Chapter 29 Where is he?――俺は……どこに来てしまったんだ――
day:8/3/2035 fri.
「みんな、おくれてすまな……ん?」
龍三が会議室に入ったとき、部屋は混沌としていた。
部屋の隅で星奈は泣き、大翔はどこから持ってきたのか、エアガンのライフルを整備していて、鈴とハルはパソコンを弄っていた。
「えっと……? 何があったんだ?」
「龍三先輩、戻ってきたのですか」
ハルがパソコンから目をはなさず、声だけで応じた。
「先の試合ではあの後、大翔が引き分け、鈴が負け、星奈が勝ち、大和が負けたことによって明日、大和対斎藤で延長戦を行うことになりました」
「で? その肝心の大和はどこに?」
部屋を見てみても、肝心の大和が姿を消していた。
「先の試合の後、失踪しました。現在どこに行ったのか調べています」
…………え?
多少フリーズしてしまった頭をフル回転させ、僕は考える。
「どうしてそうなった……」
「試合中盤に、斎藤から人殺し呼ばわりされたのが原因かと考え、現在原因をネットで調査中です」
「???」
「とりあえず、これを見ておいてください」
ハルに突きつけられたミッションレコーダーのディスクを、僕は黙って受け取るしかなかった。
「それでは、今から『有川大和失踪事件』の対策会議を開始します」
ハルが、厳かに告げた。わざわざスタンドライトで逆光にして。
「……ハル、あたしたちからしたら凄く見にくいだけだから、逆光にするのやめて」
即座に、鈴から突っ込まれた。
「……わかりました」
少し不機嫌そうな顔をしてから、ハルはスタンドを片付けて席に戻る。
「えー、今回の事件の原因は二つ、一つ目は2032年10月16日に起きたバスジャック事件、もう一つはデュエル中、対戦相手にその傷をえぐられたことと推測されます。星奈、バスジャック事件について証言を」
ハルが私を指名したので、涙を拭き、立ち上がる。
「……あの事件は、三年前、私や大和が住んでいた五島市で、銀行強盗が逃走のためにバスを乗っ取った事件です。犯人が荷物を落として、それを拾った小さい子を撃って……最終的に大和が、犯人の銃を奪って犯人を撃ち殺しました……それのせいで、大和は記憶を……」
今でもあの事件について思い出すと、ひどい吐き気がする。それを必死に押させてすべてを簡単に語り、席につく。
暗い、重苦しい沈黙が部屋を満たした。
「……そういうことだったのか、奴がたまに、狩人みたいな空気をまとったりしたのは」
大翔が沈黙の中、ぽつりとつぶやいた。
「では、こちらがミッションレコーダーの当該部分です」
ハルがパソコンにディスクを差し込み、再生を開始する。
『ははは……流石は人殺しの狂戦士、やっぱり戦い好きなんだ』
これが……《クレイジー・ピエロ》のパイロットの声。
『どういうことだッ!』
数秒の間を開け、大和が怒鳴る。
『どうもこうも――簡単に言うとね』
少しノイズが入った声。恐らく衝撃を受け、マイクに雑音まで入ってしまったのだろう。
『君、小学三年生より前の記憶、無いんだろう? 親も義理だし、おかしいと思ったことはないのかい?』
『……! うるさい……!』
やめて、もう……やめて……!
『小学三年生のとき君は! 人を撃ち殺しているんだよ!! その癖その罪を忘れて、記憶を失ってのうのうと暮らして!!』
『黙れ……!』
もう彼を……傷つけないで……!!
『挙句の果てには、その時助けた子の家に住ませてもらって、でもそれでも真実を教えてもらえなくて! こんなに惨めな癖に、こんなに重い罪を背負ってるくせに、もうその両手は血だらけのくせにッ!! 何の罰も受けてなくて本人は無自覚だなんて笑えるよねェ!!』
『黙れえぇぇぇぇッ!!!!』
違う、そうじゃない……彼は、そうじゃ、そうじゃ……!
『チェックメイトだよ、狂人君』
そういって、銃声が響く。あの日聞いた人を殺した音と似た、火薬が燃え、鉛の塊を飛ばす音。
「これで記録は終わりです――星奈、大丈夫ですか?」
ハルの声を聞き、やっと自分がまた涙を流していることに気づき、乱暴に手で拭う。
「うん……」
「では、続けます――こちらは、本来出してはいけない情報なのですが」
そういって、ハルはパソコンを操作する。スクリーンに映し出されたのは、この周辺の地図。
「この地図に出ている赤点、これが大和が失踪十分後、今から四十分前に大和のスマホが最後に送った位置情報です」
「ち、ちょっと待って、ハル!?」
私は慌てて声を出した。え? 位置情報!? どういう事……?
「……監視用に、発信機能を大和のスマホにこっそりダウンロードしていたんです。位置情報が届かなくなったのは、おそらくスマホの充電が切れたためかと」
……もう、どこを突っ込んだらいいのかわかんない。発信機を仕掛けるのもどうかとおもうし、大和も大和でスマホ充電しときなよ……
「んで? どうやって見つけるんだよ? 頼みの綱のGPSは無理なんだろ?」
「よく聞いてくれました、大翔。作戦はこうです――」
どこから取り出したのか、ハルは指示棒で地図を指す。
「まず前提として、大和は操縦服のまま、スマホのみを持ってどこかに行っています。スマホは充電が切れているため、彼はほぼ一文無しです。なので、バスや電車などの公共交通機関は使用不可能です。
そして、操縦服姿で歩き回っている中学生の情報がネット上で出てないことから、GPSで送られた位置を中心に半径一キロ以内のどこかにいると予想します」
「「「「おぉ……」」」」
私たち四人は、声を合わせて感心した。
「なので、複数人のチームに分けて行動を行います。私と鈴がこの会議室で情報を集め、司令を出します。大翔は、このビルの屋上からライフルのスコープで街を観測してください」
「おい、ちょっと待て!? 俺下手すりゃ逮捕されるぞ!?」
大翔が顔を真っ青にして喚く。
「大丈夫です。私は警察にもコネがあるので、なんとかなるでしょう」
「大丈夫じゃねぇよ!?」
「銃刀法には問われません。せいぜい軽犯罪法違反でしょう。罰も拘留か千円以上一万円以下の罰金なので大丈夫です」
「もう一度言うが大丈夫じゃねぇ!!」
「では最後に、星奈と龍三は集めた情報をもとに周辺の探索、及び大和の説得をおねがします」
「無視すんな!!」
だが、大翔の心からの叫びは、ハルには届かない模様。
……大翔、日頃の行いが悪いからだよ。だからこういうときに貧乏くじを引く羽目になるの。
そう思いながらも、口にはしなかった。
「それでは会議終了、作戦を実行します」
「はぁ……なんでこんな目に合わねぇといけねぇんだよ……」
大翔は雨の中、レインコートに身を包み、弾倉とバッテリーを引っこ抜いたエアガンのスコープを覗く。
どれもこれもアイツ……大和がスマホをきちっと充電してねぇのが悪いんだ。だから、俺はこうして雨に打たれながらスコープを覗く必要がある。
「こちらドルフィン5、見つからねぇぜ」
『こちらスプリング1、了解。それならあの公園の方は?』
スプリング1……今回限りのコールサインで、ハルが通信に答えた。
「駄目だ、木が邪魔で見えねぇ」
『了解。ドルフィン6、SNS上で、なにか反応は?』
『いいえ、なーんにもないわ――おっかしいわねぇ? あんなゴツいので歩き回ってたらすぐに見つかると思うんだけど?』
やれやれといった風に、鈴がぼやく。
『ゴツいので――歩き回る? ドルフィン1、ドルフィン3! 公園内を探索してください!』
『ちょ、え? 公園……? どういう事?』
ハルの指示を聞き、星奈が困惑したのが無線で聞いていても聞き取れる。つーか、俺も同じ事思ったし。
『……! そうか、公園内だったらあちらこちらに隠れることができる……!』
龍三先輩が、答えを告げた。
『そういうことです……?』
「ハル、どうした!?」
俺が慌てて問うと、予想外の言葉が耳に届いた。
『警察無線を傍受したところ、大翔、あなたが不審者として通報されました。とりあえず逃げてください』
大和は、一人公園のドーム状の遊具の中で、うずくまっていた。
「何やってんだろ……俺……」
最近、稀に夢で出てくる黒い拳銃、多分あれで人を撃ち殺したのだろう。
一度人を殺しているのだから、四月の事件で、自分でも驚くほど冷静に立ち回れたんだ。そうに違いない。
それに……あんな事を言って飛び出してしまった。もう星奈に合わす顔がない。
俺を好きだ、そう言ってくれたのに……その、俺が彼女を傷つけてしまった。
帰って謝るにも、スマホの充電が切れたせいでここがどこかわからない。操縦服のままだから交番にすら行けないし……
というか、俺は彼女のそばにいていいのか? 人を殺しても記憶していないような人間が?
もしかしたら、無意識で、誰かをもうすでに殺しているのかもしれない、そんな危険人物が?
そんなことを思っていると、パトカーのサイレンが聞こえる。きっとスピード違反か何かだろう。
『そこのライフルを持った不審者! 今すぐ泊まりなさい!!』
……? どういうことだ? ら、ライフル!? 日本で!?
どうやら、今外に出るのは危険なようだ。というか、まだ雨が降ってるから出たくないし。
ライフルと言われて、どこかのリーゼント頭を思い出したが、多分別人……だよな? さすがに大翔でも、ライフルなんて持ってるわけがない。きっと関係ないだろう。
『こちらドルフィン5! 助けてくれぇ!! 俺は留置場で一泊だなんてゴメンだぁッ!!』
星奈の耳に、悲痛な大翔の叫びが届く。
……ごめん、私も捕まりたくないから無理。本当に申し訳ないけど、自分で逃げ切って!
そんなことを思いながら、私は公園内を走る。
大和のことだから、居るのは多分森側じゃなくて遊具側。かつ、この天気だから雨をしのげるような場所。
考えながら走っていると、遊具広場にたどり着いた。そこにある遊具は――滑り台、鉄棒、ブランコ、ロッククライミングの壁、なんか地球儀みたいな形の回せるやつ、そして――白い、中に入れるドーム。
「あれだ……!」
私は、そこに向かって一目散に駆け出した。
「大和、帰るよ」
突然、後ろから声をかけられた。慌てて俺は振り返る。
ドームの穴から顔をのぞかせていたのは……星奈。いつぞやの天使事件とは、立場が逆になっていた。
「あんた、散々人に迷惑かけて……! 大翔なんて今警察に捕まりかけてるし!」
……あのパトカー、大翔追っかけてたんだ……
「すまん。でも――まだ、戻る気はない」
「なんで!?」
星奈が、素っ頓狂な声をあげた。
「確証が持てないんだ……俺が、もしかしたら無意識に殺人を犯してるかもしれない……人を殺すのを楽しむシリアルキラーなのかもしれない……どうしてもその可能性を否定できないんだよ……」
「……」
「もしかしたら……俺は、気づかずに君を殺してしまうのかもしれない……! いや、もしかしたら俺の親が死んだのも……」
「バカ!!」
俺が話している途中、突然星奈は声を荒げた。
「大和、あなたは確かに記憶と親を失って、確かに人を……その、殺した。それはたしかに間違いない。でも、親が死んだ原因は自分!? 気づかずに私を殺すかもしれない!? そう簡単に私も、あなたの親も死なないよ。それに……あなたはシリアルキラーなんかじゃない!!」
「なんでそんな風に言い切れるんだよ!! どこにそんな確証があるんだ!!」
「だって……あのバスジャック事件で、犯人にあなたが立ち向かったのは……私のせいだから……」
……? どういうことなんだ……?
「あのとき……バスに乗ってたのは運転手さんを除いたら、私とあなたと、三歳くらいの女の子と、そのお母さんだったの。そのバスに、銀行で、あなたの親を殺して逃げた銀行強盗が乗り込んできて……女の子が撃ち殺されて……私たちにも拳銃が向けられたの。でも、大和が戦って……」
ぽつりぽつりと、星奈が過去を語る。
「あのとき、私が運賃が高いからって、タクシーを呼ばなかったから……暑さを我慢して歩こうって言わなかったから……あんな事になったの……」
俺は、静かに聞き続ける。
「あなたが戦ってくれたから……私や、女の子のお母さんは助かったの。だから……あなたは悪くないの……」
すぅっと、俺の中の鎖がほどけるような、デュエルが終わってからずっとのしかかってきた重しが外れたような、開放感。
「一緒に帰ろうよ」
もう逃げる必要も、断る必要もない。
「ああ。すまなかった……星奈、もう一つ君に言いたいことがあるんだ」
「何?」
「朝言われた問いの答え。――俺も、君が好きだ」
いつの間にか、もう雨は止んでいた。
次回予告
ついに始まる延長戦。
この状況を打開するべく、〈グラディエータ〉フルアーマー装備の換装作業が始まる。
今度こそ、大和は勝てるのか?
戦乱のchapter30、9月5日、午後六時~七時ごろ公開予定!!
薄氷は、まだ割れない。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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