Chapter 26 Toccata and Fugue――頼むから勝てよ――
day:8/3/2035 fri.
『それではカウントダウンです! 五秒前! 四! 三! 二! 一! ゼロ!』
ゼロ、と言われた途端、鈴は強力なGを体感した。
一瞬でカタパルトから〈メイジカスタム〉は放り出され、宙を舞う。
「ミサイルランチャー、一番、二番、発射! UAV射出!」
空中で無人支援機と、背中のミサイルを発射し、マントを纏う。
「光学迷彩、開始!」
《ラジャー。OCS、スタンバイ》
大気を揺らしながら周囲の風景をマントに投影し、〈マリオネット〉のセンサー全てから、そして観客や運営からも、姿を隠す。
だが。
「あれ? 対戦相手、どこ行ったの?」
相手の姿も、見えない。あたしが予め連射したミサイルも全弾外れ、蛍光ブルーの塗料を撒き散らす。
「どうしよう……!」
「作戦通り。相手がステルスなら、こっちもステルスだ」
颯真は、コーラを飲み、ポップコーンを食べながらつぶやく。
ハンムラビ法典だったか、その一文に『目には目を、歯には歯を』というものがある。
本来復讐の上限を表していたものらしいが、今となっては『あれに対抗するなら、同じ物を使えばいい』的な意味でも使われてる、アレだ。
これは、対ハッカー型BN戦でも変わらない。アタッカー型やスナイパー型では、潜伏したハッカー型の発見は非常に困難だからだ。
「光学迷彩装備は、なにも君たち第四蒼天校だけのものではないんだよ」
「今から、第二次B-X導入計画会議を開始する」
安藤総理大臣の言葉とともに、会議は始まった。
「現在案として上がっているのは、大神重工のXW-4〈グラディエータ〉、稲荷重工のXW-5〈シューター〉の二機種です」
二宮防衛大臣が現状を解説するのを半ば聞き流しながら、誠一郎は準備を始める。
「――それでは、誠一郎教授、〈グラディエータ〉について解説を」
やっとか……そう思いながら俺は、準備した物――プレゼンテーション用の資料、そして第四蒼天校のガキどもの戦闘データを机の上に置く。
「えー……我々大神重工の開発した〈グラディエータ〉の基本コンセプトは、『撃たれる前に斬る』です。
現在のBN戦ではステルス性が向上したため、近接戦闘が多発しています。それに対応するために、本機は機動性、索敵能力、そして近接戦闘用のプログラムを多数インストールしています」
予め練習していたスピーチを思い出しながら、ゆったりとした口調で言う。
「また、本機専用のアサルトアーマーも、新規開発しました。それがこちらの三五型一式〈韋駄天〉と三五型二式〈飛天〉です」
〈韋駄天〉――現在、一号機二型に装備して試験中のアーマー。電気推進装置を脚部、肩部、背部に装備し、地上を高速ホバーする装備。
そして〈飛天〉――研究中の粒子飛行システムを採用した、二号機二型に装備されている飛行ユニット。
これらは、〈グラディエータ〉の大出力がないと使用不可能な装備だった。
「運用データもこちらに多数。閲覧しますか?」
デュエルだけではなく、実戦で得たモーションデータ。正規軍のBN戦は2029年に終結したロシア・ウクライナ紛争以降、表向きは起きていない。
実戦と言っても、四月の暴走事故や五月の天使事件のもので、そこまで大規模なものではないが、実戦運用に耐えた実績は大きな長所だ。
「いや、本日はあまり時間がないので後日……次は、稲荷重工の――」
会議は続く。
あのガキどもの努力の結晶を、こんなふうに戦争に活かそうとする、自分を含めた大人たち。それが、とても情けなく、醜悪に思える。
舞と俺は、こんなことを望んで〈グラディエータ〉を作ったわけではない……だが、この国を守るため、そして俺と娘が生きるためには、こうしなければならない。
戦闘開始から二分、鈴自身も敵も潜伏して、なにも起きていない。ここまでの展開では恐らく、この大会トップクラスでつまらない試合だろう。
残り時間は三分、双方HPは100%。戦況は膠着状態に陥っていた。
「それなら……あんまり使いたくなかったけど、粒子探知式レーダーを起動して」
《ラジャー。PDR、レディ》
粒子探知式レーダー……これと、エグゾリウム・リアクターを装備しているのが、第三世代型BNの特徴。
エグゾリウム粒子を空気中に散布し、敵機のエグゾリウムリアクターの位置を計測する、第三世代型BNのみに有効なレーダー。
これを使うには光学迷彩を切る必要があるから使いたくなかったけど、もう仕方ない。
光学迷彩を解除し、頭頂部の装甲がスライドし、放出装置が露出する。
放出され、赤く輝くエグゾリウム粒子が周りを照らす。
《探知完了》
サーモグラフィーに酷似した画面に人型の影……敵機の姿が見えた。そこから、コンソールを操作し、データリンク。
「UAV、攻撃開始!」
空中で旋回させていたUAVに攻撃させる。それと同時に、探知されたことに感づいて動きそうな場所に向かって両肩の30mmガトリング砲、55mmアサルトライフル、頭部20mmチェーンガンの弾丸をばらまく。
辺り一帯を蛍光ピンクに染め上げるが、姿一つ映らない。
「ど、どこに行った――!?」
突如、HPバーが減少を始め、スクリーンが蛍光グリーンに塗りつぶされる。
《頭部センサーに着弾、ワイパーを作動させます》
「ま、まさか……上に跳んだの!?」
後ろから衝撃。
《背面ミサイルランチャーに着弾、破損判定》
「……! ミサイルランチャーを強制排除、それから――」
言い終える前に、〈メイジカスタム〉は地面に叩きつけられた。
HPは一割五分を切り、恐らく敵機に上から押さえつけられている。これは……詰みだ。かくなる上は……!
「〈パラレル〉、自爆よ!」
《最終確認。自爆シークエンスを開始しますか?》
「OK! カウント無しでやっちゃって!!」
ふっと、〈メイジカスタム〉のHPが消える。
おねがい……! せめてドローになって!!
だが。〈マリオネット〉のHPは……かすかに、一ドットのみ残ってしまった。
YOU ARE DEAD……『お前は死んだ』、そうシステムに告げられた。
『ぎゃはははは! アイツ俺のこと散々言ったくせに負けてやんの!』
マイクが拾った、大翔の品のない爆笑がスピーカーから響いたので、俺は音量を下げた。
まぁ大翔からしてみたら、試合で引き分けたことで散々いじってきた相手が負けたからスカッとしたのだろう。
だが、チームとして考えると、かなりまずい展開だ。次に出る星奈か、最後に出る俺のどちらかがあの斎藤と当たる。
少なくとも俺は無人機程度に負ける気はないが、斎藤と当たるとなると話はどうなるか。
そもそも相手の機体……〈シューター〉だったか、それのカスタム後のスペックはもちろん、基礎スペックすら知らない。
『切り札』や、発動するかしないか不安定なリンクシステムを使っても、勝てるかどうか……そもそも、相手の戦い方が全くわからない。
『お、鈴じゃん! どーですか? 引き分けた人を散々いじった後に負けた感想は?』
降りてきた鈴に向かって、大翔はギャーギャー騒ぐ。
『……うるさい、それにウザい』
『え? なになに? 聞こえなかったなぁ?』
『ウザいって言ってるでしょうがぁぁぁぁっ!!』
鈴は大翔の片腕を掴み、背中に乗せ、投げ飛ばす。つまり……一本背負い。
大翔は潰れたカエルのような声を出し、地面にキスした。
「……だめだこりゃ。ハル、どうする? これ、医者呼んだほうがいいかな?」
《……ほっといていいかと》
まぁ、自業自得だし……一理ある。
『そ、それじゃ私、出るよ』
星奈が、どこか歯切れ悪く言いながら、カタパルトに向かっていった。
まったく……一体どうなってるの?! 鈴はそう、コクピット内で強く思う。
ハルに勧められた不意打ち告白を試したら大和はフリーズしたし、光莉先輩はなんか倒れて救急搬送、龍三先輩もそれについて行っちゃったし、大翔と鈴は引き分けと負け。
散々な日……! このストレス、悪いけど対戦相手にぶつけさせてもらおう。
相手は無人機だから、どんだけぶちのめしても問題はないだろうし。相手が整備するのが大変になるだけで。
そう思いながら、機体の装備を確認する。
両腰に〈エクスカリバー〉と〈カリバーン〉、取り付け完了。
頭部20mmチェーンガンは装填完了、翼内試作大型粒子加速砲〈テンペスト〉充電率100%、そして右腕に試作粒子加速砲〈サイクロン〉、左腕に紅白に塗り分けられたヒーター・シールド。
確認を終え、カタパルトへ移動する。機体をうつ伏せに寝かせ、足裏と肩をカタパルトに連結する。
カタパルトのカウントダウンがゼロになると同時に、機体は蒸気の霧を切り裂き、射出された。
スラスターを起動し、空高く舞い上がる。
〈マリオネット〉の小さな姿が、スクリーンに映る。
「相手の装備は……対空装備ってこと?」
〈マリオネット〉は、こちらが空から強襲してくることを警戒してか、両肩、両腕、両腰にガトリング砲を取り付けた重装備。
だが、弾幕の届かないところから、一方的に撃てば問題ない。
「〈ミカン〉、〈テンペスト〉一番、二番展開!」
《ラジャー》
背中の翼から、二門の大砲を展開する。〈テンペスト〉二門、そして〈サイクロン〉の照準を合わせ、トリガーを引く。
薄桃色の閃光が一瞬で空間を駆け抜け、〈マリオネット〉に直撃コースを走り抜けた。
しかし、ビームは着弾する前に、〈マリオネット〉の手前で、幻のように消えてしまった。
「え!? な、何が……!?」
颯真は、コクピット内で持参したサーターアンダギーを食べながら、ニヤリと笑った。
「あのビームが何かは知らないけど、指向性エネルギー兵器エネルギー兵器なんだろ? だったら霧や砂埃でビームを散乱させてしまえば、すぐ減衰する。ましてやデュエル用に威力を下げてるんだ、なんとでもなる」
これを見越して、対空型〈マリオネット〉にはスモークディスチャージャーを複数装備させ、レーダーロックを受けるか、レーザー照準器のレーザーを感知すれば煙を出すようプログラムしておいた。
「……これは、勝ったな」
星奈は、少し混乱していた。
……え? なんでビームが消えたの? 充電は確実にしたのに……?
たしか米軍とかがエグゾリウム粒子を機体の周囲に放出させて、ビームを防ぐみたいな装備を開発していたっけ? もしかして、あれを積んであるのかな……?
「とりあえず……ビームが効かないのなら!」
ライフルを腰にしまい、〈エクスカリバー〉と〈カリバーン〉を引き抜いて、急降下。
「ヒートモード、起動!」
燃え盛る二振りの刃が、〈マリオネット〉に襲いかかる。
〈エクスカリバー〉を斬りつけるが、それを〈マリオネット〉は右のガトリング砲の砲身でパリイする。
それでも怯まず、〈カリバーン〉で〈マリオネット〉の右肩を断ち切り、左足で〈マリオネット〉を蹴り飛ばす。
「まだまだッ!」
スラスターを吹かして飛び上がり、更に追撃。
右の〈エクスカリバー〉で右下から逆袈裟斬り、左の〈カリバーン〉で左下から逆袈裟斬り。
〈エクスカリバー〉、〈カリバーン〉を垂直に振り下ろし、〈マリオネット〉の両腕を切り飛ばす。
そこからグルグルと機体をコマのように高速回転させ、二刀で斬り続ける。
一回転、二回転、三回転――四回転!
「これで……トドメだぁぁッ!!」
機体の上半身を弓のごとく引き絞り、〈エクスカリバー〉を矢のように叩き込む。
輪廻流剣術二刀流連続剣技〈鬼風乱舞〉。
〈マリオネット〉は沈黙し、地面に落ちてゆく。
YOU WIN。〈マリオネット〉が地面にクレーターをつくったと同時に、そうスクリーンに表示された。
『勝者、〈スター・ロード〉!!』
勝利の宣言が、数秒おくれて耳に届いた。
龍三は、手術室前の椅子に座り、落ち着けずにいた。
まだ、光莉の手術は終わっていない。
「神様……! こんな時しか頼らない現金な男ですけど、どうか、光莉を――彼女を、助けてください……!」
今の僕には、祈ることしかできなかった。
《次回予告》
星奈の勝利により、あと一勝すれば優勝が確定する。だが、敵は第五蒼天校のリーダー、颯真の駆る試作機、〈シューター〉!
颯真のたくらみは何か? 光莉先輩の容態は? B-X会議の結末は? そして……大和は颯真に勝ち、第四蒼天校は優勝できるのか?
動乱のchapter27、8月22日、午後六時~七時ごろ公開予定!!
薄氷は、まだ割れない。
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