Chapter 12 Hot Scramble
day:5/15/2035 sun
航空自衛隊新田原基地、第五航空団第202飛行隊で、F35B〈ライトニングⅡ〉戦闘機二機が緊急発進しようとしていた。
『こちら管制塔。ペガサス1、2。今日の仕事は第四蒼天校上空に出た、所属不明機の対処だ』
ペガサス1――大山大輔は、コクピットの中で顔をしかめた。
「はい? なんで福岡のド真ん中にアンノウンがいきなり出てくるんだ?」
『わからん。現在第四蒼天校から放出され続けているナノマシンが関わっている可能性は高いらしいが』
「……何だよそりゃ。にしても陸自の連中は情けねぇな。予備兵力の学生に頼るハメになる
とは」
機体を滑走路に運びながら呟く。
『まぁ、『時代はBN』とか言っておきながら、結局は俺達が制空権を取らないと何も出来ないんですけどね』
後ろをついてきている2番機――北野歩武が茶々を入れてきた。
「よし、平和と給料のために頑張りますか」
ただでさえ、今は隣の中華人民帝国が妙な動きを繰り返しているせいで、スクランブル出撃ばっかりだが、楽しく暮らせて給料が上がるならそれに越したことはない。
機体のスロットルを動かし、エンジンの出力を上げる。
赤い炎を引きながら、ぐんぐんと滑走路上を加速する。そこから、エンジンノズルを動かす。
十秒間の、僅かな滑走を終えて、F35Bは空に浮かんだ。
二機のF35Bは、進路を北に取り、第四蒼天校にむかってマッハ1.6でかっ飛んだ。
「ちょっとちょっと、何なのあれぇ!?」
星奈は、グラウンドを二号機で走っていた。
『そんな事言われたって、わかんないわよ!』
噛みつくような、鈴の反論。まぁ、当たり前な話だ。
『ドルフィン5、援護を! 早くしなさい!』
『るっせぇ、こっちもてんてこ舞いなんだよ! 部長たちの方にもアンノウンが出現してる!』
まぁ、ここにはスナイパーは一人しかいないし……
そんなことを思いながら、後ろを振り向く。
そこに居たのは、DVDのような構造色を持った一機のBN。特徴的なのは色だけではない。関節すら見当たらない、流線型の外観。
金属製の幽霊というのが一番しっくりくる。
「なんなの……ハンドガン撃っても聞かないし、剣も駄目にされるし……」
その手に握られているのは、刀身の半ばほどからへし折れた〈カリバーン〉。
盾代わりにして拳を防いだら、こうなってしまった。もう、あんなのただのチートでしょ……
『ドルフィン3、後ろ! 危ない!』
慌てた鈴の声。気がつくと、折れた〈カリバーン〉を握っていた左腕に、無人機のナノマシンが絡みついている。
「はな……せぇッ!」
無理やり腕を動かして、振りほどく。
バキリという、嫌な音。見てみると、肘のあたりから腕の部品が『持ってかれた』。
「くっそぉ……なんなのあれ……!」
次の瞬間、無人機が陽炎のように揺らめき、消えた。
「え!?」
『ドルフィン3! 後ろ――』
大翔の声が聞こえたとき、カメラの視界が銀一色に包まれた。
「嘘だろ、おい……」
大翔は、あまりの衝撃に操縦桿から手を離してしまった。
カメラに映るのは、無人機が二号機を包み込み、吸収する姿。
「ドルフィン3、応答しろ! おい! 一ノ瀬!!」
『大翔、無理よ……』
無線から、鈴の諦めたような声が響く。
「はぁ? 何言って」
『あの銀色、電波を吸収してる!』
「……何だって!」
『無線が、銀色のやつに吸収されて届かない! なんとかして引っ剥がさないと……!』
『ドルフィン4、こちらドルフィン1。悪いニュースが来たよ!』
俺が、天使(仮)に弾丸を打ち込んでいるときに、光莉先輩からの無線が響いた。
「なんです!? 所属不明の未確認機と、アマチュアでしかない俺達が戦う羽目になる以上に悪い状況って――」
『ドルフィン3のシグナル消失! そして、5と6が攻撃を受けてる!』
その声には、確実な焦りが浮かんでいた。
「俺が行きます!」
『馬鹿野郎、お前が狙われてるんだろうが! お前が行ってもどうしようもない!!』
龍三先輩が無線に割り込んできた。
「でも……!」
《報告です。天使が発している電波を解析したところ、あの機体がナノマシンの制御を握っている模様》
「つまり……やつをぶっ壊せばゲームクリアってことだな?」
《正解です》
「HQ、こちらペガサス1、作戦区域に到着した。友軍機を視認、報告より一機少ない。あと狙撃型が爆撃を受けている」
大輔は、いつ敵機が来ても大丈夫なよう目を光らせながら、無線に声を吹き込んだ。
『ペガサス1、敵航空機の国籍マークを視認できるか? 確認せずに落とすと、後々外交問題になる』
『いや、マークは見えない。というか地金の銀色一色で、ステルス塗料の塗装すらされていない』
司令部の問に、歩武が答える。
『……そうか。なら問題はない。国籍マークがついてないなら、他国から嫌味を言われる筋合いはないからな。奴等を学生と協力して撃墜しろ』
それを聞いた俺は、操縦桿を横に倒して旋回し、兵装選択ボタンを押して中距離空対空ミサイルである、AIM-120 AMRAAMを選択する。
レーダーロックが完了した証のアラームが響く。
「フォックス3」
無線に発射をコールしながら、赤い発射ボタンを押した。
ロケットモーターの白煙を吐きながら、ミサイルが飛ぶ。
無人機の主翼の付け根に直撃。ミサイルの炸薬が爆発し、火の玉が上がった。
「やったか……?」
『バカヤロォ! そんな事言うんじゃない! 死亡フラグだろそれ!』
歩武が、慌てて突っ込んだ。それと同時に爆発で生じた煙が晴れる。
「あ……」
『お前がァ! そんなことを! 言うからァァァァァァァッ!』
無人機は、生きていた。機体を分解させて攻撃を回避し、爆発の直後また組み立て直す。そんな芸当によって。
今度は無人機がミサイルを撃ち込んでくる。
「ブレイク! ブレイク!」
増槽を落とし、叫びながら高G旋回。9Gの重力により、体に食い込むベルトが痛い。それでも撃墜されるよりかは遥かにマシだ。
『畜生……フレア発射!』
歩武機はバレルロールしながら、フレアをばらまく。
だがしかし、ミサイルは無情にも、歩武機に命中した。
『うぁぁぁぁぁぁぁッ!』
見たところ、コクピットには目立った損傷はないが、尾翼が吹き飛んでいる。
『すまねぇ、脱出する!』
キャノピーをぶち破り、射出座席がロケットモーターで打ち上げられる。その直後、パラシュートが開いた。
「歩武! 陸で会おう!!」
そう返事を返してから、無線機のボタンを押す。
「新田原HQ! こちらペガサス1、ペガサス2が撃墜された! ただ、脱出には成功した模様!」
『ペガサス1、爆撃の前に航空優勢を確保しろ! 救援を向かわせる!』
「あー、畜生! なんで今日に限ってこんなに仕事が多いんだよぉ!」
大翔は、コクピットの中で叫んだ。
空からの爆撃に、同時に二箇所から発令された援護要請。なんなら味方の戦闘機も落とされ、一ノ瀬の機体は敵に吸収された。
もう訳が分からない!
そんなことを思っていると、目の前に何かがゆっくりと落ちてきた。
「おっと!」
とっさにバックステップ。
そこを見ると、パラシュートで降りてきたパイロットがいた。いや……『パイロットだった人間がいる』と言ったほうが正しいのか?
ぐんぐんと、銀色のなにかに包まれていって、パイロットがその中でもがいている。
「……ッ! 大丈」
慌てて銀色のなにかに手を伸ばす。だが、それと同時に弾丸が肩の装甲を叩く。
パイロットが拳銃を撃ってきたのだ。
パイロットは銀色の何かの梱包が解かれると、執事服で、無表情に、拳銃を構えて佇んでいた。




