Chapter 31 PTSD――よみがえる悪夢――
day:8/4/2035 sat.
「うわぁ……聞いてたけど、思ったよりもゴツくなってる……」
星奈は、格納庫の一号機二型――もとい、XW-4FA〈フルアームド・グラディエータ〉一号機二型の前で、つぶやいた。
全体的に……そう、平成っぽい。平成の「色々付け足せばつよい」みたいな思考が見て取れる。
いや、私もそういうのは大好きだけど……ちょっと……やりすぎな気が……名前も……
もはや、色々突っ込みすぎてコンセプトが混線している。
〈グラディエータ〉由来のスラスター二種類と近接装備。
これに力技で〈スナイパーカスタム〉のレールガンを二丁つなげ、光学迷彩マントに両腕にクローとパイルドライバー。
それだけではなく、アークジェットを搭載した増加装甲も搭載されていた。
「これ……シンプルに『一号機三型』で良かったのでは……?」
ハルすらも困惑の表情を浮かべる。
「大神重工側の都合で、三型ってつけれなかったんだって」
「そうですか……」
そんなこんな軽く話していたが、一人なにも言葉を発していない人間が、この場に一人いた。
それは……この機体のパイロットである、大和本人。
「大和? どうしたの? 汗すごい出てるけど」
「あ、あぁ。おかしいな……エアコンつけてるんだけど……」
確かに、大和の操縦服からエアコンの機械音が聞こえた。それでも汗をかくだなんて……?
それに大和の腕が、細かく震えている。
まるで――なにかに怯えるように。
「それじゃ、行ってくる」
大和は、コクピットに向かって歩いてゆく。
「私もこのカラダの電源を切って、一号機二型内に意識を転送しますので、支えててください」
そう言うと同時にハルの目から光が消え、倒れかかってきたので慌てて支える。
「うわっ、重い……」
俺はコクピット内で、額に流れる汗を拭った。
おかしい。何故かはわからないが寒気がする。多分体温は36.6℃くらいなのに……
震えも止まらないし、なんとなく吐き気がする。だが、咳はないし喉にタンが絡んでる感じもない。
多分風邪じゃないと思うけど……何故だ?
『大和……ほんとに大丈夫?』
無線から、星奈の声が聞こえた。
『やっぱり、昨日からおかしいよ」
「いや……そんな事無い。大丈夫だから」
『……本当?』
「大丈夫だって、勝って帰ってくるから待っててくれ」
そう言い、一方的に通信を切る。だが今度は、機内のスピーカー……ハルからだ。
《先程の会話、聞いていました。大和、今のあなたは確かに異常な状態です。戦わないほうが良いです》
「ハルまで……大丈夫だって、ほんとに。俺は問題ない」
《いえ、心拍数が通常よりも高くなっています。戦闘前からこれは異常です。ほかにも――》
「この話題はおしまい! 最終確認するぞ!!」
無理やり話を切って、機体の確認を開始する。
コンデンサー、一番、二番、三番、四番、充電率100%、エグゾリウム・リアクター出力待機。
各部の関節、異常なし。頭部センサー、問題なし。
「大会本部、こちらエントリーナンバー163、カタパルトに移動します」
『了解、3番カタパルトに向かってくれ』
「わかりました」
そう言い、俺は無線を切ってヘルメットを被った。
「それじゃ、最終決戦と行きますか」
颯真もやはり、カタパルトに接続された〈シューター〉の中でつぶやいた。
とりあえず、この勝負を終えないとバイトの報酬を受け取れない。下手に負けてしまうと始末されてしまう可能性だってある。
こっちは文字通りの意味で、命がけなんだ。
家族を背負ってる僕と、遊びで戦っている君は、どちらが勝つのかな?
「ドルフィン4、有川大和――出る」
二本の操縦桿を握りしめ、双方を内側に倒す。
それに対応し、カタパルトが〈フルアームド・グラディエータ〉を打ち出す。
「ハル、スラスターを全部起動しろ!」
《ラジャー》
赤と青の光をばらまきながら、フルアームド一号機二型は加速する。想定されている時速350kmを超え、400、500、600――時速750km。
とてつもないスピードにより、ベイパーコーン――時速600km以上の高速飛行により発生する飛行機雲を引きながら、空を登る。
いつもの倍以上のGが体を襲う。
「ぐっ……!」
《大和、十分以内に撃破してください。そうしなければあなたの体が持ちません!!》
「へっ……無茶を言うな……二分でぶっ飛ばす!!」
高さ300mまで上昇してから、腰の後ろに下げている〈グングニル〉二丁を引き抜く。
さらにそこから、〈テンペスト〉二門も展開。
「ハル、モード2に設定」
《ラジャー》
スクリーンに投影された十字の照準器を、〈シューター〉に合わせる。
トリガーに指をかける――が。
「っ……!」
突然、あのバスの光景が蘇る。
血に塗れた拳銃。
「来るな……」
犯人の死体が、ゆっくりと身を起こす。
「やめろ……」
手にした拳銃が、勝手に銃弾を吐き出す。
「とま、れ……!」
銃弾は何故か曲がり、後ろにいる星奈に向かって飛んでいく。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
もう照準なんてつけず、トリガーを、混乱の中で引いた。
「大和、どうしたの!? 返事して!!」
スクリーンに向かって、星奈は叫んだ。
スクリーンに映るのは……地上に向かって、体勢を崩したせいで乱回転しながら落ちてゆく〈フルアームド・グラディエータ〉。
「っ……! 鈴、ハルに火器管制以外の機体制御権限を渡せ!!」
龍三先輩が慌てて言った。このまま落ち続ければ、一号機二型本体のみならず、大和まで……
「了解っ! プログラム転送開始!!」
鈴がノートパソコンのキーボードを叩く。それに対応し、スクリーンに表示されたプログレスバー……アプリとかをインストールするときに出るバーが伸びてゆく。
だが、どんどん〈フルアームド・グラディエータ〉は地面に落ちてゆく。
「鈴、まだ!?」
私は、鈴に声をかけた。
「まって……後少し……出来た!!」
バーの表示が100%になった。だが……まだ、〈グラディエータ〉は動かない。それどころか、対空砲火に晒されている。
「ハル! 緊急事態につき、機体制御権限を譲渡した!! なんとか大和が起きるまで持ちこたえろ!!」
龍三先輩が、通信機をひっつかんで言った。
《ラジャー》
ハルは、〈フルアームド・グラディエータ〉の中枢制御機器《CCU》内で、必死に機体を動かしていた。
本来のBN――兵器としてのBNはパイロットなし、機載AIのみで戦闘することを想定していない。AIのみで動かすのは訓練の的役ぐらい。
なぜそうなっているのか? 理由は簡単、AIが反乱を起こすことが出来ないようにするためだ。
武器を持たないBNは、歩兵や建築物に対しての脅威でしかない。
武器がなければ、戦車との中、長距離戦闘では勝つことはほぼ不可能、航空機に対しては手も足も出ない。
《アラームを起動、音量最大》
大和を起こさないと、勝つことは不可能。
〈シューター〉が、ローラースケートのような装置――〈ケンタウロス〉を使いながら、こちらに正確な射撃を送り込んでくる。
それを、紙一重でかわす。
《刀が使えれば、まだ対処の方法はあるのですが……》
機体のアラームを鳴らし続けるが、一向に大和は起きない。
次回予告
ついに始まった決勝戦。
BN部全員の機体を胸に、大和は出撃する。
だが……彼に、少しの異変が……?
乱戦のchapter32、9月19日、午後六時~七時ごろ公開予定!!
薄氷は、まだ割れない。
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