Chapter 19 Tournament starts
day:7/30/2035 mon
俺は、一号機二型のコクピットの中に入り、最終チェックを開始していた。
システム……よし、センサー……よし、アンカー……よし、剣は……しっかり三本とも揃っている。エアコンは……あ、設定温度が少し低すぎて腹壊しそう。
今俺達が出場しているのは、全日本バトルノイド・デュエル九州予選。その予選だ。
「大会本部、こちらエントリーナンバー163、準備完了!」
『了解。五番バトルフィールド、試合準備完了、カウントダウン。60、59、58、57……』
カウントダウンを聞きながら、スクリーンを見る。対面には、旧式のBNである、W-2〈ギガント〉のカスタム機――見たところ、多少スーパーロボットみたいな感じにドレスアップしただけの赤い機体――パーソナルネーム、『ドラゴンキラー』が剣を構える。
今回のデュエルのルールは、銃禁止の決闘方式。丁度、俺の機体は〈剣闘士〉だからちょうどいい。
『5、4、3、2、1、0――デュエル、リリース』
ゼロ、と耳に届いた瞬間、操縦桿にコマンドを入力する。
一号機二型はそれに反応し、腰の〈ムラマサ〉を掴む。体重を前に乗せ、更に一歩踏み出す。
輪廻流抜刀術〈風神〉。相手に反応させる間も与えず、胴に強攻撃を叩き込む。
相手のHPバーの半分近くを一撃で削り取り、反撃しようとした『ドラゴンキラー』の右腕を斬り飛ばし、首を〈ストームブリンガー〉で叩き潰す。
『げ、ゲームセット……勝者、『ピース・パロット』……第四蒼天校チーム、決勝進出決定……』
この程度の相手、まだ四月に戦った無人機どものほうが強かった。
そう思いながら〈ムラマサ〉と〈ストームブリンガー〉を収め、コンテナに戻り、ヘルメットを外す。
そして、シート脇のドリンクホルダーから水の入ったボトルを取り、飲む。
《戦闘時間は十秒。流石です》
「ああ、ありがとう。にしても……周り、弱くないか?」
《予選ですから、こんなものです》
「そうか……? これで俺は二戦目だけど、今まで三分以上戦ってないぞ」
今の試合で終わった予選では、俺、星奈、龍三先輩のアタッカー三人が、相手のアタッカーと一対一で二回ずつ戦っていた。
だが、どの対戦相手もあまりに弱く、俺と星奈は長くても二分、龍三先輩に至っては数秒で試合を終わらせていた。
《実戦……小隊同士の戦いでも、三分で終わることが多いですよ?」
「へぇ……」
《それに、もしかしたら戦闘能力が平均値以上である、ということも考えられます。一応ダウンロードしていた陸上自衛隊のデータと照らし合わせてみますか?》
「うん、じゃぁ試しにやってみてくれ」
《ラジャー。少々お待ちください……データ、出ました。私たちはBN部は、陸上自衛隊では通常部隊並、というレベルになっています。まぁ、ろくに訓練していない素人と訓練を受けた人間では差が激しいですが》
……陸上自衛隊との合同練習をやったから? それとも源治さんが俺達に叩き込んだ輪廻流のせい? あと、機体の性能がそもそも旧型機と試験機で性能差が激しいから?
どれだろ……マジでわからん。
『大和、そろそろ休憩だよ! 早く降りてきて!』
無線から、星奈の声が届く。
「ああわかった! 今から降りるから待っててくれ!」
「それでは、本戦出場を記念して、乾杯!」
光莉先輩がコーラの入ったコップを掲げ、叫ぶ。
「「「「「「乾杯!」」」」」
それに応じ、俺、星奈、大翔、鈴、龍三先輩、ハルがそれぞれのコップを掲げ、打ち付ける。
コップに注いであるオレンジソーダを、ガブリと飲む。
うん、うまい。やっぱこういうときはオレンジソーダがいい。いつものおやつは緑茶とまんじゅうとせんべいだけど、たまにはこんなのもいい。
「それじゃ、私たちのこれからの予定を確認しましょうか」
コーラを飲みながら、光莉先輩が言った。
「えっと、たしかこのあとはトーナメントで戦うんでしたっけ?」
鈴が、光莉先輩に問う。
「そうそう。で、私たち『第四蒼天校BN部』にとっては明日からが本番。今まで良くても準決勝までしか勧めてないから」
「うあぁ、あいがよ……」
大翔がマルゲリータピザを頬張りながら言った。いや、何言ったんだよ……
「大翔、今何つったんだ? 行儀悪いぞ」
「ああ、すまねぇ。『うわぁ、マジかよ』って言った」
「二人とも、話を本筋にもどすわよ――光莉先輩、続けてください」
鈴は俺達二人を黙らせて、話の続きを促した。今の、俺まで巻き込む必要あった? まぁいいや。
「じゃ、じゃあ続けるよ。トーナメントのルールは、『陣地防衛戦』。簡単に言うと、対戦する二チームそれぞれ陣地が設定されてるの。その陣地を探し出して相手チームの旗を奪う、あるいは相手チームを殲滅させれば勝利」
「へぇ……要するに陣取り合戦、ってことですか?」
「大和、正解! そして、今から編成を発表するよ。まず前衛は星奈。遊撃が大和、後衛が私と鈴と大翔と龍三。ちなみに鈴は電子戦支援、私が電子攻撃と電子防御を担当するよ」
確か、電子戦支援はレーダーでどこに敵がいるのかを探る役割、電子攻撃が相手のレーダーを狂わせる攻撃、電子防御が電子攻撃を防ぐこと……だったっけ?
「あの、遊撃って?」
「簡単に言いますと、戦況に応じて攻撃に回ったり、防衛に回ったりすることです」
ハルが俺の疑問を解説してくれた。それもずいぶんわかりやすく。そう思いながら四種のチーズピザをかじる。うん、うまい!
「初戦の相手は、成人チームの『第四四機動小隊』。使用機体はM-2D〈アーセナル・ジャイアント〉。要するにゴツくて遅い歩く火薬庫の軍団が相手ってことだ」
龍三先輩が対戦相手の解説を始める。
「厄介なのはむちゃくちゃ硬い装甲と盾、そして長射程の榴弾砲。曲射弾道でぶっ放してくるから最大射程は30km以上。演習場の殆どの範囲が射程距離内だ。だが弱点もある」
龍三先輩が、〈アーセナル・ジャイアント〉の写真を机に置く。モスグリーンの分厚い装甲の、戦車のようなBNだ。
「重装甲、そして大火力故に機動性がない……そのことですよね?」
「星奈、正解だ。つまりこいつらを排除したければ、大翔が打ち合いをするか、このチームの最速……つまり、〈グラディエータ〉二機をぶつけるっていう戦法が手っ取り早い」
day:7/31/2035 tue
『さぁさぁはじまりました、第十回全日本バトルノイド・デュエル大会九州予選の決勝トーナメント!』
冷房のよく効いて、キンキンに冷えていた無数の観覧室では、歓声が響いていた。
『第一回戦のカードは、前回大会準優勝の猛者、『第四蒼天校バトルノイド部』、そして今大会で初参戦の成人チーム、『第四四機動小隊』!」
「どうだ、今日の大会ではヒカリ様見れるか!?」
「バカ、流石に出てくるだろ。最低BN乗り六人以上じゃないと出れない大会で、第四蒼天校バトルノイド部のBN乗りは六人。必ず出てくるさ」
「どーでもいい! 暴れろ暴れろ!」
「殺っちまえ!」
てんやわんやの大騒ぎになっていて、熱狂は収まることを知らなかった。部屋の隅ではどちらのチームが勝つか賭けをしている者までいる。
『それでは、カウントダウンと行きましょう! 五秒前! 四! 三! 二! 一! ゼロ!』
カウントダウンの直後、スクリーンに火が灯り、双方のチームの機体が映し出された。
『それじゃ……第四蒼天校バトルノイド部、出陣!』
光莉先輩の掛け声に合わせ、二号機二型は離陸する。それを確認してから、俺も一号機のスラスターを点火させた。
「ハル、広域探知!」
《ラジャー》
ハルに指示を出しながら、マシンガンに弾倉を突っ込む。
にしても……どこだ? 森林のせいで相手の陣地を探しづらい。木の枝が頭部センサーに傷をつけないように気をつけないといけないのが、すごくめんどくさい。
「そうだ、ハル! 集音マイクを起動してくれ。敵機が木の枝に引っかかる音とかが聞き取れるかもしれない」
《ラジャー。集音マイク、レディ》
スラスターを止めて、探す。
一時方向にスラスター音。これは多分二号機二型の飛行音だろう。あと、微弱だが十時方向に……何かの音。六時方向から聞こえてくるのは、多分自陣の……
その時、自陣の方向から爆発音が響いた。
『こちらドルフィン5、十時から、十一時方向あたりから砲撃! 少なくとも向こうは俺達がどこにいるかわかってないらしく、こっちの陣地内には今のところ砲弾は飛んできてない! 3と4はそっちの方向を探してくれ! 今から応射する!』
『ドルフィン3了解、私は十一時方向に行くから、やま……じゃなかった、ドルフィン4は十時方向をお願い!』
「ドルフィン4了解、こっちもマイクで捉えたからすぐ行く!」
マイクを収納させ、アークジェットを再点火。
「ハル、急ぐぞ!」
星奈は、二号機の飛行高度をぐんぐん上げていた。
《目的飛行高度到達》
「OK、それじゃエグゾリウム粒子放出量を最大にして!」
《ラジャー》
私の指示と同時に、機体の速度がガンガン上がっていく。高高度では空気が薄いから、その分速く飛べる。
頭部に格納されているフェーズドアレイレーダーと、大和や鈴が送ってくれたデータを参考に探し出す。
《報告。本拠地より方位325、距離250に陣地を発見》
「大和と私、どっちが先につけそう?」
《ドルフィン4かと》
「わかった。大和!」
無線を操作して、大和を呼び出す。
『何だ? 突然』
「陣地見つけた! 方位325、距離250! 私よりあなたのほうが先につけそうだから先行って!」
そう言いながらマップデータを送信し、機体を急降下させ一気に加速させた。
「鈴、観測機を発射してくれ!」
『りょーかい、出しますよっと!」
鈴の黄色いBN……〈ソルジャー・メイジカスタム〉の背中に装備された三つのコンテナの内、中央のコンテナから高速で無人偵察機が射出された。
大翔はデータリンクでその命令権を受け取り、〈ソルジャー・スナイパーカスタム〉のコクピットから指示を出していた。
目指すは相手のいる十時方向。そこに向かって音速で無人機はかっ飛んでいく。大体一分半くらいで到達するだろう。
『ドルフィン4、戦闘開始!』
大和が、敵にエンカウントしたようだ。
「ドルフィン4、戦闘開始!」
レーダーに敵機を捕らえた瞬間、マイクに向かって叫んだ。
「ハル、モード2、手は俺がやる、頭を頼む、見えたらぶっ放せ!」
《ラジャー。頭部20mmチェーンガン、レディ》
右腕のマシンガンを構え、突撃。約200m先に敵機が見えた。
「やれ!」
『な、何だ!?』
しめた。相手の〈アーセナル・ジャイアント〉はパニックになってるようだ。その機に乗じて、トリガーを弾く。
「下手な鉄砲も、数撃ちゃ当たるってな!」
赤熱した砲身から、弾丸の激流が流れる。その半分ほどが着弾し、モスグリーンの装甲を蛍光ピンクに染め上げ、HPバーを吹き飛ばした。
『ドルフィン3、4、今から敵陣地に砲弾をぶち込むから、当たんねぇように気ぃつけろッ!』
『ち、ちょっと待ってよ!』
「そんな無責任な!」
『うるせぇ! あとで骨は拾っといてやる、発射!!』
ガチャガチャという、〈ソルジャー・スナイパーカスタム〉の足のアウトリガーを動かすギア音の後に、鈍い火薬が燃焼する音。
あのバカ、本当にぶっ放しやがった! こっちにいたら流れ弾を食らう、早く逃げないと……!
必死に反転し、退避する。この大会、味方機への誤射もダメージとしてカウントするルールだから、食らったらまずい。最悪、一撃ノックアウトだ……!
頭上を無数の榴弾が飛翔し、塗料を敵陣地にぶちまけた。
『おーし、五機撃破! 残り四機は頼むぜ!』
「狙撃って、なんなんだろう……火力支援にしか見えなかった……」
『ん? なんか言ったか?』
「気のせいじゃないか? 俺はなにも言ってない」
《先程の発言に、何か問題が合ったのでは?》
「しーっ! ハル、黙っててくれ!!」
「こちらドルフィン3、まもなく目的地に到着!」
時速200kmしか出せないから、やっぱり時間がかかってしまった。だが、まだ相手は四機も残っている。残り全部、私がやっつけてやる!
『こちらドルフィン4、先にどうぞ』
大和から、無線が届いた。
「え?」
何? いきなり急に。いつも先手を切りたがる大和が? 先に譲る? どういうことだろう……?
『いや、こっちに考えがあってね』
『畜生、どうなってやがる! なんでやつらは俺達を一方的に、正確にねらい撃てるんだ?!』
「くそっ……あの観測機か!」
やっと監視されていることに気づいた、第四四機動小隊のリーダーの乗る〈アーセナル・ジャイアント〉は、ライフルで観測機を狙い撃ち、破壊した。
「全員、旗の周りを囲め! どの方向から来てもおかしくないよう――」
『そう。例えばこんなふうに、上から来ても大丈夫なようにね』
「だ、だれだ!?」
突然、女の声が響いた。俺達のチームには、野郎しかいない。つまり……敵! 上を見ると、西洋鎧をまとった天使のような、見たこともないBNが飛んでいた。
『飛んでるだ――うぁぁぁッ!』
「アルファ5!」
哀れなアルファ5は、敵BNのライフルから放たれた、威力を抑えられた指向性エネルギー兵器により一撃でHPを消し飛ばされた。
それにしても……飛行に、ビーム、だと? ありえない、そんな物まだ実用化されているはずが……第一、なんでそんな化けもんがこんな平和な大会に出てくるんだ?
そんなことを思っているうちに、天使はこちらに向かってライフルを再び向ける。
「全員、応戦せよ!」
慌てて後ろに飛び、アサルトライフルをぶっ放す。だがしかし、天使は更に高く舞い上がり、軽々と弾幕から抜け出す。
うそだ、有りえない……こんなはずが、なんで? なんでこうなるんだ!?
天使をロックオンしようとした。だが、レーダーの動きはひどく緩慢で、使い物にならない。
「電子戦機三機が全てやられたせいか……!」
仕方ない。手動で照準を合わせるしかない。そのために、無数のスイッチを動かし、モードを手動に切り替えた。
「当たれぇぇぇぇっ!」
ライフルを構えた、その時。
『グバァッ!』
『ゲブゥッ!』
「アルファ2、8!」
アルファ2とアルファ8とHPゲージは、もうすでに赤を通り越して0になっていた。さっきアルファ2が立っていた場所を見ると、そこには青い侍のようなBNが。
『あんたでラストだ。もう詰みだけど、どうする? 俺があんたと戦ってあんたが負けたら俺達が勝ち。そして俺を倒したとして、旗を奪われて負けになるぜ』
青いBNは、右手に持った刀をこちらに向けて、脅しをかけてくる。もう、どう足掻いても敗北は決定してしまった。
だが。
「確かに、ここは俺達が詰んでる。だが……ガキに舐められたまんま、終わってたまるかッ!!」
「おっさん、聞き分け悪いね。ここで降参してればメンテナンスの手間が省けたのに……」
俺は、あえてスピーカーから声を流して相手を挑発していた。これは源治さんから教わったことだが、戦いでは冷静ではなくなった者から死んでゆく。これは、ゲームでも変わらない。
〈アーセナル・ジャイアント〉は腰のパイロンから片手斧を取り、こちらに突撃してくる。
「こんな攻略法の見えてるゲーム、やってもねぇ……」
『うおぉぉぉぉぉぉぉっ!』
今だ。
機体にコマンドを入力して、スラスターを吹かす。前から思いついていたけど、こいつを試す機会は今日が初めてだ。
輪廻流抜刀術〈風神〉。それをアークジェットで加速させる。
目指すのは、源治さんのやった弾丸切り。いつか、それができるようになるために。ここで切る。
〈アーセナル・ジャイアント〉の持っていた斧を避け、胴体に一撃。そこから脇の下を通り抜ける。
「傲慢な台詞だってわかってるけどさ。つまんねぇよ、弱い相手と戦うの」
〈アーセナル・ジャイアント〉の、残り僅かなHPは一ドットすら残らず、消えてなくなった。




