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Chapter 24 play-off

day:8/3/2035 fri.


「今から、決勝戦の作戦会議を開始します!」


 電子黒板の前で高らかに、光莉先輩が宣言した。


「まず……準決勝突破お疲れ様。歴代でここまで行けたのは今年が初めてよ。最初、四月の事件のせいで、スナイパーとハッカーが抜けたと聞いたときは、もうおしまいと思ってた」


「それに、光莉はその時、白血病の治療でアメリカの病院に入院してて、いつ退院できるかわかったもんじゃなかったしね。――それにしても、親の権限を借りて大和と星奈をこの部活に入れれてよかった……」


 龍三先輩がしみじみと頷く。え? この部活、俺達が入る前、そこまで切羽詰まってたんだ。龍三先輩が力ずくで俺達を入部させた理由がよく分かる。


「今回の対戦方式は『団体デュエル』、一対一の『デュエル』をして、先に三勝した方が勝ち」


 デュエル! 市街地戦や俺の得意な対戦方式だ。できたら、立体戦闘ができるようビルとかが設置されていると助かる。


「それじゃ、今回の相手の解説に行きましょうか……ハル、お願い」


 指名されたハルは席を立ち、電子黒板の前に立った。


「今回の対戦相手は沖縄の兄弟校、『国立第五蒼天大学附属学院』です。彼らは五機チームで、使用機体は私たちと同じ〈ソルジャー〉系列機だそうです」


 皆、固唾をのむ。俺達がここまで勝ち上がれたのは技量だけではなく、圧倒的なまでのスペック差にあったのだ。

 俺達が乗る〈ソルジャー〉はBNの世代では、第三世代型。

 それに対し、デュエルで主に運用されているのは〈ジャイアント〉や〈モンキー〉のような、先進国では退役寸前の第二世代型だ。

 第二世代型と第三世代型では、関節の可動域やコンピューターの処理速度など、雲泥の差がある。

 それに、現在〈ソルジャー〉系列機の運用が許可されているのは、俺達が通う『第四蒼天校』を含む、『蒼天五校』のみ。だから、スペック差がここまで激しかったのだ。


「相手も私たちと同様、去年の大会後から〈ソルジャー〉の運用を開始しています。なので、操作技術でもほぼ互角です」


「つまり、入れてるモーションデータと、手札を切る頭が勝敗を分ける――そういうことか?」


「はい、大和。その認識でよろしいかと。また、彼ら第五蒼天校も、現在開発中の試作機一機を受領しています」


 皆、驚き固まった。


「は、ハル? まさか、相手も〈グラディエータ〉を?」


 星奈が慌てて問う。


「いえ、〈グラディエータ〉ではありません。現在進行している『陸上自衛隊自機主力BN開発プロジェクト』のコンペティションに出されている、もう一つの機体……稲荷重工株式会社製造、XW-5〈シューター〉です」


 聞いたことのない機体名。〈シューター〉……意味は、『射手』か?


『そいつに関しちゃ、俺が説明してやる』


 突如、電子黒板に誠一郎博士の顔のアップが写った。


「「「「「「せ、誠一郎博士!?」」」」」」


「私が、予め呼んでおきました」


 驚きもせず、ハルが答える。そうなんだ……そういうことは、もう少し早く言ってほしかったなぁ……


『驚き終わったか? ガキども。そんじゃぁ今から解説してやる。この〈シューター〉は、簡単に言えば〈グラディエータ〉の対になるBNだ。〈グラディエータ〉は剣士をモチーフに設計したが、〈シューター〉はその逆……西部劇のガンマンが由来だ』


 画面に、試験用の、トリコロールに塗られた〈シューター〉の写真が映る。

 両腰に二丁のハンドカノン、手にはショットガン。かかとには車輪のような装備がついている。なるほど、確かにガンマンだ。


『〈グラディエータ〉が『相手が撃ってくる前に間合いを詰めて、叩き切る』ことを念頭に開発されたのとは逆に、『相手が撃つまえにこちらが撃つ』を極めた早撃ち専用機、それが〈シューター〉だ。一ヶ月前のコンペと同じなら、固定武装は頭部チェーンガン、腕部ガトリングガン、脚部高速移動装置〈ケンタウロス〉だったはずだが……多分、なんか増設されてる』


「相手の銃を構えてから撃つまでの時間は? うまく行きゃ狙撃できるかもしれねぇ」


「バカ、今回はフィールドが比較的狭い『デュエル』なんだから、アウトリガー出して狙撃したら、一発で場所バレして逃げ遅れるわ!」


 狙撃しようとした大翔は、鈴に叱られてしなしなにしおれてしまった。


『……参考までに言うが、前回のコンペだったら0.003秒だったはずだ』


「「「……!」」」


 俺と星奈、龍三先輩は顔を見合わせた。一号機二型と二号機二型には、0.00001秒の神速の抜刀術――俺達から取ったデータだから、源治さんの記録には遠く及ばない――『輪廻流抜刀術〈風神〉』のデータが入っている。

 タイミングさえ合えば、俺達二人は弾丸を切ることは理論上可能。そして、龍三先輩はその輪廻流の訓練を幼い頃から受けていた。だから、この三人ぐらいしかまともに戦える相手がいない。


「わかりました。他に欠点はありますか? 例えば改修前の〈グラディエータ〉がハッキングに弱かったみたいに」


 星奈が、ポンと手をたたき聞いてみる。


『う〜ん……すまん、見当たらん。だが、単純な力比べなら〈グラディエータ〉は〈シューター〉なんかにゃ負けねぇ。うまいことして近接戦に持ち込んでくれ!』


 部室内に、微妙な空気が流れた。おそらく、この場にいる全員があることを思っているだろう。『いや、その近接戦に持ち込む方法を教えてくれよ』と。


「誠一郎教授、ありがとうございました。わざわざ私たちのために……」


『いや、例なんていらねぇよ。ちょうどコンペの第二段があってな、こっちも〈シューター〉の欠点を見つけてぇんだ。頑張って打ち負かしてこい!』


 ハルが礼を言った後、誠一郎博士は通話を切った。


「そ、それを踏まえて出る順番を考えましょうか……」


 額に汗をかきながら、光莉先輩が会議を再開させた。





 試合開始の数分前、俺達六人は格納庫で、自分の機体に乗り込もうとしていた。


「あ゙ー、重い……」


 〈グラディエータ〉用の搭乗服は、重加速度対策だけではなく、耐熱、耐寒、防弾、防塵など様々な工夫が施されていた。そのため、とても重い。

 これを着続けたせいか、毎度のトレーニングのせいかどうかはわからないが、確実に入部前より筋肉はついている。腹筋も割れた。


「ねぇ、大和……」


「どうした? 星奈」


 後ろには、同型の搭乗服をまとった星奈がいた。


「昨日言えなかったことなんだけどさ、ちょっと耳貸してくれる?」


「? いいけど……?」


 星奈の唇が、かすかに俺の左耳に触れる。


「私、恋愛的な意味で、あなたが好きになってたみたい」


 !? !? !? !? !? !? !? !? !? !? !? !? !?

 俺の頭は、処理落ちした。なんだか顔が熱くなってくる。汗も大量に背中を伝う。


「それじゃ、急いで乗るよ? 時間ないんだから、早く!」


 しばらく、俺は彼女の方を直視できなかった。





『それでは、第十回全日本バトルノイド・デュエル大会九州予選決勝! 選手の紹介です!』


 スピーカーから大音量で、アナウンスが流れる。

『まずは第四蒼天校チーム! 純白の槍使い! エントリーネーム〈ブライト・ソング〉!」


 スタジアムの大画面には、太陽と白いドレス歌手をかたどったパーソナルマーク。光莉先輩のものだ。


「光莉先輩、芸名を使わなかったんですね」


『いやいや、私が第四蒼天校にいるってバレたら、色々面倒なことになるから』


 つまらなさそうに光莉先輩は返した。もう、バレてるみたいですけどね……


『次に、漆黒の格闘王! エントリーネーム〈シャドー・ワイバーン〉!』


 稲妻を掴む、黒い西洋竜。これは龍三先輩のパーソナルマーク。先輩方二人のマークは、初めて見た。

 俺達一年生は機体の左肩に描かれているが、先輩方のものにはなかったからだ(ちなみに、大翔の〈スナイパーカスタム〉には、右肩に『夜露死苦』と書かれている)。


『紅蓮の騎士王! エントリーネーム〈スター・ロード〉!』


 五芒星と王冠、それにクロスした二本の赤い片手剣。星奈のパーソナルマークだ。


『氷雪の大将軍! エントリーネーム〈ピース・パロット〉!」


 足で剣の柄を掴んだ、翼を広げた白い鳩。俺の考えた、俺のマーク。


『夕日の狙撃手! エントリーネーム〈シューティング・タイガー〉!』


 人ですら運ぶのに苦労する、対物ライフルを咥えた虎。大翔のパーソナルマーク。

 ちなみに、大翔は今回出場できない。理由は〈スナイパーカスタム〉に近接戦のデータを入れていない、そして人数制限のせいだ。

 そのため、一応補欠として待機していた。


『朝日の暗殺者! エントリーネーム〈サイバー・ベル〉!』


 キーボードと0と1、鐘。これは鈴のパーソナルマーク。

 これで、俺達の紹介は終了……というか、エントリーネームの前に言われた二つ名、正直恥ずかしい。

 いや、俺達が考えたパーソナルネームも同じようなものだけど……


『続いて、第五蒼天校チーム! まさかの搭乗者いらずの優れもの! 無人機〈ソルジャー・マリオネット〉四機!』


「『『『『『《えぇぇぇぇぇぇっ!?》』』』』』」


 うっそぉん……〈ソルジャー〉、無人機なの……?

 確かに大会規定には、無人機禁止とは書かれていなかった。だが、現在の技術では、AIはBNで人間に勝てない。BNは最近できた兵器だから、蓄積されたデータが少ないためだ。

 BNが実戦に使用されたのは、ロシア・ウクライナ戦争の終盤と、アメリカ・イランの紛争のみ。

 前の方では乱入してきた中華人民共和国がロシアの一部とウクライナを制圧したため、中国の名称が変わることになり、アメリカ・イラン紛争では米軍がイランを更地にした。

 だが、どちらでも(鹵獲された機体との戦闘などを除くと)BN同士での戦闘は記録上はない。

 文字通り学習するデータがほぼないのだ。だから、デュエルでは有人機を使うのが通例になっている。


『そして、魂なき鎧を操る道化師! 《クレイジー・ピエロ》!』


 一輪車に乗り、ジャグリングをするピエロ。これが斎藤のマークか。俺、小さい頃からピエロ苦手なんだよな……何だか少し、怖くて。

 ピエロが涙の化粧をしているのは、『観客の悲しみを引き受けているから』らしい。だがそれでも、あの白塗りの顔を好きにはなれない。

 それに、悲しみ程度、自分でなんとかする。だから、俺にはピエロは必要ない。


『まもなく勝負が始まります! 初戦の組み合わせは……〈ブライト・ソング〉対〈マリオネット〉!』


『それじゃ、私は行ってくるね』


 光莉先輩の〈ソルジャー・シーカー〉は、カタパルトに機体を接続する。このカタパルトは、BNをうつ伏せの体勢で、時速350kmで打ち出すらしい。


『五秒前、三! 二! 一! ゼロ!』


 カタパルトは、蒸気を噴き出しながら〈シーカー〉を射出した。






「くッ……」


 光莉は、カタパルトのGに苦しんでいた。

 三秒で時速350kmまで加速させるから、やはりきつい。多分、激しい機動を繰り返す、前衛三人にとっては日常茶飯時なのだろうが。

 暗い地下から飛び出て、カメラは空を写した。


「よし、今!」


 全身の関節のロックを解除し、制動をかける。

 両手両足を広げ、姿勢を変更させ、後ろから〈ブリューナク〉を引き抜き、地面を捉える。

  スクリーン正面に映るのは、ハルバードを構えた〈ソルジャー・マリオネット〉。


『スタート!』


 大会側の合図と同時に、横に跳びながらガトリングガンを乱射する。〈マリオネット〉もハルバードに備え付けられたマシンガンで応射してきた。

 遮蔽物の裏に逃げ込み、オレンジキャンディーの嵐を凌ぐ。


「操り人形のくせに、いちいち射撃が誠実ねぇ……!」


 さっきからガンガンガンガンと着弾音がうるさい。貫通されてもまずいので、そろそろ反撃に移ろうか。


「アレグロ、FCS、レーダー高出力ジャミング開始。モードを2.5に設定」


《ラジャー。ジャミング開始。モード2.5》


 指示を出してから、〈ブリューナク〉の、穂先の根本の移されたワイヤーガンを打ち込む。

 校則でワイヤーを巻き取りながら、頭部20mmと腕部45mmガトリングガンを発射して突っ込む。


「当たれぇっ!」


 〈ブリューナク〉を突き出す――が。

 ワイヤーを、〈マリオネット〉は断ち切った。空中で姿勢を崩し、機体は地面に突っ込む。


「痛った……あ!」


 慌てて機体を起こし、横に跳ぶ。多少被弾した。そのせいでHPが四割くらい減ってしまった。ガトリングの残弾は三千発ちょっと。

 相手の残りHPは五割。これなら……接近戦を仕掛けよう。

 走りながら後ろに回り込み、〈ブリューナク〉で急所――胴体、頭部を狙う。

 左マニピュレーターの中で柄を滑らせ、直線に突く。だが、それを読んだかのように〈マリオネット〉はかわし続ける。

 マリオネットはハルバードを振りかぶる。それを〈ブリューナク〉の柄で受け止める。

 ぎりぎりと火花を散らしながら攻撃を防ぐが、段々と押し込まれていく。


「それなら……!」


 〈シーカー〉は、右足で〈マリオネット〉の胴体をを蹴り飛ばし、腕のガトリングを連射する。

 〈マリオネット〉は、痙攣したようにピクピクと動いたが、沈黙した。


『勝者、〈ブライト・ソング〉!』


 勝利宣言を耳にした後、飛び出してきたカタパルトに戻り、よいしょよいしょと降りていった。





「ナイス、光莉!」


 龍三先輩が、ハンガーに着いた〈シーカー〉――光莉先輩の機体だ――に、声をかける。だが。


「先輩、なっかなか降りてこねぇな」


 大翔がつぶやいた。


「……まさか」


 龍三先輩は、血相を変えてハンガーを駆け上がっていく。


「ちょ、待ってください!」


 俺達四人も追いかける。だが、龍三先輩の速いこと速いこと。あっというまに階段を登りきり、機体のハッチを強制解放した。


「どうしたんです――え!?」


 コクピット内で、光莉先輩は吐血し、気絶していた。


「嘘だろ……心停止してる……! 大翔、AEDもってこい! 鈴は大会関係者に光莉が倒れたことを伝えて、大和と星奈は119番通報!」


「え、ちょ……突然言われても」


「早くしろ! 救命が一分遅れるだけで助かる可能性は10%も下がるんだ、急げ!!」


 龍三先輩の剣幕に押され、俺達は慌てて動き始める。


「鈴、AEDってどこにあるんだ!?」


「ドッグの入口の、右の壁!」


「OK、取ってくる!」


 大翔は慌てて駆け出す。


「星奈、スマホ持ってるか!?」


「いいえ、二号機二型のGで壊れるかもしれないからホテルにおいてきた」


「畜生……どうすりゃいいんだ」


《問題ありません。もうすでに通報済みです。残り三分以内に付近の救急車が到着します》


「「ハル!」」


 ナイス! 仕事早いな!!


「龍三先輩、通報完了! 三分持てばなんとかなる!!」


「わかった……またなのか……寛解したんじゃなかったのか!?」


 そういえば……光莉先輩は急性骨髄性白血病、略称AMLだったから、海外で入院していたんだっけ。え? 治ってなかったの!?


「AED、持ってきたぜ!」


 大翔が、やっとAEDを持って戻ってきた。


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