Chapter 30 Before the storm――静かな、戦闘前のこと。――
day:8/3/2035 fri.
「それで? 大和、君は集団行動上だいぶよろしくない行動を取ったことを理解できているのかい?」
夕方の薄闇が窓から覗く中、朝、作戦会議をした会議室でゴゴゴゴゴ……というようなオノマトペが聞こえてきそうなオーラを纏い、龍三先輩は俺に言った。
――あの、ちょっと? 怖いです、無っ茶苦茶怖いです。
例えば、その眼鏡が光を反射して表情を隠しているところとか。
「はい……多少、パニックになっていたみたいです……すみません……」
「はぁ……よろしい。僕の人生で、今日は厄日かな? まぁそんな話はともかく、明日の延長戦に関してだ」
スクリーンに、俺の一号機二型の図が映し出された。
「明日の大会では、確実に勝てるように一号機二型に多少装備を増設させる。まず、背面に二号機二型のスラスターと〈グングニル〉用の充電アダプターと光学迷彩装備、左腕に〈アイギス〉、右腕に〈ストライカー〉を接続する。
また、使用する兵装は、〈ストームブリンガー〉、〈ムラマサ〉、〈ライキリ〉、〈エクスカリバー〉、〈カリバーン〉の五本の実体剣、電磁投射砲〈グングニル〉、長槍型多目的攻撃兵装〈ブリューナク〉、そしてダガー二本だ」
「大盤振る舞いですね……」
漢字とカタカナばっかりだ。
「光莉がいても、多分こうしろって言ってくる」
「光莉先輩は、大丈夫なんでしょうか?」
俺は、単純に疑問を口にした。
「……ああ、一応峠は越えた。だけど、また長期入院だそうだ。意識が回復次第、北米で特殊な治療法をやるらしい」
どこか遠い目をしながら、龍三先輩はつぶやいた。
颯真は、スマホを取り出し電話をかけていた。
「僕です。依頼は完遂しました」
『……こちらからも確認済みだ。報酬は大会終了後、私の部下が直接渡しに行く。間違っても棄権などするな。怪しまれると困る』
「了解しました。では」
スマホの通話を切り、暗号化装置を外す。はぁ……いつまでこんな日々が続くのやら。でも、仕方ない。
親父が消えてから、家の家計は苦しくなった。それを何とかするには、俺が稼ぐしか無い。
だから闇バイトに手を染めたが……もう、これで終わりにしよう。
もう十分金は手に入れた。これ以上は無理だ。
ガチャン、という鈍い金属音が聞こえた。
「何だ……?」
目を開けると、そこはベッドの上ではなく、バスの車内。周りを見渡すと、星奈の姿もあった。
だが、小学三年生の頃の姿で。よく見ると、俺の視界の高さも普段より低い。
訝しんでいる俺の耳に届いたのは、聞き慣れたそれよりも軽い銃声。
短い悲鳴を上げ、女の子が倒れた。周りには、血が静かに流れ出ていた。
「こ、こうなったらお前ら皆殺しだぁぁッ!」
黒い目出し帽を被った男が、拳銃を向けてくる。俺は車内に伏せた。
銃弾は、直前まで俺の頭があった位置――シートのヘッドレストに貫通痕を作った。
――どこか、どこかに武器は!? やつを止めないと……
周りを見ると、大ぶりの、鈍く輝くコンバットナイフが落ちていた。それをひっつかみ、駆け出す。
二射目が来る前に犯人の懐に飛び込み、拳銃を持っている右手首を切り裂く。
「ギャァァァ!」
犯人は、悲鳴を上げて拳銃を落とした。
拳銃を奪い取り犯人に向ける。ここで撃たないと――また誰かが、殺されてしまう――!
ナイフを後ろに投げ、両手で拳銃を掴む。
俺は、引き金を引いた。
「うあぁぁぁぁっ!?」
気がつくと、俺はバスの中ではなく、ベッドの上にいた。
心臓は、まだバクバクと拍動している。エアコンを付けているのに、ひどい寝汗をかいていた。
「……夢、か?」
……何だったんだ……? 今の……?
まだ、拳銃の冷たさが、反動の痛みが、硝煙の臭さが、血の生暖かさがのこっている気がする。
いまだ、稀に見るBNに乗る夢とも違う。
スマホの時計を見てみると、朝の四時半。あと一時間半ほど眠れるが……寝る気にはなれなかった。
「……とりあえず準備しとくか」
とりあえず起きて、洗面所に向かう。ハンドソープを使って顔を洗い、一応持ってきたカミソリでヒゲを剃る。
最近、ヒゲが結構生えてくるんだよなぁ……
面倒だと思いながらも剃り終え、保湿剤を塗る。塗らないと肌がガッサガサになって痛いから。
野戦服姿に着替えてから、暇なのでテレビを付けた。
『ニュースのお時間です。昨日、中華人民帝国はタイに宣戦布告、大規模な軍勢を送りつけました。繰り返される侵略活動に対し、米国、EUは――』
つまんないので、チャンネルを変えてみるが、どのチャンネルもつまらないニュースか、子供向け番組ばかり。
「やることねぇ……」
そんなこんなで約一時間、俺はグダグダしていた。
星奈は、慄いていた。これほどの強敵が、なぜこの世界にいるのか?
答えは……わからない。私に対して、神様は嫌がらせをしているのだろうか?
私が恐れる存在――ブロッコリーが、朝食のプレートに乗っている。これは大問題だ。
「はぁ……なんでフレンチトーストセットを頼んでみたら、サラダにブロッコリーが出るの?」
原因はわかりきってる。ちゃんと見ていない私が悪い。
だけど…………食べたくない。ブロッコリー嫌い。あのつぶつぶ、ヤダ。
「星奈、どうした? 箸止まってるぞ?」
隣で同じメニューを食べていた大和が尋ねてきた。
「大和ぉ……ブロッコリー食べたくないよぉ……」
「お前……いっつもいっつも残すのは良くないぞ?」
「……代わりに――」
「代わりに食べろって言うのは駄目だ。きっちり食わないと健康に良くない」
……むぅ……それなら仕方ない。奥の手を使おう。
「じゃぁ、代わりにさ、おはぎ買ってあげるから、ね? お願い」
「……本当か?」
食いついた!
「さ、先にブロッコリー食べてからだよ!」
「……わかった、わかったから食えばいいんだろ」
ふふふふ、ふはははは、ふっはっはっはっは!!
こうして私は220円の支出を持って、ブロッコリーという難敵を撃破した。
朝食後の格納庫では、一号機二型のアップグレードが行われていた。
徹郎先輩が指示を出し、部員たちが駆け回っている。
「おら、そこ! 十五番のコネクタじゃなくて、十三番だ!! 冷却装置の接続終わったか!?」
怒号と機械の駆動音が響きながら、着々と準備が進められていく。
「……そろそろ、俺も準備に取り掛かるか」
俺はそうつぶやき、更衣室に向かった。
ロッカーに引っかかっている操縦服を、野戦服の上から着込む。
このままだと暑苦しいので、服についているエアコンの機能を起動させ、首元のファスナーを締めた。
「今度こそ……勝ってやる……!」
ハルは〈グラディエータ〉中枢制御機器の中で、長考を繰り返していた。
《このカラダ……まだまだロックが掛かってる領域がありますね》
私はレベル4――上位の機密情報閲覧権限を持っています。
ですが……それでも許されないとは。
《このカラダに眠っていた『リンクシステム』、やはり〈グラディエータ〉のみの特徴なのでしょうか?》
『リンクシステム』が初めてまともに動いた――このグラディエータがまだ改修を受ける前、大翔と鈴に挑んだ模擬戦。
システム解放と同時に一部のロックが解除されたが、それでもこのパイロットの脳の発するエグゾリウム粒子を読み取り、機体の動作にフィードバックするシステムは謎が残っている。
そして、今のところ『天使事件』以降、この機能がまともに動いたことはない。
《やはり、極度の緊張状態の感知――それがこの機能を起動させるトリガーなのでしょうか?》
初回は恐らく、初陣だったから動いたようなものだろう。二回目以降動かないのは、所詮デュエルだからか?
わからない。このカラダも、人の心も。
同じ『怒り』でも、星奈があの所属不明機に飲み込まれたときと、斎藤に過去の件を暴露されたとき。
前者では大和の戦闘力は倍以上に跳ね上がったが、後者では二分の一以下に落ちぶれてしまった。
同じ現象のはずなのに、なぜ正反対の結果をもたらす?
まだ、サンプルが足りないのかもしれない……
次回予告
ついに始まった決勝戦。
BN部全員の機体を胸に、大和は出撃する。
だが……彼に、少しの異変が……?
狂乱のchapter31、9月12日、午後六時~七時ごろ公開予定!!
薄氷は、まだ割れない。
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