Chapter 18 festival!
day:7/21/2035 sat
「大和、早く起きてください」
ZZZ……眠い……あと三時間ぐらい寝させてくれ……
「早く起きてください」
………うるさいなぁ……まぁいいや……もうなつやすみだし……あともうちょっと……
「……駄目ですか。それなら……」
?!
俺の睡眠は、唐突に打ち切られた。ふかふかのベッドから、冷房の効いているせいで、キンキンに冷えている硬いフローリングに叩き落とされたせいで。
「……誰だよ、俺を叩き起こしたのは……もう少しねよ……」
ふらふらとした足取りで、おれはベッドに戻ろうとした。だが、シャツの襟を誰かに掴まれる。
「駄目です。今日は『夏祭り』があるんですから、早く準備してください」
誰かの苛立ったオーラを感じたせいで、俺の眠気はぶっ飛んだ。
恐る恐る後ろを振り返ると、七宝繋ぎの浴衣を着たハルが、すこし不機嫌そうな顔で立っていた。どこから取ってきたんだ、アレ? ウチには俺用のじんべえしかないぞ?
「は、ハル……? 夏祭りってどういう事……?」
「はぁ……忘れたのですか? 昨日、終業式で校長先生が『明日、夏祭りを校内で開催する』云々を言っていたじゃないですか。それにBN部が、午後のショーで呼ばれることになっていますよ?」
ため息をつきながら、ハルが解説した。そういや校長、そんな事言ってたっけ。あのハゲ頭の汗を何回ハンカチで拭くかをクラスで賭けていて、全く話を聞いていなかった。
「え、待ってくれ。俺達が出るのは午後なんだろ? 今は朝の九時なんだし、もう少しだらけていても……」
「嫌です! 私は製造されてから今日まで、一度も『祭り』やその類のものに参加したことがないんです! それに、もう全員『午後は遊べないから』と言って祭りに出かけてしまっています! だから急いで起きてください!!」
……こいつ、星奈の行動から学習してないか? 俺がはっきり意見を突きつけられると、反論しづらくなることを。星奈め、余計なことを覚えさせやがって……!
「……わかった、行けばいいんだろ……」
そんなこんなで、俺は朝食のトーストをかじった後、自分の紺色のじんべえを着て、ビーチサンダルを履いて外に出た。
外では、もうすでにたくさんの店が開いていた。射的や金魚すくい、くじ引きに焼きそば、チョコバナナ。焼きそばとたこ焼きとイカ焼きが並んで客を取り合い、綿あめやかき氷に長蛇の列が出来ている。
さっきハルから改めて聞いた話だが、今日は外部の人も入ってこれる日らしい。だからお店の人がたくさんいたり、小さい子供もたくさんいるのだろう。
「お、お面あるじゃん。おっちゃん、これくれ」
「まいどあり! 八百円だよ」
俺は五百円玉と百円玉三枚を取り出し、お店の狐面を購入した。
さっそく買ったお面を頭につける。
「私もこれを」
「まいど! 六百円だよ」
ハルもお面を買った……鬼のお面を。
「ハル……なんでそれ?」
「強そうじゃないですか。戦士は強くないと」
「……」
ハル……俺はそれを買ってる女子を、初めて見たよ。鬼のお面なんて、だいたいヒーロー好きの幼児の父親か、なまはげぐらいしか買わないだろ……多分。
「お〜い、大和〜! ハル〜! こっちきて!」
向こうから星奈の声が届く。
そちらを見ると黒猫のお面を斜めにつけ、波千鳥の文様の浴衣を着た星奈が、くじ引きの屋台の前に並んでいた。
「どうしたんだ、突然?」
「いや、私あのゲームソフトがほしいんだよね」
そう言って星奈が指さしたのは、『ZOO KEEPER』という、三等で手に入る飼育員のゲームだった。たしか、動物園から脱走した動物たちを連れ戻して育てるゲームだったか?
「それなら引けばいいじゃんか」
「いや……このくじ、一人一回しか引けないんだよね。ゲームソフトが当たる確率なんてかなり低いから、せめて二人を呼んで確率を上げようと思って」
「……」
こいつ……去年の夏祭りで、俺に金魚すくいや射的の代金を払わせたのを忘れているのか?
去年は、星奈が自分の食べたい屋台のスイーツを買い漁り、それで財布が空になったと泣きついてきた。
同じことを繰り返させるわけには行かないが……仕方ない、引いてやるか。
「わかった、一回何円なんだ?」
「五百円」
「OK……おばちゃん、やらせてもらうよ」
「どうぞどうぞ、このガラポンを回してね」
店員のおばちゃんに百円玉五枚を突きつけ、全力でガラポンを回す。
一発ででろ! 今年こそ――今年こそ、財布を空にされてたまるか!! そう強く念じながら、ダイナミックに一回転。
穴が吐き出したのは――黄金の一等賞。
「大当たりぃつ! 一等賞のレトロ携帯ゲーム機二個セットだよ!」
目的のものは、手に入らなかった。
結局、ゲーム機は俺と星奈の二人で一機ずつということになり、俺達三人は祭り会場の中で食い歩きをしたりしていた。
歩いている途中、目の前の射的の屋台から泣き声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「あ、あそこ。あの女の子、ぬいぐるみ狙ってたみたいだけど、外しちゃったからみたい」
見てみると、五歳くらいの女の子がうさぎのぬいぐるみを指さして号泣している。銃使うのは俺、下手くそだからな……
「お嬢ちゃん、どうしたんだ? そんなにギャン泣きして」
女の子の方に、黒いじんべえを着た大翔が歩いてきた。
「うさちゃんがほしかったのに、てっぽうのたまが全然当たんないの」
「そうかそうか……おやっさん、三発くれ」
カウンターに二百円突き出し、コルク銃とコルク三個を大翔はひっつかむ。
レバーを引き、コルクを銃口に詰め、立ち撃ちの姿勢を取る。数秒後、発砲。コルクは――うさぎの耳の間を通り抜けた。
「ふーん、この銃、こんなクセがあんのか」
そう言いながら、再びレバーを操作し、コルクを詰める。再び発砲。今度は――うさぎの顔の中心にヒットした。
「はい、こちらが景品でございます」
店員さんからうさぎを受け取った大翔は、さっきまでぐずっていた女の子に向き直り、それを手渡した。
「もう泣くのはやめとけ。くれてやる」
「おにいちゃん、ありがとう!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべた女の子は、礼を言ってから駆け足で親の元へと走っていった。
夕方。
第一演習場のド真ん中に位置するきらびやかなステージでは、様々な部活の出し物が繰り広げられていた。
そんな中、俺は一号機二型のコクピット内で、準備をしていた。
一号機二型と二号機二型は、どちらも『より速いBN』を目指した機体だ。ただ、一号機二型は低空を滑るようにホバーする、二号機は鳥のように空を舞うという違いがあるだけで。
だから、通常型BN以上の重加速度がパイロットを襲う。そのため特殊な対Gスーツの着用が必須だった。
まるで、宇宙服のようにゴツくて、黒い対Gスーツに酸素供給用パイプをつなげ、加圧する。
そして、俺のパーソナルネーム――『ピース・パロット』と青い文字で書き込まれているヘルメットを被り、シートベルトを締める。
中央のタッチパネル脇にあるイグニッションスイッチを押し込み、機体を起動させる。
「認識番号JGSDF431456、有川大和。パスワード、EX0205。ハル、システムを訓練用からデュエル用に切り替えてくれ」
《まさか、デュエルの初戦がこんな出し物になるとは、予想外でしたね》
「あぁ――エグゾリウム・リアクターの出力をサスペントモードにして、関節とFCSのロックを解除。あとデュエル用のHPバーは画面左上に表示してくれ」
《ラジャー》
『さぁさぁお待ちかね! 次はBN部の出し物です!』
学級委員だったため、MCをやる羽目になった鈴はマイクに向かって声を張り上げた。
――みんな、うまいこと頼むわよ!――
そう心のなかで叫んでから、空を見る。
遠くから、赤と青の光。赤い方はキラキラとラメのような粒子――エグゾリウム粒子、青い方は電気推進装置の推進剤が燃える炎。
このまえ修復され、パワーアップして帰ってきた一号機と二号機だ。
二号機にぶら下がっていた一号機はステージの後ろに飛び降り、二号機は静かにステージ中央に着陸する。
二号機の手のひらの中には……光莉先輩がいた。ただし、いつもの制服や部活動着ではなく、歌手としてのドレスで。
光莉先輩を下ろした二号機も、ステージから降りて一号機と向き合う。
『今回は……ななな、なんと! BN部期待の新人、濃紺の大将軍VS真紅の騎士王だけではなく……』
『みなさん、こんにちは! 歌手のヒカリです!』
うぉぉぉぉ、という歓声が響く。無理もない。光莉先輩は今、学校内では伊達メガネとマスクをずっとつけ、正体を隠している。
むしろ、光莉先輩が歌手だと知っている人間は、校内では教師陣とBN部以外にはいなかった。
『いままで体調を崩してたせいで、ライブとか新曲公開とか出来なくてごめんなさい! そ、の、か、わ、り、に、今日は皆さんのために、BN部の皆さんのデュエルに合わせて、歌います! 《イマジンシーカー》!』
その途端、長調のテンポの良いイントロが、スピーカーから流れ始める。それに合わせ、一号機と二号機が抜刀した。
星奈は、狭苦しい二号機二型のコクピットの中で、操縦桿をしっかりと握った。
「大和、今回も私が勝たせてもらって、たこ焼きを奢ってもらおうかしら?」
『へっ、今までの戦績はたしか、五十戦 二十勝 二十敗 五引き分けだったっけ? 残念だけど、お前の三連勝も今日の夜でおしまいだ! 俺が勝ったらあとで焼きそば奢れよ!』
大和の不敵な声がスピーカーから届き、一号機二型は、柄が延長された〈ストームブリンガー〉を引き抜く。
負けじと二号機二型も〈エクスカリバー〉と〈カリバーン〉を引き抜く。
「いざ!」
『真剣に!』
『「勝負ッ!!」』
両者は、粒子と噴射炎を撒き散らしながら激突した。
「お、デュエルの方も始まったか」
龍三は、自分のスマホを取り出してつぶやいた。画面に映るのは、二本のHPバー。それぞれ、一号機二型と二号機二型のものだ。
BNデュエルは基本的に、相手のHPバーを先に削り切れれば勝利。やってることはほぼゲームと同じ。ステージが現実か仮想空間か、違いはそれぐらいだ。
光莉の歌も、スピーカーの大音量で響いている。
狂った羅針盤と宝の地図
財宝を探してたら難破してしまった
暗い夜闇に包まれて
凍えてしまう前に
膝を折る前に、一体何回トライしたんだい?
君の心はいつだって
遥か蒼穹の彼方を目指している
だからほら、もう一度立ち上がって足掻いてみようよ
どれほど泥臭くたって
どれほど滑稽だろうと
もう止まるのはやめよう
さぁ、征け! 幻想を胸に抱いて!
さぁ、走れ! 大切な記憶抱えて!
「うおぉぉぉッ!」
アークジェットを吹かしながら、一号機二型の腰に装備されているアンカーを空高く飛ぶ二号機二型の足に打ち込む。
引っかかった手応えを感じ、操作方法が一部変更された操縦桿を動かす。
ワイヤーを高速で巻き取りつつ、スラスターで軌道を変更。もはや、アメリカのクモのヒーローのような高速機動。
二号機二型の姿が、スクリーンに映る。それを確認してアンカーをパージ。
操縦桿を前にスライドさせ、スラスターの出力を上げる。
それに応じてGも強くなり、スーツが下半身を締め付ける。
「くッ……!」
〈ストームブリンガー〉を振りかぶり、二号機二型を斬りつける。
斬撃は、二号機二型の左腕にヒットした。続けて、返す刀で切り上げる。
『そう何度もっ!』
二号機二型は、〈カリバーン〉で斬撃を受け流し、〈エクスカリバー〉で突きを繰り出す。
攻撃を防ごうとして、〈エクスカリバー〉の進行方向に〈ストームブリンガー〉を向ける。だが。
がら空きになった左脇腹に、二号機二型は〈カリバーン〉で切りつけてきた。
攻撃を受けた途端、HPバーが三割ほど減少する。攻撃が浅かったおかげで助かったが、もし胴体中央に当たっていたら……それこそワンパンされていただろう。
さらに二号機二型は追撃を仕掛けてくる。
「それなら!」
ワイヤーを二号機二型の足に打ち込み、スラスターを逆噴射させる。背を地面に向け、ブランコのような軌道を描いて後ろ上方に回り込む。
いつもだったら頭部20mmをばらまくところなんだが、あいにく今日は飛び道具は使用禁止。
なので、〈ストームブリンガー〉の切っ先を下に向け、二号機二型に向かって落ちる。
当然、アークジェットで加速して。
『ざーんねーんでーした!』
だが、〈ストームブリンガー〉は空を切った。二号機二型が横に水平移動したせいで。
「うぁぁぁぁぁぁっ!」
《地表まであと300m》
「わかってらぁ!」
加速をやめ、ホバーを再開。一号機二型のアークジェットではせいぜい、落下速度を抑えるくらいのことしか出来ない。空中に上昇するだなんて夢のまた夢だ。
『さぁ、これでとどめよ!』
二号機二型が二刀を構え、こちらに向かって高速で飛んでくる。
「そうさせてもらおうか!」
こちらも〈ムラマサ〉を引き抜き、アンカーを二号機二型に打ち込み、巻き取り始める。
超高速で、四つの斬撃は繰り出された。
『大翔、時間だ。やってくれ』
大翔の耳に、龍三先輩の声が届いた。
「ガッテン! そんじゃぶっ放しますか!」
俺は、その命令を心待ちにしていた。操縦桿を動かし、脚部のアウトリガーを展開させ、バイザー状のカメラから、三つ目になった〈ソルジャー・マグナム〉……〈ソルジャー・スナイパーカスタム〉の背中にマウントされた〈グングニル〉二丁を展開。
操縦席の後ろのゴーグル型HMDを引っ張り出し、装着する。
レティクル二つをうまい具合に動かし、トリガーを引く。
轟音を立てて、特殊砲弾は発射された。続けて二射、三射とどんどん空に向かって連射していく。
どっかーん、という音を鳴らして特殊砲弾――打ち上げ花火は、第四蒼天校の上空で何発も何発も、炸裂した。
「もう一丁!」
両肩にそれぞれ一丁ずつ装備してある大砲――試作BN用滑腔砲〈トライデント〉も、火を吹いた。
こちらからも、大量の打ち上げ花火。
〈トライデント〉を連射しているうちに、〈グングニル〉の砲身と弾倉を交換。再びこちらも連射。
夜の第四蒼天校の空は、鮮やかな閃光に包まれた。
「「あー、ちくしょー……」」
俺と星奈は、地上に降りた二機のコクピットから出てヘルメットを外し、大量の汗をタオルで拭いていた。
「五一戦目、引き分けか……あーあ、私の連勝記録、止まっちゃった」
「そういや、『どっちかが勝負に勝ったら奢ってもらう』って話はどうなったんだ?」
「もう、割り勘でいいんじゃない?」
「そうか……勝負で賭けをすんのはやっぱ、良くねぇな。俺達賭けをやって勝負するとき、必ず引き分けになる」
今年の夏祭りは、去年のそれよりもずっと大変だった。暴走すんのが星奈だけではなく、ハルもだったからだ。
だけど……何故だろうか? 去年よりずっと楽しかったような気がする。やっぱり、全力で何かをしたのがいいのだろう。
そんなことを思っていたら、『ドッカーン!』という爆音を轟かせ、花火が打ち上げられた。会場の方は、激しい熱気と興奮と声に包まれている。
「どうしたの?」
「いや、やっぱ花火、綺麗だなって思って」
「確かにね。あれって作るのに一年以上かかるのに、輝くのはほんの一瞬。きっと、あの美しさの裏に職人さんの努力とかが詰まってるんだと思う」
「あぁ。きっと、そうなんだろうな」
たとえ一瞬だろうとしても、全力で輝く。それはまるでどこか、俺達と似ているような気がした。
「よし、じゃぁそろそろ〈グラディエータ〉を片付けに行こうか。これ以上ダラダラしてると流石に龍三先輩とかから叱られるぜ」
「たしかにそうだね。じゃ、急ご!」
俺達は再び自分の機体に乗り込み、格納庫に向かって走り始めた。




