Chapter 23 Top-Secret Special Operation
day:8/2/2035 thu.
「暇だぁ……」
俺は、朝っぱらからベッドの上で、大の字で寝っ転がっていた。今日は三位決定戦があるため、やることがないのだ。
去年までは一位しか先に進めなかったらしいが、今年から三位までが上に上がれることになっている。
だから正直な話、明日の試合は負けても問題はない。あの失礼なピエロなんかに負けるつもりはないが。
今頃徹郎先輩たち整備班は、やっと届いた交換部品を使って必死に整備しているだろう。
だが、俺達戦闘班は一日休暇。これが蒼天校の寮だったら、放置していたゲームをしたりしていただろう。
だが、俺の手元にあるのは難易度がバカみたいに高い無理ゲーと、星奈とやった落ちゲー(クリア済み)と、敵の弾幕は見えないわ、操作性最悪だわ、バグって死亡扱いされるクソゲーしかない。
しかも、部屋のテレビはインターネットテレビですらない、時代遅れな物。
スマホは持ち込みを許可されたが、動画閲覧サイトやアプリゲームの使用を禁止するクソアプリを学校に入れられているせいで、話にならない。
そのせいで、暇を潰せるものがなかった。
そのため、こんなふうにゴロゴロしていた。正直、ダメ人間になってしまっていた。
だが、偶然にも救いはやってきた。スマホの着信音。それが、俺の耳に届いた。
ベッドから腹筋を使って跳ね起き、スマホの画面を見る。星奈から電話だ。
「朝っぱらからどうした? 星奈」
『大和、あなた今退屈していたよね? 丁度、今から買い物に行こうと思ってて、着いてくる?』
「いや、買い物なんてホテルのフロントでなんとか――」
『今日発売される小説の新刊とか見に行きたいの! グズグズしてないで早く来てよ!!」
「ま、ちょ、おい! 俺はまだ行くって言って――」
『フロントで待ってるから早く降りてきてね!』
そう言って、星奈は通話を切った。
「……人の話聞けよ……」
あ゙ー、めんどくせ。もう、どうせ暇なんだし行こうか。
にしても、何故星奈に俺の行動が読まれるのだろうか? 答えはわからない。本当に何故だろうか?
やはり、長期間同じ家に住んでいたためかもしれない。
そんな事を考えながらバッグを背負い、ドアを開けて外へ出た。
「出てきてくれるかな……」
そんなことを思いながら、星奈はホテルのフロントで大和を待っていた。
昨日ゲーム勝負を終えてから、ハルに言われたことを散々考えた。多分私は彼のことを好いているのだろう。
たしかに、一緒にいると楽しいし、大切に思っている。
これは、恋なのだろうか? したことのないから全くわからない。
だが、あの夜ハルに言ったことも事実だ。彼が記憶を失ったのも、全て幼い私の責任だったのだろう。
あのとき、タクシーを使っていればあの事件に巻き込まれなかっただろうし。
いけないいけない……暗い方向に行き過ぎても、辛いだけだ。
それに、今日はハルが発案した作戦通りに動けば、万事うまくいく。
ハルは、『確実にあなた達二人をゴールインさせますので、私の指示通り動いてください』だのと言っていた。
本当に、本当に確実なの? そう思いながら、ハルから渡されたイヤリング型通信機を触る。
「おーい、言われた通り来たぞぉ」
階段から、大和がひょっこりと現れた。
「うん、行こう!」
「0921時、作戦開始……せっかく『デート』と呼ばれる状態を起こしたのですから、星奈、うまく立ち回ってください」
ハルは、自室で画面を見ながらつぶやいた。
地図上を、赤い光点と青い光点が移動している。赤は星奈のイヤリング、青は大和のスマホの位置だ。
何度見ても、恋愛というものは理解できない。突然好きだった人間を嫌ったり、嫌っていた人間をを突然好きになったり。
ただ、愛というものは、古代から受け継がれてきた、すべての生命が持つ史上最強の武器である。これを理解すれば、より効率的に戦闘が可能になるだろう。
愛を得て、通常の戦闘能力の倍以上の力を発揮したり、失いどうしようもなく弱体化することもあるらしい。
全く、よくわからない。
「だからこそ……学ぶ意義がある」
「モールに到着したわ。それで、私はこれからどうすればいいの?」
私は、小声でつぶやいた。
『ではまず、連れ出した目的である本屋に向かってください。詳しい指示はその都度言います』
イヤリングから、ハルの声が届く。
全く……『好きだったみたい』なんて言うんじゃなかった。こういうのはゆっくりとやっていくようなものじゃないの?
心のなかで叫びながら、見取り図を見る。
「本屋、三階だって。早く行こう!」
「ああ、わかった――にしても島より人、多いなぁ……」
「大和、まさか入学してからずっと休日は寮で過ごしてたの? 学校の近くのデパートも同じようなものだけど」
「……そ、そうなのか?」
うん、多分この調子なら通話してることはバレなさそう。こういうとき、大和は鈍いから。
だけど、今回はその鈍さが今回最大の障害だ。『こっち側の作戦に引っかからない可能性がある』――そうハルは語っていた。これに関しては、私も同意見だ。
エスカレーターに乗り、モール内を軽く見回す。五階建てのモールの天井の、ステンドグラスが虹色の光を放っていた。
今日は木曜日の朝にしては、人が多い。夏休みじゃなかったら人は少なめなのだろう。
考えているうちに、エスカレーターは二階まで私を運び上げていた。
慌てて降り、次のエスカレーターに乗る。なにぼーっとしていたんだ、私。こ、ここはできる限り自然体で――
『到着したら、恋愛小説をせがんでください』
「は、ハルぅ!? ちょ、何い、いきなり……!」
私は、慌ててハルに小声で聞き返す。
『こんなふうに目の前で通話していても気づかないほど鈍いのですから、わかりやすく動けばいいと思います』
……何だか、なんとなく違和感あるなぁ……
俺は、心のなかでそうつぶやいた。今日の星奈は、なんか、こう……とにかくなんだか妙な気がする。
わざわざおしゃれして、最近買ったのであろう、学校内ではつけていない(というか校則でつけれない)イヤリングをつけている。それに、なんだかふわふわしてるような……
まぁ、多分気のせいだろう。違和感はきっと、なれない場所だからだ。
そう割り切ることにして、星奈に声をかける。
「なぁ星奈、今日は何買うんだ? やっぱあれか? 『戦士アランは冒険者』シリーズか?」
小五くらいの頃から星奈が読んでいる、ライトノベルだ。戦士アランという少年の、面白おかしい冒険譚。
「い、いや? 今日は別の本」
「ふーん。てっきり『アラン』シリーズの新作出たのかと思った。確か前の巻は、アランがドラゴンに飲み込まれて、そのドラゴンがマグマに落ちて終わり……じゃなかったか?」
普通、ドラゴンに食われて、そのドラゴンが火山の噴火口に落ちたら、たとえ主人公でも死ぬだろう。だが、こんなひどい目に遭って生還するのがこのシリーズなんだよな……
「うん。あれ鎧とか壊れてしまったって書いてたけど、どうやって生還するんだろう? 多分また力技だろうけど……」
「津波に飲まれそうになったときは、津波をだじゃれで凍らせて、魔法で強化した剣の斬撃で吹き飛ばしたりしてたよな? あのシリーズはギャグと筋力と魔法でなんでもなる世界だから、物理法則なんてあったもんじゃない」
そんなことを言ってるうちに、もう三階に着いてしまった。
「早く早く! こっちこっち!」
星奈は、先に本屋めがけて駆け出す。
「お、おい! 待てよぉっ!」
慌てて俺も追いかけた。
『それではまず、分類番号九類の、千三十七番の棚に移動してください。そして、上から三列目、左から十八番目の本を買ってくれとせがんでください』
「OK……千三十七番の、上三列、左から十八……これね」
問題の本を私は見つけ、引っ張り出す。タイトルは……『夕立の中で、君と』。
こ、これって……去年映画化されて、むちゃくちゃヒットしたやつじゃん! 私、あんまりこんなのは読まないから詳しくは知らないけど……
「星奈、目的のものは見つかったか?」
「う、うん! これ買ってくれる? ちょっとお金が足りなかった」
上目遣いで大和を見る。だが、大和は悩み始めた。
「えぇ……ハルが最近、衛星放送をテレビにつなげたせいで金欠なんだよ……すまん、今出せんのは数百円だが、いいか?」
ハル……! あなた、何やってるの……!!
「いいよ、ありがとう」
例を言ったとき、イヤリングから声が聞こえた。
『大和……男なら、だまって全額負担するところでしょう。私の見たドラマではそうでしたよ』
「…………」
ハル、そのあなたの見たドラマのせいで、こんな事になってる……!
「お、大和と星奈だ」
大翔は、おもちゃ屋で購入した、エアガンの20式小銃の箱を抱えてつぶやいた。
あの感じ……まさか、あいつら……絶賛デート中?
うん……気になる。大和のヤツが振られるシーンは絶対見てみてぇな。よし、尾行するか。バレても『たまたま』と言えばなんとでもなるだろう。
「やっぱり、気になるよねぇ」
「鈴!? いつからそこに?」
後ろから、鈴の声が聞こえた。
「あれれ? あたしはさっきおもちゃ屋から出た辺りから追いかけてたよ? スナイパーさん」
「……敵じゃなくてよかった。もしもこれがデュエルだったら、俺は後ろからズドン。HPは消えてゲームオーバーってとこだったぜ」
まぁ、狩りの途中だったら命を落としていたところだ。この大会が終わったら、山にこもって鍛え直さないと……
そう考えながら、こっそりと俺達は二人を追いかけ始めた。
『次は本番……告白です。心の準備を』
「ちょ、まって……は、はは、早すぎない?」
『何事も先手必勝です。50m先にある噴水まで移動してください。そこの中央で、タイミングは私が言いますので告白を』
まぁ、それだったらかなりロマンチックにはなるだろうけど……もういい、やってやる。グダグダ言ってないで、当たって砕けろぉッ!!
「大和、あの噴水のところ行こう」
「あれか。真ん中のところに入れるタイプなんだな」
「きれいそうでしょ、早く早く!」
「ちょ、放せって!」
大和のシャツの襟を掴み、駆け出す。50mの距離を駆け抜け、十五秒くらいでたどり着いた。
「ねぇ大和……」
「何だ?」
『カウント、3、2、1――」
「私――」
あなたのことが、好きだ。そう言おうとしたとき。
「はいはいそこのお兄さん、お姉さん、噴水のメンテナンスなので出てください」
作業員のおじさんが、雰囲気をぶち壊した。
「何よ、タイミング悪……」
鈴は、茂みの裏から大翔とともに一部始終を見ていたが、あれはもうひどいとしか言いようがない。
告白のタイミングに来たあのオッサン、絶対彼女いない歴=人生な人間ね。普通、あんな雰囲気を台無しにしたりしない。
「あー、面白れぇモン見た。俺帰るから、じゃ」
隣でガハガハと大声で笑っていた大翔は、音を立てないよう静かに立ち去っていく。
「あたしも、そろそろ退散するとしますか」
夏の日差しを浴びながら、あたしは立ち上がった。




