Chapter 2 First battle
day:4/10/2035 tue.
後ろを時速150kmで走る巨人。
俺達二人は生身で、高速で走ってくる戦車の相手をしろと言われたのと同じようなものだ。
はっきり言って、無理だ。
さらに言うと、クソゲー。だが、打開策はある。
「ちょ、大和! どこに行くの!?」
「さっきの林の中!」
そう。BNに限らず、ありとあらゆる車両は木々が密集したような場所では動きにくいはず。
追いつかれる前にあそこへいかないと……!
「ねぇ、大和」
「何だ!」
前を向きながら、星奈に声を返す。
「やっぱりあの四機、私達を狙っているような気がする」
「はぁ?」
そう思い後ろを振り向く。そこには、金魚のフンのように付いてくる無人機の群れ。
「ギャァぁぁぁッ!」
慌てて足のギアを5段ほど上げ、更に加速する。
「なんで追ってくるんだよぉぉぉ?!」
これが、世の中の不条理というものなのか……?
そんなことを考えると、横に、馬鹿でかい手が見えた。
つまり……無人機どもは……
俺達を捕まえようとしている?! 虫みたいに?!
「あぶねぇ、跳ぶぞ!」
「え、ちょ、イヤー!」
俺達は、段差を飛び降りた。高さは約3m。
昔どこかで、『自由落下とは、言葉ほど自由ではない』みたいな言葉を聞いたことがある。
今回の落下は自由でも、ましてや楽しくもなかった。
地面について、即座に足を動かして走り出す。すると目の前に、宅急便の人とかが荷物を運ぶのに使う、錆びたキャスターが倒れて放置されているのが見えた。
「大和、アレに乗るよ!」
「はい?」
星奈がキャスターを引っ掴み、キックボードのように乗る。
「イヤッホぉぉぉぉぉッ!」
星奈が歓声を上げながら、坂道をキャスターは爆走する。
「落ちたら大怪我じゃ済まないから、しっかり掴まりなさい!」
この、ところどころサビの浮かんだキャスターで、逃げ切れるのだろうか? そう思ったとき、バキリという、嫌な音が響く。
前を向くと、キャスターの取っ手が折れていた。
「あちゃー、安全装置はなくなったね」
笑顔で、そんな不吉なことを星奈が言う。
「なぁ星奈、これってどうやって止めるんだ?」
心からの疑問だった。
「……ない」
「はい?」
「わかんないって言ってんのよ!」
「……うっそぉん……」
不意に、目の前に目を向ける。
そこには、大きな岩が。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」」
操縦系統が破損したキャスターは、大岩に激突し、宙を舞った。
つまり、俺達二人もふっとばされているということ。
もはや、何もかもがスローに見える。落下の速度も、揺れる髪も、俺達を掴もうとしてくる手も。
俺は、星奈を地上で受け止めて、ゴロゴロとふっとばされる。
なんとか、うまいこと衝撃を回転に変えて、頭を『何か』で打ったことを除けば受け身に成功した。
「いてててて……ん、なんだ?」
その『何か』は、トレーラーだった。
その二台に乗っているのは、磁器のような白に塗装されたBN。バイザー状のメインカメラ。アメリカ製のBN、W-3〈ソルジャー〉だ。
「しめた、コクピット開いてるじゃん。セキュリティ、ガバガバだな」
俺は、タイヤを足場にして荷台に登り、背中のハッチに滑り込もうとした。
「こら、いい加減にしなさい! 素人なんだから乗っちゃ駄目でしょ!」
後ろを見ると、星奈が肩を掴んでいた。
「今は素人云々関係ない! 生身でいるより、これに乗ってたほうがまだ生き残れる確率は高いぞ」
「むぅ……」
「わかったら、早くこいよ!」
無理やり引っ張って、中へ引き込む。
星奈のために右横のサイドシートを引き出し、自分はフルハーネス型のシートベルトを締め、ハーネスを下ろす。
「えっと……イグニッションスイッチどこだ?」
それを押さないと、そもそも起動しない。動かないBNなど、ただの鉄の棺桶だ。
必死に探すと、目の前にあったコンソールにスイッチを見つけ、それを押す。
コンソール中央のタッチパネルに火が灯り、プログラムが走る。OS起動の映像が流れた後、わずか一行の文が現れた。
《起動のため、認識番号と氏名、パスワードの提示をお願い致します》
「だめじゃん。これじゃ動かせないよ」
そうぼやく星奈を無視して、俺は操縦桿の音声入力ボタンを押す。
「認識番号JGSDF431456、有川大和。パスワードはEX0205」
《有川三曹と認識。AI『ハル』のダウンロード開始》
現れたパーセント表示は、3秒で100%になった。
「ハル、緊急起動を開始しろ! 全身の関節と、FCSのロックを解除だ!」
《ラジャー、ヤマト》
タッチパネルにOSの起動画面が流れ、三枚のスクリーンに外の風景が映し出される。
《FCS、アクティベート。ヴェトロニクス、オンライン。使用可能な兵装は腕部ワイヤーガンと、訓練用ナイフ二本》
「ちッ、コレだけか……」
せめて頭の20mmに弾が入ってればよかったんだが……
「ねぇ、ちょっと! なんで動かせてんの!? それに、ここからどうするつもりなの?!」
「最初の問いの方は、わからん。だけど、決まっているだろ――」
一旦言葉を切り、星奈の方を向く。
「奴等を、叩き潰しに行くんだよ」
《関節のロック解除、完了》
ハルの声が聞こえた。それと同時に冷却液が噴出され、白煙が立ち上る。
《全システム、オールグリーン。〈ソルジャー〉、起動》
カメラアイが、有人機の証の緑に輝く。
「うわぁ、やっちゃったよ。いつか乗りたいって思ってたけどさ、実戦には出たくなかったな……」
星奈が、目を輝かせながら呟く。結局実物のコクピットを見れて、喜んでいるようだ。
「そんなこと言う前に、とっととサブシートに座れよ。ハル、全センサアクティブ、索敵しろ」
《ラジャー。 距離5、方位195に敵影3。敵機をB1、B2、B3と設定》
タッチパネルにレーダーが表示される。
「そしたらモード3に設定……行くぜ」
「まって、ベルト締めてないんですけど!?」
星奈がベルトを慌てて付けたのを確認してから、ペダルを踏み込み、宙を舞う。
HUDに表示された高度計はぐんぐん上昇する。
二五、三〇、三七、四三――
高度計が45mを指したとき、操縦桿を動かして〈ソルジャー〉の姿勢を無理やり変える。
外から見たら、〈ソルジャー〉はバク宙の頂点で無理やり体をよじり、錐揉み回転し始めているように見えるだろう。
「キャぁぁぁぁぁ! 酔うからやめてぇぇぇっ!」
「もうやった後だからどうしようもない……袋いる?」
なぜかはわからないが、こんな無茶苦茶な回転や高G環境でも、俺は気持ち悪くなっていない。
なんでだろ……三半規管が強いからかな? BN特有のコクピット内の振動は不快には思うが。
〈ソルジャー〉は地響きを鳴らして地面に降り、目の前の無人機に向かってナイフを両方とも抜く。
メインコンピュータが搭載されているであろう胴体の装甲の隙間に、ナイフを両方ともねじ込む。
火花が上がる。
「くたばれ」
ナイフを刺したまま、胴体に膝蹴り。
地面に倒れた無人機の頭を踏みつける。
《B1撃破。残り二機》
「次」
左腕のワイヤーガンを二機目に打ち込んだ。装甲を貫通し、フックが引っかかった。
それを確認して、ワイヤーガンの巻き取りを開始する。
〈ソルジャー〉はぐんぐん加速する。それを見て、無人機は慌ててバルカン砲で弾幕を張る。
ワイヤーを木に打ち込む。
そして無理やり、木に打ち込んだワイヤーを中心に、コンパスのように高速移動。
ワイヤーを取り付けられた無人機はもがく。が、抵抗虚しく地面に叩きつけられた。
そこへ飛びかかり、人に例えるとすると、襟首の辺りにナイフを差し込む。
火花とオイルが散った。
《B3撃破。残り一機。後方から接近中》
レーダーでは、機体の真後ろに向かって走ってくるのが見える。だが、〈ソルジャー〉はナイフをしまいその場に立ち尽くす。
「何やってんのよバカ! 早く避けてよ!」
「……攻略法は見つかった。だから問題はない」
「問題大アリよ!」
残り100m。星奈の声は一旦無視する。
敵もナイフ――こちららは実戦で使用される、高振動単分子ブレードだった――を掴み、腰だめに構えて走ってくる。
巡航速度の時速90kmですら50mなど、すぐ走り去る。ましてや相手は最高速度の時速150km。
チャンスは一度、そして一瞬。
無人機はナイフを突き出す。
そこに、左腕を突き出す。
左腕の前腕を、ナイフは貫いた。衝撃と振動はコクピットまで伝わる。
「かかったか」
〈ソルジャー〉の右腕を後ろに回し、ナイフを拳ごと突っ込ませる。
《警告、左腕にAランクの損傷。左腕への電力供給をカットします》
左腕は歪み、無人機の腕が突き出ている。
〈ソルジャー〉は無人機の手首を掴み、手首ごとナイフを奪う。
「終わりだ」
俺は、操縦桿を動かす。
ナイフは胴体を貫通し、確実に敵機の中央制御装置を破壊した。
そこに残ったのは、物言わぬスクラップと、〈ソルジャー〉だけだった。




