Chapter 1 The beginning
この物語はフィクションです。実在の団体などとは全く関係ありません。
day:4/10/2035 tue.
雨の森の中、戦車砲の重たい爆発音が響いた。
それを耳にしながら、有川大和はコクピットのスティックとペダル、スイッチを使い分けて、『それ』を走らせる。
「モード2から3へ変更、至近距離でやつを仕留めるぞ」
《ラジャー、モード変更完了まで2秒……変更完了》
大和の乗っている『それ』が茂みの中から姿を表し、腰から7mもある刀を引き抜き、蒼い燐光を振りまきながら、宙を舞う。
戦車の弱点……上面の装甲を、バチバチと火花を散らしながら刀が貫く。
三秒も経たずに、敵戦車は無力化された。
「またか……」
目を覚まして、俺は呟いた。
妙な夢を、最近よく見る。それも毎日、違う夢を。
その夢はすべて、いくつか共通することがある。例えば、俺が人型陸戦兵器……バトルノイド、通称BNに乗っているところだ。
2020年代初頭に生まれたその新しい兵器群は、戦場の常識を破壊した。なにせ全長9m、重量10t、最大走行速度150kmのチートスペックがもはや常識になっている。
知り合いから聞いた話だが、もともと娯楽のために作られてた人型ロボットを、ある科学者が魔改造して戦場に送り出した。
結果は大金星。戦車を破壊し、装甲車の装甲を貫き、ドローンの自爆を軽々と避ける。
もはや陸戦の主役は戦車ではなく、バトルノイドになっていた。
また、もう一つの共通点は『知らないはずの知識』を知っているというところ。
モード2とか、3とか、何なのか訳が分からない。なんで戦車は天井が弱いのか? そんな事なんぞ知るか。
ひどいときには『全機、NBC装備で1508時に出撃!、RPGに注意しろ!』とか夢の中の俺が叫んだりしている。
NBC? バスケか……? いや、それはアメリカのNBAだ。なんでロールプレイングゲームに注意しないといけないんだ?
それに……何だよ、1508時って。
俺の知る限り、時間というものは多くても0から24までの二桁の数で表すはずだ。なのに四桁だぞ、四桁! わかるわけねぇよ! いつだよ!
そんなことを内心わめきながらベッドから起き上がり、俺は目覚まし時計を見る。
時計の針は、午前七時半を指していて、外ではスズメが鳴いていた。
「全く、入学して三日目で遅刻とは、何を考えているんだね? 有川くん?」
間に合わなかった。学校に。
現在、俺は福岡県内の中高一貫校、国立第四蒼天大学附属学院の職員室で、教頭先生にこってりと絞られていた。
「一応聞くが、どうして遅刻したんだい?」
「……昨日の夜、目覚まし時計のタイマーを付け忘れたせいで寝坊したからです」
「はいはい、ソウナンデスネ……」
教頭先生は、俺の返事を半ば無視して書類にチェックを付けている。
おそらく、言い訳で『アラームを付け忘れていた』とか言っている輩が多すぎて、もはや信じられないのだろう。
一応言っておくが、俺は夜遅くまでゲームしたり、アニメを見たり、漫画を見たりしていない。
本当に、付け忘れてしまっていたんだ。目覚まし時計を。
面倒なことにこの目覚まし、一回一回設定し直さないとアラームが鳴らないアナログ仕様になっていて、付け忘れるとこんなことになる。
俺が暮らしている寮から学校の校舎まで、校内バスで30分。最低でも7時にバス停に立ってればなんとか間に合うのだが……起きた時間が7時半だったら意味がありませんッ!
ああ……小3から続いてきた皆勤賞が……今、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく……
「本当に申し訳ございません……」
「もういいから。あ、そろそろ一年生はあの時間じゃないのかい?」
「あの、時間?」
教頭先生の言っていることがわからず、俺は聞いた。
「この時期といえば、アレしかないだろう――」
俺はゴクリ、と固唾をのむ。
「――部活動紹介だよ」
俺は教頭先生に『行って良し』と言われた直後、走っているのか歩いているのかかなり曖昧な速度――つまり、校舎内で出せる最高速度で廊下を移動し、玄関に出て第一校庭へ向かった。
第四校は、アホみたいに広い。何故か? そんなことは知らない。
俺が知っているのは、市一つ分ぐらいの広さの敷地を有していて、軌道エレベーターによる太陽光発電で土地代を賄っているということぐらいだ。
発電量も凄まじい。発電効率79.5%を叩き出した新型太陽光パネルにより、九州全域に電気を流してもお釣りが来るほどの電力を生成している。
なんでこんなことを知っているかって? そんなもの、パンフレットを読んだからに決まっているだろう!
幸い、第一校庭は中学校校舎に隣接されているから、『1km走ってこい』なんてことにはならない。
そんな事になったら……考えたくもない。春の陽の中、冬服で走るなんて……蒸し焼きになってしまう。
菜の花の香る道を駆け抜ける。青い空をモンシロチョウと燕が舞っていた。
って……そんなことはどうでもいいッ! このままじゃ間に合わない! アイツをまたせたら確実に怒られる……!!
なだらかな斜面を滑り降り、真っ直ぐ進む。葉っぱが服や髪に付くのもお構い無しで、より早く、最短ルートを。
校庭では生徒会主体の、派手な部活動紹介が行われていた。遠目で見ても、その場に四種類の人間がいることがよく分かる。
その内訳は中学生、高校生、大学生、そして教師の四つ。
出し物ではバスケ部がゴールにアリウープを五回連続でしたり、サッカー部が某サッカー漫画よろしくオーバーヘッドシュートを決めたりしていた。
この学校、変なところに力を入れてるんだよな……教師も生徒も。
「やっと着いた……」
俺が足を止めたのは、待ち合わせ場所に指定されていた校庭の隅の楓の木の根本だった。そこに、彼女はいた。
黒いロングヘアを揺らしながら、彼女はこちらへ走ってくる。
「こらー! 大和、予定より5分もおくれてるぞー!」
「すまん! 寝坊して教頭に絞られてた!」
俺は彼女――一ノ瀬星奈に向かって頭を下げた。
「ホント、君よく約束の時間に遅れるよね……って、そうじゃなくて! もうすぐ始まっちゃうよ!」
星奈は慌てて俺の襟首を引っ張り、この日のために生徒会が設営したステージへ駆けてゆく。
「ちょ、やめろ! 痛いから! 俺は猫じゃない! たのむからおかんクリップやめろぉ!!」
「うっさい! おくれてきたのが悪いんでしょうが!」
そして、俺は幼児の抱えている大きなぬいぐるみのように背中を引きずられてゆく。ああ、新品の制服が……洗濯めんどくさいな……
こいつとは幼稚園の頃からの付き合いだから、もはやこうなったときの対処法がないことはよく知っていた。
そして、こうなったら悪目立ちしてしまうこともよくわかっている。
……すみません、俺に対して変な人を見るような目を向けないでください。マジで恥ずかしいから!
すると加速と摩擦が止まり、唐突に襟が放された。そして、偉大なる重力により、俺は後頭部を地面に打ち付ける。
世界がぐるぐる回る……何だ、ひよこが頭の上を回っているのか?
「ほら、危なかったよ。もう少し遅かったら間に合わなかったかも」
「時間遅くなったのは悪かったけどさ、お前のほうが危険な気がするぞ……」
「それはともかく! ほら、あそこ!」
星奈が指さしたステージを見てみると、白煙が登っていた。
「はい……? あれ、だいじょぶなの……?」
そんな、俺の心配は無用だった。
煙の中から、緑色の光が差し、エクゾリウム・リアクター――20年代終わり頃に出来た、一秒間で10キロワットの電力を発生させる発電装置――特有の甲高い起動音が響く。そして……
三体のBNが、ステージの上に立ち上がった。重量制限ギリギリなのかステージからはミシミシと音が立っている。
『今から我々、バトルノイド・デュエル部の部活動紹介を始めます』
真ん中の、ピアノのような黒の、一本角の機体のスピーカーから声が流れ、青と黄色が花咲か爺さんよろしく紙吹雪を降らす。
「うわぁ、すごい……自衛隊が運用しているW-3〈ソルジャー〉だ! あの角は多分アンテ
ナだから、電子戦機かな……?」
横に立っている星奈が、ブツブツ言い始めてる。
この人は機械関連になるとすぐ、こうなるんだよな……
黒ソルジャーに視線を戻し、俺は横から聞こえてくる独り言を、可能な限り無視して集中できるよう努力した。
『我々第四校BND部は九州大会突破を目標に……』
「あの起動音からしてエクゾリウム・リアクターはEX-120系列を使ってるのかしら? だったら……」
『今までの最高の戦績は、九州大会準優……』
「あの頭部のアンテナの形からして、レーダーよりもECMの方を…」
無理だ。俺は聖徳太子じゃないんだ。
どうやったら集中して聞けるんだよ?! 周りを見ても、星奈がブツブツ言ってるせいで、約半径五メートル内の人間が顔をしかめている。
本当に……こいつ、昔から変わらないな。というか悪化している気がする……
そんな事を考えていると、ふと悪寒が走った。原因は、黒板をひっかくような耳障りな音……つまり、エクゾリウム・リアクターの起動音。
「あれ? 出てくるの三機の予定じゃなかったっけ?」
横で星奈が目を輝かせながらそんな事を言っているが、俺はそうは思わない。
「何だか嫌な予感がする……」
会場の四隅に置かれたコンテナから、先程の三機が現れたときと同じ白煙が立ち上る。
コンテナはガラガラと音を立て解体され、その中からはマットブラックに塗られた〈ソルジャー〉が現れた。
『おい、システム班! 無人機ダンスチームはまだのはずだぞ!』
『知らない! 俺達は何もいじってないぞ!』
無人機は黄色に輝くカメラアイを、ステージに立ってる三機に向け、飛びかかる。
『み、皆さん逃げてください! ここは俺達が――』
言葉を最後まで言い終えることはなかった。
それは、無人機が黒色の首を、腰から抜いた大振りなナイフで刎ねたからだ。そして、他の二機も、同じような未来を辿った。
どす黒いオイルが無人機にかかる。
だが、無人機はそんなことも気にせず、こちらへ向かってくる。
「や、やばい……」
〈ソルジャー〉の頭部に搭載されているバルカン砲が、火を吹いた。弾丸が轟音を立てて、地面をえぐる。
着弾点にネオンイエローの塗料が付いていることから、おそらくペイント弾なのだろう。
だが、それでも人間をミンチにするには十分な威力だ。
こうして、お楽しみの部活動紹介は、一瞬で地獄へ変わった。
「逃げるぞ!」
俺は慌てて星奈の手を掴み、走り出した。
こんにちは、しろくろねこと申します。この度は私の作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。できたら、ブックマークやコメントをお願いいたします。(涙)




