのか?』


「いいえ……大丈夫、アイツには私が報いを受けさせる!」


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