Chapter 22 A Cat's Warning, a Clown's Visit
day:8/1/2035 wed
「大和、いる?」
星奈は、準決勝突破の宴のあと、大和の部屋のドアのインターホンを押して言った。
だが、反応はない。インターホンが壊れているのだろうか? そう思い、数秒待ってからもう一度押す。
また無反応。
「……いるなら、ふざけないで出てきてよ……!」
少し苛つくが、落ち着け。落ち着け。私はもう小学生じゃないんだし、『大人の余裕』を持つべきだ。
「どうしました?」
突然後ろから声を掛けられ、慌てて振り向く。そこには、風呂上がりでタオルを首から下げ、いちごミルクを持ったハルが居た。
「なんだ……後ろから急に声掛けられて、むちゃくちゃびっくりしたよ!」
「すみません。部屋に戻る途中で、見かけたもので。少し話す時間をもらえますか?」
「……まぁ、いいけど……」
「では、展望室辺りに行きましょう」
そう言って、ハルは私の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。
「ん? 何だ?」
トイレから出た俺は、インターフォンのランプがピカピカ点滅しているのを見て、つぶやいた。
インターフォンのボタンを押して見ると、数分前の履歴には星奈の姿が見える。丁度俺が便秘で苦しんでいた頃だ。何をしに来たのだろうか? 今は夜八時だが。
「まぁいいや……ゲームしよ」
ポーズしていたゲーム機を手に取る。だが、そこには恐ろしい事実があった。
「で、で、で、で……電池が切れてるぅっ!?」
「それで、話って何? これ終わってから行きたいところがあるから、できたら手短に」
私は、展望台のベンチに腰掛け、ハルに言った。
「はい。話というのは、この前の戦闘の話です」
「どれ?」
「あの〈天使事件〉のときの戦闘です。あれ以降で、頭痛が突然起こったりなど、していませんか?」
〈天使事件〉――あの、私たちの第四蒼天校で起きた、二つ目のテロ事件。同じ年に、同じ学校で連続して事件が起こったため、結構話題になった。
私の二号機が操作を乗っ取られ、大和が(二号機をコクピット、動力炉以外大破という状態にして)私を助けてくれた、あの事件。
「いや? 頭痛はしてないよ」
「では、何か妙な夢を見たり、記憶が一部欠損していたりすることは?」
「……それは……」
している。二号機が乗っ取られてから、病室で目覚めるまでの記憶は飛んでいるし、たしかに妙な夢を見たりしている。
私が見たこともないBNに乗り、〈グラディエータ〉に似た、だが無印〈グラディエータ〉でも、一号機二型、二号機二型でもないBNと戦う、妙にリアルな夢。
「やはり、ですか……そのことは、誰かに話していますか?」
「いいや? 誰にも話してない。記憶喪失の方は大和は気づいてるっぽいけど……」
まぁ、本で読んだ話だが、人間はとても怖かった体験を忘れたりするらしいし、『妙にリアルな夢を見た』と親や先生に相談するのも滑稽だ。
「ならいいです。大和に対しては私が口止めしますので、あなたもその件は他言無用でお願いします。」
「え? どういう」
「他言無用でお願いします」
「は、ハイ……」
……今のハル、かなり圧が強かった。まだ心臓がバクバクする。あの感じ、絶対言ったらやばそう。というか、なにか意味があるのだろうか?
「もう一つ、個人的に聞きたいことが」
「何?」
「あなたは、大和のことをどう思ってますか?」
!? 突然何?! ハルの口調はいつも通りの硬いものだし、変な意味は無さそうだけど……
「と、とと、突然何?」
やばい、焦って舌噛んじゃった……
「いえ、最近私は、『恋愛もの』と呼ばれるドラマを見ておりまして。近場だと、龍三先輩と光莉先輩が恋人であることは学校内で有名な話じゃないですか? 星奈、あなたは大和の方をたまに見ていたりして、てっきり恋愛感情を抱いて――」
「そ、そういう事は人に聞くもんじゃありません!」
突然何を言い出すかと思えば、そ、そそ、そんなこと……! わ、私はあの、その……保護者代わりとしてみま、見守ってるだけで……!!
「……本当ですか?」
「本当!」
「……わかりました。あなたが実際に『恋』とやらをしているのならば、教えてください。その場合私は多角的な支援をすることを約束いたします」
「もういい! この話終了!」
完全にパニックになった私は、階段から下の階へ降りていった。
「……しっかし、こいつ充電式じゃないのがネックだな。ランニングコストがバカになんねぇ」
俺は、ホテルの売店で単三形乾電池を買い、部屋に戻っていた。
それにしても、このゲーム機は不便だ。
昔のものだから仕方ないが、セーブは出来ない、電池は合計三十時間くらい使用すれば切れるし、チュートリアルもない。
長所なんて、耐久性くらいだろう。
昔ニュースで見たが、湾岸戦争で爆撃を受けたが、外側が焼けただけで動いたとかいう、訳のわからない逸話があるらしい。
まぁ、多分宣伝のための与太話だろうけど。それにしても、爆破されても動くゲーム機って何なんだよ。
まだ、『川に落としたけど動いた!』だの『三階から落としたけど動いた!』ってレベルの話なら信じられるけど……爆破されても、って。
そんなの、ほぼ確実にありえない。
そう思いながら、電池と一緒に買った、あんこを上に乗っけた、抹茶味のソフトクリームをを舐める。
うん、うまい。
「おいしそうだね、それ」
「!? 誰だ!?」
驚いて後ろを振り向くと、そこには人を食ったような笑みを浮かべた、浅黒い肌の男が居た。年齢は、多分龍三先輩と同じくらい。
まぁ、俺のこの手の推測は外れることの多いのだが。
「ああ、挨拶がまだだったね。僕は斎藤颯真。明後日の決勝で君たちと戦う、第五蒼天校のキャプテンだ。やっぱり、敵エースの様子は見ておきたくてね」
第五蒼天校。第四蒼天校の兄弟校で、たしか沖縄の学校だったか。それにしては、彼は方言を出していない。
「ウチのエースは俺じゃなくて、龍三先輩だぞ」
「それは知ってる。やつに関してのデータは一通り揃えてるから。でも、君や星奈さん、大翔さん、鈴さんみたいな一年生に対しては、去年のデータは使えない」
こいつ……なんだか、油断できない感じの人だ。気を抜いて相手のペースに巻き込まれたら、情報を気づかせずに取っていきそう。
「見た感じ……君はせいぜい三流程度か。期待してがっかりしたよ」
……我慢、我慢しろ。何としても。これは俺をキレさせるのが目的だ。
「……少なくとも、忍耐力はあるか。それじゃまた」
むかつく道化は、コツコツと靴の音を立て、どこかへ去っていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私は、階段で息を荒げていた。パニックになって、慌てて階段を駆け下りたせいだ。
それにしても……『大和のことをどう思ってるか?』あれは、その……あの一件のこともあるから放って置けない、というか、なんというか……
駄目だ。まだ落ち着いていない。そうだ! 早く自分の部屋に戻って、とりあえず落ち着こう。残念だけど対戦は諦め……
「ん? 星奈、どうしたんだ?」
最悪だ。よりによって今一番気まずい相手……大和がやってきた。
「え、あ、その……上で、ハルに呼ばれて少し話ししてた」
「ふーん。そう。顔赤いぞ?」
「え!? な、なんでもないよ!」
「この暑さで熱中症になったらヤバいからさ、ほら、こいつやるよ」
大和は、手に下げたエコバッグからコーラの缶を取り出し、私に向かって放り投げた。それを、胸の前で両手でキャッチする。
それにしても、良かった……なんとか勘違いしてくれた。
ホントのこと気づかれたら、逃げ出してたかも。
「ありがとう……あ、そうだ! この前渡したゲームやろ」
「あれか? あのセーブも出来ないレトロゲーム。対戦なんて上等なこと、できんの?」
「通信ケーブル合ったけど、それ持ってないの?」
「あぁ……やべ、寮に置いてきちまった」
「それなら、私のやつ使ってやろうよ!」
「……わかった。お手柔らかに頼むぞ」
そして、しばらくの間、私は大和と落ちゲーを楽しんだ。大和は自分のキャラクターをレベルアップさせることを知らなかったため、そしてパスワードのことを知ったのが今日だったため、私の圧勝に終わった。
「く、くっそぉ……次は絶対、勝ってやるっ!!」
夏の大三角が輝く夜の空に、大和の捨て台詞が響いた。




