Chapter 13 birdcage
day:5/15/2035 sun
「ちょ……ちゃんと言う事聞け!!」
星奈は、コクピットの中で、操縦桿と格闘していた。
「〈ミカン〉! あんた仕事しなさい! ワクチンプログラム作ってウイルス追い出す!」
マイクに命令を飛ばしても、何も帰ってこない。
スクリーンには、真っ赤な0と1が映り続けて、全く外の様子が見えない。
「ベイルアウトすらできないし、これどうすればいいのよ……!」
『ハハハ、この程度なのか? 君たちの実力は!』
ナノマシンで僚機を量産した天使から、哄笑が響く。
う、る、せ、ぇ、よォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!
俺は相手の視界を奪うために、ペイント弾が入ったサブマシンガンを乱射する。が、相手が飛んでるせいでうまく狙えない。
《元から大和の射撃の腕前が悪いのが原因かと》
…………
「ハル……人には言わないでほしいことってもんがあるんだ……」
そんな事を言いながら、ワイヤーガンを発射して、相手の砲弾を回避する。
ちッ……こっちが得意な高速近接戦に持ち込めない! せめてやつを地面に引きずり降ろさないと……!
「ハル、やつがどうやって飛んでるかわかるか?」
《解析不能。翼に動力は確認されません》
「はぁ!?」
《あの赤い光が何か、機体を浮かばせる力を発生させているんでしょうけど……》
『ドルフィン4、上を見ろ!』
龍三先輩の怒鳴り声。
慌てて上を見ると、空中に大量の杭が浮かんでいた。
『君たち、雨は好きかい?』
天使(仮)のスピーカーが声を発した。それと同時に、ゲリラ豪雨並の激しさで杭が打ち込まれる。
「あぶねぇ! なんてことしやがる!!」
慌てて急回避。
だが、杭を避けきることは出来ない。右肩と、左膝の装甲が吹き飛んで内部フレームが露出する。
《警告、三番、七番電力系統にCランクの損傷。出力低下。予備に切り替えます》
「くっそ……〈ストームブリンガー〉あれば盾にしたんだが……」
「ドルフィン4、大丈夫か!?」
龍三は、マイクに向かって叫んだ。
『なんとか動けます!』
慌てた大和の返事が来る。
声を聞きながら、W-3D〈ソルジャー・シーカー〉の、両手につけた27式近接複合兵装〈ストライカー〉――鈴の〈アイギス〉の旧型だ――で、敵機三機まとめて殴り飛ばす。
『うっひゃぁ……やっぱ変わってないね、スタイリッシュな脳筋戦法』
横で槍をぶん回している光莉の〈ソルジャー・シーカー〉から、無線が入った。
「おいおい……閉じていた自動ドアを、腕力でこじ開けたことのあるお前には言われたくない。ていうか『スタイリッシュな脳筋戦法』ってなんだよ」
『あ! 今言う!? それ今言う事!?』
光莉のやつ、一応ハッカーなのに物理攻撃の方ばっかだしな……
だが、光莉の〈ソルジャー・シーカー〉が行っている電子戦支援の効果か、多少敵機のロックオン速度が鈍くなっている。
それを確認し、次の敵機に狙いを定める。
剣をはたき落とし、足払いを駆け中を一回転させる。回転の途中に、膝蹴り。浮いたところに追撃で正拳突き。
輪廻流格闘術〈爆裂〉。まともに食らった敵機は、一撃で吹き飛んだ。
『前から思ったけどさ、やっぱりあなたの輪廻流って古武道の中でもかなり殺意高いよね
……』
「そうか? コレでもまだ初級技だぞ』
「え? こんな方法でナノマシン、止まるのか?」
大翔は呟いた。
目の前に映るのは、銀色の塵に埋もれ、気絶しているパイロット。
「……こいつは早く知らせなきゃやばいな」
鈴は、必死に操縦桿を動かしていた。
目の前に佇むのは、銀の西洋鎧に包まれ、翼を広げて宙に浮かぶ二号機。
「星奈! あんた何やってんの!! 早くそのじゃじゃ馬を黙らせなさい!!!」
何度も何度も何度も、マイクに叫ぶ。だが、私の目の前にいるはずの彼女には、全く届かない。
とにかく、あの鎧を引っ剥がさないと、緊急脱出すらままならない。
そう思い、〈アイギス〉を構える。
『こちらドルフィン5! いいニュース二つと悪いニュース一つがある! まず、空自の援軍が二機きた! だが、一機撃墜され、もう一機が空戦中! そして、ナノマシンどもは電撃に弱い!』
大翔の声が、無線で響く。
『ちょっと待って大翔、君はどうやってナノマシンは電撃に弱いって知ってるんだ?!』
ノイズ混じりの龍三先輩の声が、マイクから伝わる。
『いや、撃墜された機体のパイロットが、ナノマシンにやられて暴れてたんで、スタンガンを使ったんですよ。そしたら砂みたいにナノマシンが崩れちゃって』
「ねぇ、それ本当!?」
『はぁ? 俺が嘘つく理由なんざぁないぞ』
「そうじゃなくて! もういい切る!」
『おい、ちょっ――』
ブツリと、無線を切る。スタンガンなら、どの機体にも着いていたはず。それなら……
「アレグロ! モード2に設定! 使用武装はスタンガン!」
《警告。現在、友軍機にロックオンしています》
「うっさい!」
アレグロの声が流れるスピーカーをミュートし、手動で武器を変更。
HUDに現れたターゲットサイトに、二号機の胴体をあわせ、横に走らせながら、トリガーを弾く。
左腕に取りつけられてあるテーザーが飛んでいき、装甲にひっつく。
その途端、糸が切れたかのように二号機は沈黙した。
いや、それで止まるんかい……
「よし! よくやった鈴!!」
私は、二号機のコクピットの中で思わず笑みを浮かべた。
どうやら、鈴がなんかして、何かしらの方法で操作を乗っ取ってたナノマシンを停止させたのだろう。
その証拠に、さっきまで写ってなかったモニターも復旧している。
「コレでやっと動かせ……あれ?」
ガチャガチャと操縦桿やペダル、タッチパネル、緊急脱出レバーを操作しても、何も反応がない。
「え? コレってもしかして……まだ壊れてる?」
いや待て、もしかしたら無線は動くかも!
「こちらドルフィン3! 応答してください!」
『星奈、どうした?! 大丈夫なのか!?』
慌てた大和の声が届く。
「モニターと無線だけは元通りになった!」
『モニターと無線だけは元通りになった! でも、緊急脱出とか操縦とかの回路が死んでる!』
大翔にも、その声は届いていた。
『くっそ……どうすりゃいいんだ!』
「俺が狙撃する」
『『大翔!?』』
慌てる二人の声が、無線から届いた。
「鈴、お前は予定通り生産装置をぶっ壊せ。それまでの間に、うまく胸部装甲だけを吹き飛ばす」
『ちょ、待って! あたしが〈アイギス〉で切ったほうが正確に――』
「切った後にまたわらわらとナノマシンが群がってきたら何の意味もないだろうが! 早くやってくれ!」
一方的に無線を切り、シートに備え付けてあるスコープを引っ張り出す。
距離を測ると、ここから二号機のコクピットまで、8917m。それに対し、〈グングニル〉の射程は10000m。つまり、十分に狙える距離だ。
だが、これだけでは当てることは出来ない。その理由は、偉大なる、だが今回は邪魔な自然と物理の影響だ。
風向き、弾丸の回転、地球の自転で発生するコリオリの力、そして重力。
風向きは、現在ほぼ無風。弾丸は時計回りに回転する。
そして日本では、コリオリの力により弾丸は、一キロ進むごとに東へ約80cm曲がる。今回の場合、7.1336mの誤差。
そして、重力による誤差も修正し、俺の直感までも駆使して、狙う。
〈ソルジャー・マグナム〉の体制を、直立から伏せ撃ちに変更。
スコープで、ライフルのガンサイトをコクピットスレスレに合わせる。そして、計算から得た場所へ移動させる。
俺は感じた。『こいつは、確実に当てる、いや当たる』と。
引き金に指をかける。
プラズマの衣をまとったAPFSDSは、轟音と反動とともに発射された。




