Chapter 25 nightmare
day:8/3/2035 fri.
「救急です、患者はどこに!?」
「こっちです! 急いでください!」
大きな音を立て、光莉先輩はストレッチャーで運ばれてゆく。
「すみません、最低一人は同伴者をお願いします」
「僕が行きます」
「り、龍三先輩!? あなた、これからの試合は……!」
「すまない……ほっとけない。大翔、代理を頼む。戻れたらすぐに戻る」
「お、おう……」
龍三先輩も、それについて行ってしまった……
残された俺達で、勝てるのだろうか?
純アタッカーの星奈や、強襲メインで攻め込む俺はともかく、ステルス機能を活かして後ろから撃つ鈴や、狙撃・砲撃がメインの大翔は大丈夫なのだろうか。
本来の戦略は、斎藤を龍三先輩とぶつけてドローを狙い、俺、星奈、鈴、光莉先輩のうち誰かが勝てればよかった。
だが、あの試合を見た限り、かなりAIは強い。それに、あんな狭い場所では大翔の狙撃は活かせない。それに、このまま行けば俺か星奈が斎藤を相手にするしかなさそうだ。
このまま、勝てるかどうか……
『みなさん、お待たせいたしました! 次の試合は、〈シューティング・タイガー〉対〈マリオネット〉です!』
気がついたら、もう救急車が去ってから十分も経っていた。
「大翔、お前行けるか?」
「問題ねぇ、俺の〈スナイパーカスタム〉にも多少は近接戦用の装備くらいある。それに、多少装備を換装すりゃどうとでもなる」
「……頼んだぞ」
俺がそう言ったのを聞き、大翔はおどけて手を振りながら〈ソルジャー・スナイパーカスタム〉のコクピットに乗り込んだ。
〈スナイパーカスタム〉のコクピットの中で、大翔は装備の点検をしていた。
いつも使っている〈グングニル〉の砲身を狙撃用の長砲身から変更、銃剣をつけた通常砲身にし、両手に二丁装備。
予備の56mmカービンを腰の後ろのハードポイントに接続、腰の横にハンドカノンを二丁接続。
あと、各種予備弾倉もきっちりと。
準備は整った。ガチャンガチャンと足音を立て、〈スナイパーカスタム〉をカタパルトに乗せる。
今どき時代遅れの蒸気カタパルトが、〈スナイパーカスタム〉を投射した。
「いっくぜぇ!」
空中に飛び出し、カメラで敵機を探る。〈マリオネット〉は、背中に大型のガトリング砲を背負った火力特化型。それが、地面に轟音を立て着地した。
〈グングニル〉の充電残量――100%、砲身の冷却――完了、装填――完了。
FCSの補助を切り、手動でロックオンする。狙うは……一撃KOを狙える胴体、そして機動力を奪える腰部。
特徴的な発射音と電光とともに、砲弾は風を切り裂き、マッハ5で飛ぶ。
砲弾は敵機の右肩、左膝に命中。一気にHPを三割ほど奪い、機能を低下させる。
「何だ……? おかしい、確実に当たるコースだったんだが……?」
「あれ……もしかして」
鈴は、待機室のモニターに向かってつぶやいた。
あたしの知る限り、デュエルで行われる電子攻撃の種類は三つ。
一つ目は、強力な電波、あるいは高濃度のエグゾリウム粒子をばらまくこと。これにより通常型、および粒子探知式レーダーを無力化することができる。
ただ、これは周りの光を捉えるカメラに向かって、強烈な光を出すような仕組みだから、使えば自分の場所がすぐ相手にバレる。だから、あたしたちはほぼ使わない。
二つ目は、デコイを撒く。囮を大量に出して、本物の位置をわからなくさせることだ。これは、お金がかかるから乱発できない。
最後の三つ目――多分、今大翔が受けているものは、ハッキングだ。
相手の機体のメインコンピューターにウイルスを流し込み、無力化する。一番難易度が高く、そしてあたしたちがよく使う手段。
おそらく、〈スナイパーカスタム〉のスクリーン辺りにウイルスを仕込んで、周りの景色を歪ませている。
あたしだったら、自機の姿を画面から消すぐらいするけど……流石にそこまでは無理なようだ。
「ん? これ、画像歪んでねぇか?」
大翔はガトリングの砲弾を回避しながら、画面を見て気づいた。
緑色のHUDの水平線に対し、表示される地面や障害物に誤差がある。
競技場の地面はまっ平らだし、障害物は長方形の盾が地面に刺さっているだけ。本来直線であるはずの辺が、曲がって見える。
「俺の目がおかしい、ってのはなさそうだし……? どんな手品だ?」
まぁいい、誤差は大体わかった。
「〈ディアー〉、射撃モードを中距離用に変更、使用兵装は頭部20mm、〈グングニル〉、〈トライデント〉、肩部ガトリング砲だ! 手数で押すぞ!」
《ラジャー》
AI〈ディアー〉が返事をしたと同時に、HUDの表示が切り替わる。八つのレティクルを合わせ、トリガーを弾く。
耳をつんざくような轟音を撒き散らし、一斉砲火。
「うぉらぁぁッ!!」
さらに、相手の反撃を無視してそこから駆け出す。
弾幕を弾幕で相殺し、ペイントの霧を作り出す。
「こいつで仕舞いだぁっ!」
蛍光オレンジの霧の中心部に、両腕の〈グングニル〉を連射しながら突撃。双方、HPは残り一割を切っている。
狙撃なんてこの狭いフィールドでは出来ないのだから、とっとと押し切る!!
「刺されぇッ!!!!」
〈マリオネット〉も、腰からサーベル型の訓練用高振動単分子ブレードを引き抜き、こちらに向けて駆けてくる。
サーベルが刺さるのを無視して、胴体に〈グングニル〉を両方とも突き立てる。
充電残量――37%、冷却――今完了、装填――完了、残弾――残り一発!
両腕のトリガーを同時に押し込む。電光と銃声とともに、砲弾は砲身を駆け抜け、〈マリオネット〉の装甲に触れる。
二機は、着弾の衝撃で後方に吹き飛んだ。
「うおぉっ!?」
あわてて、俺は機体の体勢を整えようと、操縦桿を動かす。だが、機体は動かない。
〈ソルジャー・スナイパーカスタム〉、〈ソルジャー・マリオネット〉は、地面に叩きつけられ、双方とも動きを止めた。
HPバーの残量は――双方ゼロ。
〈DRAW〉――お前は引き分けたと、システムは伝えた。
「嘘だろ……! 引き分けぇっ?」
コクピット内で待機していた俺は、画面を見て思わず声を上げてしまった。
「いや、今のどう考えても大翔が先に削りきってただろ!」
見た限り、HPが削り切れる前に〈グングニル〉を撃っていた。あれなら大翔の勝ちだろ!!
《大和、落ち着いてください》
「ハル! だって……!」
《今の対戦の動画を、すこし巻き戻してスローで再生します》
ハルがリモコンを操作して、先の対戦を再び流す。
正面のメインスクリーンに、〈スナイパーカスタム〉が〈マリオネット〉に突撃するあたりから0.25倍速で再生される。
『刺されぇッ!!!!』
スローで響く、大翔の声。そして、〈グングニル〉二丁が〈マリオネット〉の胴体付近に刺さると同時に、〈マリオネット〉の握るサーベルが〈スナイパーカスタム〉の胴体辺りに刺さる。
〈グングニル〉二丁が火を吹き、二機はふっとばされる。この時点で、すでに〈マリオネット〉のHPはゼロ、〈スナイパーカスタム〉は一ドット残っているか残ってないか。
「あ!」
〈スナイパーカスタム〉の胴体には、まだサーベルが突き刺さっていた。
《おそらく、〈マリオネット〉のHPがゼロになった後のコンマ一秒以下の時間で、スリップダメージにより〈スナイパーカスタム〉のHPもゼロになったため、システムが引き分け判定をしたのかと》
…………
「嘘だろぉ……そりゃぁ無いよ……」
「はぁ……引き分けたか」
颯真は少し苛立ちながら、ため息を吐いた。無人機ではやはり難しいか……? 正直、銃剣突撃を敢行してくるだなんて、予想外だった。
「次の相手は……恐らくステルス型か」
経験上、勝率の高いアタッカーは、最初と最後に振り分けられる。
本来、光莉と龍三、そして一年生アタッカーコンビのどちらか片方がセットを取るという戦法だったのだろう。
それなら龍三の代理で入れられたスナイパーの次は、あのステルス機のはずだ。
「それなら……〈マリオネット〉三号機をC装備で出すか」
〈シューター〉のコクピットのタッチパネルを操作し、〈マリオネット〉三号機の装備を変更。
「さて、どうなるか?」
「つぎはあたしの番ね」
鈴はシートに腰掛け、ドリンクホルダーに入れていたレモネードを飲みながら言った。
『できたら勝って! 私や大和も頑張るけど、確実かどうかわかんないから!』
星奈からの通信が、スピーカーを通して伝わる。
「わかった。まぁどこかの狙撃を封じられた、役に立たなかった狙撃手さんみたいに焦らないから、気長に待ってなよ」
『だれが役に立たないスナイパーだぁ!?』という大翔の抗議は無視して、出撃準備を始める。
「〈パラレル〉、コクピットハッチ閉鎖。エアコンの温度は27.5℃。装備は〈アイギス〉と55mmアサルトライフル、背面にミサイルランチャーを二つ、UAVランチャーを一つ装備。両足に一つずつミサイルランチャーを装備、肩に30mmガトリング砲を装備」
《ラジャー》
ガチャン、ガチャンと音を立て、ガントリークレーンが装備をゆっくりと接続していく。その音を聞きながら、シートベルトを締める。
ヘッドギアを被り、ゆったりと体を伸ばす。
『次の試合は――』
陽気なアナウンスが、コクピットに響く。
「それじゃ、頑張りましょうか」
あたしは操縦桿を操り、〈メイジカスタム〉をカタパルトに乗せ、それが動き出すのを待った。
《次回予告》
無人機を駆る第五蒼天校チームとの決勝戦、第二試合。龍三先輩の代理で出撃した大翔は、無人機と引き分けてしまった。
残り二回勝たなければ敗北――その中、鈴は愛機〈ソルジャー・メイジカスタム〉に重火器を載せ、出撃する。
だが……相手も〈メイジカスタム〉のステルス性能を警戒し、出撃させたのはステルス機!?
ステルスVSステルス……勝負の行方は如何に!?
次回、〈chapter26 Toccata and Fugue〉。8/15日、午後6時ごろ公開予定。
薄氷は、まだ割れない。
面白かったらブックマーク、評価をお願いします!




