Chapter 21 Raider
day:8/1/2035 wed.
「こちらドルフィン1、敵の陣地を発見したからドルフィン5、作戦通りお願い。荒らし終わったら見つけた敵を片っ端から狙撃して」
『了解! 『お宝』と味方を誤射しねぇように気ぃつける!』
大丈夫かしら。そう光莉は思う。大翔は演習では、相手が見えてさえいれば百発百中で当てるが、見えてないときは容赦なく味方まで巻き込むことが多い。
次だ、次。
「ドルフィン3、4、今からそっちに砲弾飛んでくるから当たんないように注意」
『嘘だろ、大翔のやつまたぶっ放したんですか!?』
『うえぇ……』
それぞれ大和、星奈の順に至極嫌そうな声を返した。
「私の指示だから問題ないわ。ドルフィン2、6は座標X812、Y811、Z−085のボックスの回収を。私は座標X513、Y901、Z-005のやつを回収しに行く」
『ドルフィン2了解。にしても地中8.5mに埋まってるのか。掘るのが大変そうだ……地面を殴っていけばすぐか?』
『ドルフィン6了解……襲われないよう気をつけてくださいね』
十人十色――と言っても六人しかいないが――の返事をすべて聞き終え、〈シーカー〉を走らせる。
私や龍三の〈シーカー〉は、先のオーバーホールで変更された点はほぼない。強いて言えば私の〈シーカー〉の腕部ワイヤーガンがガトリングガンに換装されたことくらいか。
《目標まで、残り500m》
「ありがとう、〈アレグロ〉。周りに敵は?」
《現在把握できる範囲では、1km先に敵機が五機》
「わかった。データリンクで味方にデータを共有して》
《ラジャー》
全く。無愛想なものだ。私が見た限り、一部を除いてAIはほぼ全てそうなのだが。その一部の例外――ハルについても、いくつか疑問が残る。
まず、自然すぎる。どうもハルの動きはAIというよりか、人間の方に近い気がする。ゲーム機を大和に取り上げられて逆ギレしたり、やけに食い意地が張っていたりするし……
あと、いつ作られたのだろうか? 四月の事件のときに大和達が乗ったBNは、この〈シーカー〉だったので、帰国するときの飛行機の機内でミッションレコーダーの記録を見た。
内容はよく覚えている。一般の人を守ろうとしたために、龍三がボコボコにされたのが印象に残ったのと、大和に関する違和感があったから。
あのとき、大和は『存在しないはずの、自分の登録データ』を呼び出し、ハルをこの機体にダウンロードさせた。今でも、その気になればハルを呼び出すことができる。
本来登録データはBN部に入部し、数日経ってから作られる。それなのに、何故彼のデータはあったのだろうか?
《目的地点に到着》
思考の海に沈んでいた私を、〈アレグロ〉が引き上げる。
「あ、もう着いたの……それじゃ、穴掘り開始っと」
〈ブリューナク〉の穂先を、地面につきたてスコップ代わりに掘ってゆく。久しぶりに使ってこの扱いはあんまりだろうとは思うが、まぁ仕方ない。
ザクザクと掘っていくと、メタリックレッドに塗装されたコンテナが、土の中から顔を出した。
慎重に、そして念入りに傷つけないよう細心の注意をはらい、掘り進める。
三分ほどで、全体の三分の一程度が陽の光を浴びた。それを見て、箱を両手で掴む。
「どっこいしょぉっ!」
〈シーカー〉の、第二世代型の〈ジャイアント〉や同型の〈ソルジャー〉よりも強化された腕力は、いとも容易く箱を引き上げた。
箱の方向を変えてから、ドスンと地面に置き、〈シーカー〉の背中のハードポイントで〈シーカー〉本体と箱を接続する。
「あとは、これを背負って、敵さんに見つかんないようにしながら、陣地まで運ぶだけ……っと」
ガチャガチャと通常時の1.5倍の騒音を立て、〈シーカー〉は元来た方向に走っていった。
その〈モンキー〉の操縦者は、コンテナを回収し終わったため完全に気を緩めていた。
「これ終わったら、みんなでケーキでもいただきましょうか」
ホテルのスイーツがとても美味しいと話題で、勝ってからそれを食べればとても楽しめるであろう……そう考えていた。
軽い足取り(実際のところ、中国製の〈モンキー〉はドスドスと大きな音を立てて歩くのだが)で陣地に戻ったその操縦者は、違和感に気づかない。
待機しているはずの電子戦機一機と砲撃機一機の姿が、どこにもないことに。
《警告、警告、警告――》
「え、何?」
ゆったりと後ろを振り返る。そこに居たのは、アサルトライフルを構えた白と濃紺の武士のようなBN。その姿を捉えた途端、相手の銃が三度吠え、正面のスクリーンが一度の強烈な衝撃とともにブラックアウトした。
おそらく、砲弾が頭部に命中し、頭部がシステムに『破壊』判定されたのだろう。
HPバーは一気に7割もなくなってしまった。
「こちらダイヤ8! 敵BNが陣地に、陣地――」
『騒ぐな。まぁ騒いだところでアンテナも『破壊』したから、無線はどうせ飛ばないんだけど』
横のスクリーンで見ると、そこには明らかに自機のものではない腕。それには刀のような高振動単分子ブレードが握られていた。
その切っ先は、〈モンキー〉の腹に向いている。どうやら、後ろから組み付いて刀を向けているようだ。
『俺としては、整備の手間を省きたいからとっとと降参してほしいんだ。前に切った三人は全員歯向かってきたけど、どうする?』
「そうですね……答えは――」
そう言いながら、スカートの下に隠した『尻尾』――チェーンブレードを跳ね上げ、股下を狙う。
だが、尻尾は途中から動かない。
『あぁ、やっぱ反撃を選ぶんだ。残念だけど組み付いたときに『尻尾』は踏んだんだ。それじゃ……』
相手のBNは刀を振りかぶる。
『バイバイ』
刀は脇腹をぶっ叩き、残り僅かなHPをゼロにした。
「こちらドルフィン4、敵BNを制圧。ご苦労なことに『宝箱』を運んできてくれていた。ドルフィン3はブツの回収を頼む。ついでに50mmの予備弾倉を三つくらい頼む」
『はいはいっと……にしても、私だって戦いたかったなぁ……』
「しゃぁねえだろ、お前の二号機二型はスラスターが不調なんだから。俺の一号機だって部品交換が済んでないから、待ち伏せしかやれないんだ」
無線で星奈にそう言って、俺は〈モンキー〉に接続されたコンテナを、力ずくで引っ剥がして、陣地の中央に置く。
その後、〈モンキー〉を林の中に引きずって、迷彩マントを掛け木々の合間に隠す。
〈ライキリ〉についたオイルの返り血を振り落とし、鞘に収めた。そして、ライフルの空になった弾倉を地面に落とし、腰の後ろ、ダガーの下にマウントしてある予備弾倉をライフルに突っ込み、コッキング。
《会敵して三十五秒。先程よりも早くなっていますね》
「いや……十五発撃って五発しか当たってないし、あんなふうにカッコつけずに撃つなり切るなりした方が良かった気がする……」
《いえ。投降を呼びかけるのは自衛隊として考えると良い判断かと。……流石に、視界を奪ってからすることではありませんが》
「わかった。そんじゃ次は、出会い頭にいきなり胴体を狙うか」
詳しいことは知らんが、奇襲っていうのはこんな攻撃なんだろう。多分。だから問題はない。
「目標タイムは二十秒! ハル、見えたらカウント開始だ」
《ラジャー》
そんな事を話しながら、一号機二型は〈モンキー〉を盾にして、林の中に隠れた。
俺に課せられた司令は、『敵陣地を壊滅させ、のこのこと帰ってきた敵機を確実に倒し、〈宝箱〉を強奪しろ』。やっていることは完全に押し込み強盗だ。
最初に陣地を制圧したときにHPが四割くらい削れて以降、今のところノーダメージ。弾薬の残りは今入れた弾倉一つ分のみ。
弾倉一つに三十発。できる限り温存しても、あと二、三機と戦闘すれば使い果たしてしまう。それに頭部20mmの残弾も心許ない。
その代わり、今日はここを強襲したときと、空で加速したとき以外スラスターを吹いていないので推進剤には余裕がある。
「早く、どっちでもいいから来ないかな?」
『これで、後は拠点に戻るだけ……』
またあるところでは、近接型の〈モンキー〉が箱を持ち帰ろうとしていたところだった。もう、味方は自分を含めて二人しか居ないことを知らずに。
「見つけた。〈パラレル〉、ステルスモード起動。モード3に設定。ジャミング開始」
鈴は、画面に映る敵機を注視し、外部マイクが拾った音を聞きながら、機体のAIに命令する。
《ラジャー。ウエポン3アクティベート、バトルモード3、レーダージャミング。レディ》
〈ソルジャー・メイジカスタム〉背面コンテナの上から、黒いマントがせり出す。マントは機体全体を覆い、光学迷彩を開始する。
音をごまかすことは無理なので、リアクターを一時的に切って、コンデンサに予めためておいた予備電力で、忍び足で近づく。
この状態なら、貧弱な〈モンキー〉の搭載機器ではこの機体を捉えることはまず出来ない。光だけではなく、赤外線や電波まで高いレベルでそらすことが可能だからだ。この機体を探し出したいのなら、粒子探知式レーダーを搭載している第三世代型――〈ソルジャー〉や〈グラディエータ〉などを持ってくる必要があるだろう。
「あと少し……あと少し……今!」
〈モンキー〉が後ろを向き、コンテナを背負おうとしたその時。〈アイギス〉に内蔵されてあるマシンガンが火を吹いた。
『え、ちょ、な――』
相手に状況を理解させる間も与えず、相手の〈モンキー〉のご自慢の、ピンクの装甲を蛍光グリーンで塗りつぶしてやった。
「こちらドルフィン6! 一機撃破、コンテナ奪取成功!」
龍三の〈シーカー〉は、相手のコンテナを背負った〈モンキー〉を追っかけ回していた。
「止まらないと撃つぞぉ!」
まぁ、もう頭部20mmとマシンガンを乱射しているのだが。
《まもなく弾切れです》
〈ホーネット〉の声を聞き、タッチパネルに目を移す。残弾は頭部20mmが百五十二発、マシンガンが二百十三発。このままフルオートで乱射してたらすぐ弾切れになってしまう。
「だったら!」
ワイヤーガンを敵機の腰に打ち込み、跳ぶ。ワイヤーの巻き取りにより一気に接近する。弾幕を〈ストライカー〉の盾でいなし、チェーンブレードを引っ掴む。
「食らいやがれぇっ!」
〈ストライカー〉で相手の胴体を鷲掴みにし、地面に頭から植え付ける。
輪廻流格闘術〈植樹〉。人間相手にやってはいけない技だ。やったら無期懲役が確定する。
「まだまだっ!!」
そこまでやっても、まだHPが三割残っていたので、〈ストライカー〉のパイルドライバーを打ち込む。
当たり前の話だが、相手のHPを完全に削り取り、飾りのスカートはズタズタになっていた。
「……少し、熱くなりすぎたか?」
少しずれてしまっていた眼鏡を、左手で押し上げた。
星奈は、コクピットの中でだいぶ苛立っていた。何故か。
今日、私の出番がほぼなかったから! 私だって戦いたかったのに、『スラスターが不調だから』って理由で、荷物持ちしかやらせてもらえなかったから!!
分かる? 出番無しで、誰も居ない(大翔は狙撃ポイントに移動しているため、文字通り自分しか居ない)陣地の真ん中で待機していて、呼ばれたと思ったら『予備のマガジンくれ?』『コンテナ運んでくれ?』
こんな……こんな虚しい試合、初めてだよ。
しかも、なんにもしていないのに大和達は敵機を壊滅させて、このコンテナを陣地に置けば勝利確定する。
……いや、もういいや。さんざんギャーギャー喚いても、もう今さらどうにもならない。他のこと考えとこ。
そういえば、大和は昨日、『レトロゲームで遊んでた』とか言っていた。
私のと、色違いの対になっているゲーム機で。出撃前に、セーブデータが消えたと嘆いていた。
アレ、確か対戦機能があったから、大和が読まなかった取扱説明書を読んでから対戦してみよう。私は負け試合は黒い悪魔Gより……いや、やっぱり黒い悪魔Gと同レベルで嫌いだから。
それにしても、島のGは恐ろしかった……バットでぶん殴っても死なないし、トイレに流しても水道管から這い上がってくるし。
『※※※※退治だぁっ!』と大和が私の部屋でバットをぶん回して、窓を叩き割っちゃってうちの親に叱られたことがあったっけ。
そんなことを思っていると。
『試合終了! 勝者、五対ゼロで〈第四蒼天校バトルノイド部〉!』
勝利宣言のアナウンスが、スピーカーから響き渡った。




