Chapter5 Gladiator
day:5/7/2035 sat
荒い息を吐きながら、俺は山の悪路を走る。それも、大量の砂袋を積み込んだリュックを背負って。
何故こんな事になっているのか。それは簡単、BND部のトレーニングだ。
それにしても……BN乗ったときにコクピット内でシェイクされてあざが出来ていたりして、万全とは言い難い体調だ。
『おーい、ペース落ちてるぞ! そんなんで後5分以内にここにつけるのか?』
インカムから、俺達に走れと命じた人物――龍三先輩の声が響く。
ほんと……なんで走らされてるんだ? さっき聞いたら『BNに乗るのは体力勝負! 特に君みたいに近接戦するなら持久力ないと戦い続けることは出来ない!』みたいなことを言っていたけど……
あと少し、あと少し……やっぱりこのリュック投げ捨てたい。
「記録は、35分12秒です」
ハルがストップウォッチのスイッチを押した。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
走り終えて、仰向きに倒れる。空は雲一つなく、容赦なく太陽の光が照りつける。このままじゃバターのように溶けてしまいそうだ。
「ねぇ……大丈夫なの?」
先にスタートして、先にゴールした星奈が声をかけてきた。
「ああ大丈夫ですよ四週間前あんたの激辛料理食ったせいで全身ズタボロ状態で走りましたからね!」
「入院させたのは悪かったって…… それにしてもこんなに早く部活のユニフォームが来るなんてね」
俺も自分の姿を見る。オリーブ色の野戦服と戦闘靴、ドッグタグは今日受け取ったものだ。
まるっきり軍人。そうとしか形容できない格好だ。
「入学前の採寸をそのまんま流用して作ったとか言ってたぞ。にしても……やっぱさ、ここだけ訓練、きつくないか?」
今回BND部のパイロット部門に入部したのは、俺達含めて四人。だが、パイロット部門と言っても、戦い方は近接戦のアタッカー、遠距離戦のスナイパー、電子戦のハッカーの三つある。
今回、俺と星奈がアタッカー、残り二人がそれぞれスナイパーとハッカーになった。
俺達はきっとすぐにBNに乗せてもらえるものと思っていた。しかし俺達を待っていたのは、過酷な訓練だった。
さっきの兵隊マラソンに加え、腕立て、腹筋、スクワット、背筋、懸垂を百回ずつ。これがスタンダードだそうだ。こんな部活、聞いたことない。
「たしかにそうかも……向こうはBNでライフルをバンバン打ってるけど、こっちはずっと筋トレだからね」
「だろ? にしてもあの副部長、何考えてるんだか?」
「それは簡単。今からお前達に追加で何をやらせるかだ」
「ふーん……え?」
後ろを振り向くと、龍三先輩が仁王立ちしていた。
「え? あの……どの辺りから聞いてましたか?」
「激辛料理云々辺りから、全部だ」
うそだろ……ほぼ全部聞かれてたじゃん……
「残念だ。実に残念だよ。今からお前らが話してた二人との模擬戦の予定だったんだが……」
「「申し訳ございませんでした、やらせてください!!」」
数分後、野戦服の上に対Gスーツを着て、ヘルメットをかぶった俺達は格納庫の中に入っていた。
第五、第六ケージが空になっているところを見ると、おそらく相手は先に出たのだろう。
その横の第三、第四ケージに俺達の機体が置いてあった。
白を基調として塗装された、ステレオカメラ装備の機体。
XW-4〈グラディエータ〉。それがその機体の名だ。
〈グラディエータ〉は機動力や出力を強化した、メイドインジャパンの試作機だ。主に近接格闘戦に重点を置いて設計されたらしい。
ただし、出力が高すぎて操縦の癖も強い。なんなら乗り心地は米軍内で『ミキサー』というありがたい二つ名を得ていた〈ソルジャー〉以下。
かなりのじゃじゃ馬だ。
ちなみに見た目の違いは、俺の一号機がダークブルー、星奈の二号機がダーククリムゾンに膝や肩などの要所要所が塗られていることだ。
「おい大和、星奈! お前らに荷物着てるぞ! データは機体に入ってるから確認しとけ! 実物は武器コンテナに入ってる!」
上から整備班長で、五年の篠原徹郎先輩の声が響く。
「わかりました! 後で確認しておきます!」
「俺も同じく!」
集合時間まであと五分。少し急ぎ目で行かないといけない。
それに気づいて、俺達はコクピットの中に入る。
《機体の起動準備は完了しました。指示を》
ハルが急かす。
どうして身体があるのに、BNの中にもいるのか気になってこの前聞いてみたところ
『本体であるこの体から、BNにデータを送っているから』という返事が返ってきた。
「で、追加兵装っていうのは何なんだ?」
《一号機用の追加兵装が大型複合兵装〈ストームブリンガー〉、二号機の追加兵装が高振動単分子ツインブレード〈エクスカリバー〉、〈カリバーン〉です。危険なので両方とも訓練用カバーを使用してください》
「了解。……にしても、両方とも大昔のおとぎ話が元ネタか」
確かストームブリンガーが魂を吸い取る魔剣で、エクスカリバーとカリバーンがアーサー王の剣だっけ?
剣闘士にもたせるもんじゃないだろ……もっとこう、ほら、勇者的なやつに持たせたほうが良さそうな名前をしている。
〈グラディエータ〉はコンテナを開き、柄を手繰り寄せる。
そこにあったのは、折りたたまれているアホみたいにでかい片刃剣だった。そのサイズは、刃渡り7m、柄2m。
いや、大型って聞いてたよ! でもやりすぎだろ! 誰がここまでサイズを盛れって言ったんだよ! 長さに至ってはだいたいBN1機分じゃねぇかぁッ!
何なら峰の方に、大砲っぽいものが着いているし……
《10式改滑腔砲です。装弾数は5発になっています。使用時は反動がきついのでご注意を》
「……おい……それって戦車の主砲じゃねぇか! なんでそんなんをBNにつけるんだよ!」
普通、BNが手持ちで使う銃の口径は40mmから65mm。そもそも120mm滑腔砲なんて撃つ設計ではない。
仮に撃ったとしても反動でフレームがお釈迦になる。たしかそんなことを星奈が前言ってたっけ?
《問題有りません。〈グラディエータ〉は開発当初から〈ストームブリンガー〉を使えるようにチューンされていますので》
「もう何なんだよ……」
そんなこんなブツブツ言いながら、演習場へと歩いていった。
やっと……正式主役機登場! てなわけで出てきたXW-4〈グラディエータ〉です。とりあえず、実際の航空機で例えると、F-1支援戦闘機みたいな立ち位置の機体です。(W-3 〈ソルジャー〉系列機がF-4)
まぁ、どのみち一号機も二号機も魔改造の予定が入ってるんですけどね……




