Chapter 14 counterblow
day:5/15/2035 sun
鈴の〈ソルジャー・ソーサラー〉は、トンネルの中を走っていた。ただ、トンネルが狭いせいで肩や頭を壁にガリガリとぶつけてしまうが。
後ろから、ガゴン、ガゴンと何か、金属の落ちたような音が響く。
「え……嘘でしょ……!」
後ろを見ると、どんどん分厚い防火シャッターが降ろされていっている。
やばい……このままじゃ機体ごとギロチンでこの世からさようならになってしまう……! 慌てて操縦桿を動かして、更に姿勢を前傾させ、加速させる。
後々思ったが、ウサイン・ボルトの身長を五倍にしたら、こんな感じの走りをしたんじゃないか?
あと100m。だが、目前のシャッターが降り始めている。
「待ちなさぁぁぁぁぁぁぁい!」
機体をスライディングさせる。路面を装甲がガリガリと削り、派手に火花を散らす。
防火シャッターを蹴破り、工場内部への侵入は成功した。
「こちらドルフィン6! 工場への侵入は成功! 5、そっちはどう?!」
だが、なにも返ってこない。
「聞いてんの、大翔ぁぁぁぁ!」
「ちッ……あーも、何ァンなんだよ、あのナノマシン……」
そこに倒れていたのは、右手の親指、人差し指、中指、そして左腕が吹き飛んだ〈ソルジャー・マグナム〉。
大翔は、コクピットの中で呻いた。
砲弾は、確かにギリギリかするコースへ飛んだ。だが……何なんだ、あの手品は?
砲弾が空中に現れた『盾』に阻まれて運動が止まったかと思うと、逆再生されたかのようにこっちに戻ってくるなんて。
ただのチートだろあんなん……元の〈グラディエータ〉ですら厄介なのに、あの銀の鎧のせいで、難易度がノーマルモードからハードモードになったみたいだ。
カメラに映る二号機は、赤い光を撒き散らしながら宙に浮き、飛んでいってしまった。
『――ねぇ、聞いてんの!?』
「ああ、こちらドルフィン5、弾丸は命中したが、手痛い反撃を食らった。すまねぇ」
空では、大輔のF35が空戦を繰り広げていた。
十二時と八時の方向に、それぞれ一機ずつ、銀色のナノマシンでできた敵機が舞う。
もう手加減する必要はない。AIM-9X〈サイドワインダー〉ミサイルを選択。すぐに『ピーッ』という、ロックオン完了の証のアラームが響く。
サークルに敵機を収め、トリガー。
「フォックス2」
炎を振りまきながら、〈サイドワインダー〉は飛ぶ。
敵機は、急旋回してかわそうとするも、ミサイルがエンジンに直撃して爆散した。
「あとは後ろのやつを……」
エアブレーキを立てて、急減速。そこから、操縦桿を力強く引く。
機首が地面に対し垂直になり、空気抵抗で更に急減速。敵機の後ろに回った直後、姿勢を立て直す。
コブラ軌道。それがこの空戦機動の名だ。
この距離じゃ近すぎて、ミサイルを使うとこっちまで破片を喰らう。だから、使用兵装をミサイルから機銃に切り替え。
HUD上の緑色のガンサイトを、敵機にあわせる。
ガンサイトが赤く染まり、アラームが鳴る。
「フォックス3」
銃弾が、敵機に降り注ぐ。
オレンジ味のアイスキャンディーの群れは、エンジンや主翼前縁に当たり、黒い煙を吐きながら敵機は地面にキスした。
「どりゃぁぁぁッ!」
一号機は天使(仮)に向かって飛び上がり、斬りつける。
『ハハハ、何やってるんだい、君? そんなそよ風、痛くもないさ」
だが、軽々と空を飛び回り、攻撃が当たらない。
「畜生……弾丸は当たんないし、こっちは飛べないから刃が立たない……」
いたずらに時間だけが過ぎていく。
残弾は少なく、あちこちの関節は悲鳴を上げている。この前発動した〈リンクシステム〉とやらも動く気配がない。
どうすればいいんだ……
『こちら航空自衛隊新田原基地、第五航空団第202飛行隊! 第四蒼天大学附属学院BN部、応答せよ!』
四十代くらいのオッサンの声が、スピーカーから聞こえた。
「にゅーだばるって、たしか援護に来たとか言ってた……」
《その認識で間違いないかと》
そんなアホ話をしながら攻撃をかわしていると、
『こちらBN部部長、石川光莉です! 現在、出現した敵BN一機と交戦中、またBN部の一機がナノマシンに飲み込まれて、制御を奪われています! 至急、現在交戦中の敵BNに近接航空支援を!』
『了解。近接航空支援を開始する』
「間違っても、間違ってもうちの機体を攻撃しないでくださいよッ!!」
「止まってって、言ってるでしょッ!!」
星奈は、乱暴にタッチパネルを殴った。
だが、機体は赤い粒子をばらまいて加速するばかり。音や表示からして、エグゾリウム・リアクターの出力が通常以上になっていることだけは確かなのだが――
「何なのよこの暴れ馬は! 毎度毎度ハッキングされたりして言うこと聞かないで! ほんといい加減にしてよ!」
本当に……前の演習でも鈴のハッキングで騙されるわ、今回は操作を乗っ取られるわ、電子防護とか、セキュリティーソフトが弱すぎる!
〈グラディエータ〉は試作機ということもあって、まだ完全に電子戦装備が搭載されていない。せいぜいフェイズド・アレイ・レーダーが搭載されているくらいだ。
ワクチンプログラムは役に立たないし、どうにかして止めないと……
《――ルゼ……からレ――ワ―へのい……確認》
スピーカーから、ノイズだらけのわけのわからない言葉が紡がれる。
首の後ろから、駆動音が響く。
「え?」
首輪のようなそれが、私の首に触れた途端、声が聞こえた。
「なんで?」「お前のせいだ」「返して!」「畜生が!」「この野郎!」「神様!」「助けて!」「死にたくない!」「うぁぁぁ!」「やめろ!」「嘘だ!」「嫌だぁぁ!」「くそぉぉ!」「かぁさん!」「誰か!」「いたいよぉ」「さようなら」「せめてやつを」
「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」
そんな、断末魔の悲鳴のような、気持ち悪い言葉や感情、見たくもない地獄のような光景が押し寄せてくる。
吐き気がする。
必死に首輪を外そうともがく。
次の瞬間、私はコクピットの中にいなかった。
そこは、狂ったような朱色に染まった湖。空は厚く、黒い雲に覆われて太陽は見えない。あちこちに乾いた骨や死体、兵器の残骸が散らばっている。
水面に、わたしの顔が映る。
わたしのめが、まっかにそまって、ひかっていた。
きがついたら、どんどん、ドロドロしたあかいみずにしずんでいく。
「た……助け……て……!」
『ちッ、生産装置を壊されたか』
天使(仮)が毒づいたのを、確かに龍三は聞いた。
どうやら、鈴の方は作戦を成功させたようだ。
『空対地ミサイルを発射する、離れてろよっ!』
無線から戦闘機パイロットの慌てた声を、僕は聞いた。
「全員下がれ!」
叫びながら、〈ソルジャー・シーカー〉は後ろに下がる。
それと同時に、白い尾を引きながら飛ぶミサイルが、天使(仮)に直撃した。
『やったか!?』
大和の慌てた声が聞こえる。
煙の中から、赤い光が飛び出る。
それは天使(仮)の断末魔ではなく、攻撃だった。
赤い光はF35の主翼の片方を貫き、叩き折った。光の発生源をたどると、ランスの先端から発射されているようだ。
『うっそぉん……レーザーだなんて、ただのズルじゃん……』
光莉先輩もぼそっと呟いた。
「それなら……」
光莉は、〈ソルジャー・シーカー〉が持っている槍……〈ブリューナク〉を構え直す。
「よーし、準備完了っと」
そう言って、槍を突き立てた――地面に向かって。マニピュレータを操作して、槍の『隠し機能』を起動させる。
槍の石突からアンカーが射出され、天使(仮)の翼に絡まる。
更にもう一回ボタンを押し込む。
ワイヤーに電流が青い閃光を伴い、流れる。
同時に、赤い粒子の流出に滞りが生まれ、機体がぐらつく。
「やっぱり、これなら……!」
大翔が伝えた最大の弱点、電撃を活用した攻撃。
「そして……おまけにッ!」
カメラアイがより強く輝く。
ウイルスを流し込んで、制御を取り戻せば、無理に二号機を無力化しなくても……
『ドローンよ、敵を殲滅せよ』
何かのボイスコマンドだったようで、天使(仮)の翼が本体から外れ、四つの部品に分解される。
赤い光が、四枚の翼から、槍から、照射される。
「きゃぁぁぁぁッ!」
ビームは左肩、右膝、右手、右脇腹を貫通した。
画面の破片が左手をかする。
幸い、コクピットやエグゾリウム・リアクターはほぼ無傷のようだった。




