Chapter 15 Rescue Operation
day:5/15/2035 sun
「光莉、大丈夫かおい!?」
龍三は慌ててマイクに向かって叫ぶ。
『……うん、平気。体は動くけど、機体は動かない。ハッキングも無理だったし、どうすればいいんだろ』
それにしても、厄介すぎる……ビーム攻撃だなんて。ああいう高威力の遠距離攻撃と中距離戦闘だなんて、非常に戦いづらい。
せめてハンドガンぐらいは使わせてもらえればよかったんだけどなぁ……
「大和、とりあえずお前は鈴と協力して、星奈を助けに言ってくれ」
『でも……龍三先輩一人じゃ――』
「いいから早くいけ! 陸自が来たときに間違って撃破されちゃどうしようもない!」
『……了解』
そう言って、一号機が背を向け走り去る。
『あ、おい! 行くなよ! もうちょっと戦りあおうぜ!』
天使(仮)が慌てた様子で声を上げる。
「まぁ待てよ、大和にゃぁ振られたようだが、僕が相手してやろうか」
そう言いながら、〈ソルジャー・シーカー〉のコクピット内で、予め渡されていた『鍵』を、タッチパネルの裏に差し込み、回転させる。
「現場の判断で、バトルリミッター、及びリアクターリミッターの解除。パスワードはKw1341ds23。陸自の許可は取ってある」
《了解》
タッチパネルの画面に赤文字の二分のカウントダウンが表示されると同時に、リアクターの駆動音が、より強く響く。
カメラアイの緑の輝きも、更に強まる。
「さぁ、行こうかッ!」
機体は空高く、跳躍した。
『へぇ、リミッター外して食らいつくんだ。その機体も、自分の体もただじゃ済まないよ』
天使(仮)は、ビームの嵐を降らせる。それを見越してワイヤーガンを使い、空中で位置を細かく変化させながら、落ちる。
握った右拳を、天使(仮)の頭に叩きつける。
「まだまだぁッ!」
腕のパイルバンカーを打ち込み、バックステップ。杭の中に仕込まれていた、炸薬が爆発した。
『何やってるんだい? 風でも吹いたのか?』
パイルバンカーは、確かに射出され爆発したはず……!
よく見てみると、炸裂したのは実弾ではなく、ペイント弾だった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! 徹郎てめぇ何やってんだぁぁッ!」
その頃。徹郎がシェルターの中で、せんべいをバリバリとかじっていたということは、長らく僕は知らなかった。
だが、ふたたび〈ソルジャー・シーカー〉で突撃する。目的は唯一つ。ビーム兵器対策だ。
あのビームは出力が高すぎる。分厚い胴体の装甲を貫通するのならば、格闘戦に持ち込んでビームを撃ったら自分も被弾するように仕向ければいい。
「せぇい!」
膝蹴りを、天使(仮)の胸に叩き込む。そこからさらにアッパーカット。
宙を舞う天使(仮)を追うように〈ソルジャー・シーカー〉も跳んだ。
『くらえッ!』
天使(仮)は、ランスを突き立てる。
「でぇいッ!」
〈ソルジャー・シーカー〉は回し蹴りでランスを迎撃する。双方反動で吹っ飛んだ。
『やるな……あなた、名のあるパイロットでしょう?』
「名乗るほどの者でもない!」
二機は地面を低く駆ける。
ふたたび、拳とランスがぶつかりあった。
「今だ、大翔!」
『全く、人使いが荒い!』
大翔は、ふたたび〈ソルジャー・マグナム〉の右腕を動かす。
さっき打ち返された弾丸のせいで、左腕と、その破片をモロに受けて指三本が吹っ飛んだ。
だが……指なら、小指と薬指が残っている。
〈ソルジャー・マグナム〉の顎で無理やり〈グングニル〉を抑え、手首を回して掴ませる。
チャンスは一度。また外すことは出来ない。
さっき頭を打って、額から血が流れている。全く、なんで俺はこんな映画のワンシーンみたいな状況に叩き込まれるのやら。
死んだ操縦桿の代わりに、キーボードを操作する。いくつかの数値を入力し、エンターキーを叩く。
「……当たれ……そして…………くたばりやがれ……!!」
ふたたび、死の神の槍は、解き放たれ、音速の八倍の速度で獲物を襲う。
鈴は、二号機を追いかけていた。
にしても……大翔のバカは何をやってるんだか。狙撃をしくじって反撃食らって、伸びてるだなんて。
「あんたらの尻拭いをさせられるとは、あたしもついてないね……」
その時、カメラは捉えた。
前を飛翔する、二号機の姿を。
「えぇいッ!」
腰からダガーを引き抜き、ぶん投げる。
だが、ダガーは翼から発せられた赤い光に貫かれ、届かなかった。
え? あれの翼、光線銃なの? ちょ、聞いてないわよ! 翼からなんか無人機が出てきてオールレンジ攻撃なんてしないでしょうね!?
『攻撃対象確認、殲滅する』
無線に、声が届いた。
それは、確かに星奈の声だったが、機械のような無機質な声。
「ちょ、まっ――」
足元に、レーザーが飛んでくる。右足の爪先の装甲が溶解した。
《警告。警告、。右脚部にレベル3の被害。電気経路をサブに切り替えます》
AI〈パラレル〉の音声と同時に、タッチパネルに、損傷箇所のデータが表示される。
それでも、走る。
飛び上がり、〈アイギス〉の爪を突き立てる。でも、〈アイギス〉の爪は、左肩の装甲をえぐっただけで、止めることは出来なかった。
逆に、右腕を〈エクスカリバー〉で叩き切られる。
それと同時にカウンターで、テーザーガンを起動させる。
本来、対人用に使うものなのだが、電流に弱いナノマシンにも使えるはず……そう祈って、打ち込む。
だが、同時に発射されたレーザーを両足に打ち込まれ、動けなくなってしまう。
轟音を立て、〈ソルジャー・ソーサラー〉は建物にめり込む。
静かに降りてきた二号機は、〈エクスカリバー〉を振り下ろす。
「…………!」
だが、刃は〈ソルジャー・ソーサラー〉に触れることはなかった。右肘に、投擲された脇差が突き刺さったからだ。
刀が飛んできた方向を見る。
七階建てくらいの建物の上に、青い機体の影。翡翠色のデュアルアイを輝かせ、日光を背負い静かに佇んでいる。
『こちらドルフィン4、援護に回る』
よかった、間に合った……! そう、俺は内心胸を撫で下ろした。
さっきの戦闘で頭を打って血が流れてるが、それはとりあえず関係ない。
「ハル、自衛隊が来るまで、後どれぐらいなんだ?」
《残り三〜五分と推測します》
「そうか、なら二分でクリアしてやる!」
自衛隊に、二号機を撃破されるのだけは、それだけは防がないと……!
二号機は、右手から左手に〈エクスカリバー〉を持ち替えて、空高く舞い上がり襲いかかる。
右手で引き抜かせた〈ムラマサ〉で、〈エクスカリバー〉を受け止め、地面に叩き落とす。それを追い、建物から飛び降りる。
〈ムラマサ〉で〈エクスカリバー〉を握った手を切り飛ばし、地面に叩きつけられた二号機の頭を、左腕でぶん殴る。何度も、執拗に。
BNの頭はただのカメラ兼銃座ではない。頭部には、メインコンピューターも搭載されている。
コンピューターがハッキングされてるなら、物理的に破壊すればいい。
追い打ちに〈ムラマサ〉で頭部を切断しようとしたとき、頭部の左側が潰れた二号機は、一号機の胸に頭突してきた。
「ぐっ……!」
《コクピットにレベル2の損傷。戦闘の継続は可能》
二号機は、手のひらを失った左手をこちらに向ける。そこから、虫の大群のようにナノマシンが跳んでくる。
「うおっ!」
慌ててかわしたが、左肩に当たってしまった。
《!? 左肩装甲にレベル3の損傷。ナノマシンによって削り取られたようです》
カメラを動かして見てみると、そこだけ食い荒らされたかのように装甲がなくなっている。よくよく観察すると、フレームも損傷しているようだ。
「ビームの次は蝗害かよ、そりゃずるくねぇか!?」
左腕のワイヤーガンを建物に打ち込み、飛び上がる。ビルを蹴り、飛び立とうとしている二号機を蹴る。
唐突に、頭が冴えてきた。
《確認。リンクシステム起動》
シートから『首輪』が出てきて、首を機体と接続させる。
二号機が乱射するビームをかわしながら、ワイヤーを使って高速機動を繰り返す。どんどん距離を詰める。
のこり50m、40m、30m、20m、10m――
「ハル! 〈ムラマサ〉をスタンモードに切り替えろ!」
《ラジャー!》
0m。
〈ムラマサ〉で、二号機の頭部に突きを繰り出し、高圧電流を叩き込む。
「止まれぇぇぇぇぇぇッ!」
突き刺さったままだった〈ライキリ〉も引き抜き、両肩と両腰を切断する。
しばらくビクビクと痙攣したように動いていた二号機は、完全に沈黙した。
「ハル、緊急脱出ハッチ解放! 急げ!」
《もうやってます!》
『首輪』が外れ、圧縮空気が抜ける音と共に胸部ハッチが開く。それを見て、コクピットから飛び出す。
ナノマシンの鎧が、灰のように崩れ落ちて本来の姿に戻った二号機のコクピットハッチの上に飛び降り、緊急解放レバーを引っ張る。
「星奈!」
赤い水の中で、私は必死にもがいていた。
外では、二号機と一号機が戦っている。それとともに、硫黄と金属の混じったような、線香花火の後の匂いのような何かがする。
上から、何かが降りてくる。
一号機が、腕を差し出してくる。
段々と、一号機の姿が、大和の姿に変わっていく。
「星奈、大丈夫か!?」
気がついたら、もうあの地獄のような光景は消えて、もう慣れた二号機のコクピットになっていた。
大和が、焦って私の肩を揺らしている。
もう、なんだかほっとして、私は意識を沈めた。
『あー、なんでこんな事になったんだろうなぁ』
翼が折れ、頭が潰れ、両手両足が使い物にならなくなった天使(仮)は、〈ソルジャー・シーカー〉に掴まれていた。
「そんなことなんか、僕が知っているわけがないだろう? とりあえず、自衛隊が来るまでそのコクピットの中で大人しくしていろ」
龍三は、冷たい声を返す。
『ハハハ、君は優しいんだね? だけど、それが戦場じゃ命取りになるんだ』
突如、視界が真っ白になった。
「スモークディスチャージャーだと!?」
『そんじゃ、また次の機会にね、脳筋ゴリラ野郎』
霧が晴れたときにはもう、天使(仮)の姿はなかった。
「だ、れ、が、脳筋ゴリラ野郎だぁっ! 僕は定期テストで毎回450点以上とってるぞぉっ!! 今すぐ訂正しろぉぉぉっ!!!!」
day:5/23/2035 mon
「で、また病院送りかよ……」
再び、俺は校内の病院に送り込まれていた。そういや英語と社会の宿題終わってないな……ハルに頼んで持ってこさせてるのに、なかなか来ないし。
これは諦めて怒られないとか……英語の森中先生はともかく、社会の尾道先生は怖いんだよな……嫌だなぁ。
病室には、俺だけではなく星奈の姿もあった。
俺は頭の怪我と失血のせいで、星奈は二号機が乗っ取られたときの後の検査のための入院だ。
「星奈、そういや二号機が乗っ取られたとき、どうだったんだ?」
点滴の針が刺さった右腕で、上体を起こしながら口を開く。
「うーん……それがナノマシンに機体を包まれた後からは、全く覚えてないんだよねぇ」
向かいのベッドの星奈が、頭をかきながら答える。
「ふーん、あれか、人の頭はとんでもなく怖かったことは勝手に忘れるっていう」
「多分それじゃない? 私生物学とか苦手だからわかんないけど」
そんな雑談をしていると、病室のドアが開いた。
「お見舞いです。頼まれていた宿題も持ってきました」
「おお、ハルか……っておい、何だその格好!?」
ハルは、何故か第四蒼天校の女子制服を着ていた。え、待ってくれ……あいつ、学籍とか
持ってなかったよな? 体格も星奈や鈴、光莉先輩とも違うからBN部の女子から借りれるはずもないし……?
それにそもそもウチの学校は入学者以外が制服とか備品を買うことが出来ないハズ……
マジでどういうことだ?
「ああ、これですか。陸上自衛隊上層部の判断で、国立第四蒼天大学附属学へ転入したためです」
「え……? ロボットも入学できんの、うちの学校?」
星奈が、驚きの声を上げる。
「はい。ちなみにあなたや大和、鈴、大翔と同じクラスです」
……何だか嫌な予感がする。
「ち、ちょっと待ってくれ? 部屋はどうなるんだ?」
「今まで通り、大和の部屋であなたの監視です」
「……嘘だろおい……」
俺の部屋によく星奈が来たり、ハルがいるのを見られたりして、俺の校内の立場がかなり危ういのに……
「それと、あなた達は退院してよいそうです。あと、明日の予定は学習者用パソコン内のメールにあります」
そういや確か明日は……
「あれ、あしたって確か……平和学習で、長崎に行くんだっけ?」
星奈が、俺が言おうと思ったことを、また先に言ってしまった。
「どうぞ、こちらです」
光莉は、龍三とともに一人の男を案内していた。
白い白衣を羽織った、車椅子の五十代後半くらいの青年。
「あーあ、、ひどいやられ方してんなぁ、全機」
両手両足が取られて達磨になった二号機の前で、彼はポツリと呟く。
「いえ……少なくとも僕の〈ソルジャー・シーカー〉と、一号機はまだマシなんですが……」
僕は慌てて釈明する。まぁ、光莉の機体とかはボロボロで、すぐにでも整備が必要な上体なのだが……
「何いってんだ、結局全機オーバーホールが必要だぞ。一号機は両肩のまわりが吹っ飛んでるし、〈シーカー〉の方は、フレームの歪み具合、エグゾリウム・リアクターの匂いからしてリミッター外したろ」
「そ、それは……」
「坊主、そんな風に隠し事すんのはよかねぇぞ。まぁ、それはともかく……こいつらをブッ壊しやがった部員どもに、データの吸い出しが終わってから伝えとけ」
「伝えておけ、とは?」
光莉が尋ねる。
「そりゃぁ、簡単だ――機体をどうチューンナップしてほしいかっていう要望書と、機体に入れてほしいパーソナルネームを書け」
彼は、車椅子を操作して、こちらに向く。
「この大門誠一郎博士が、お前らひよっこどもの機体をもっと強くしてやるってな」
そして。どこかでは、一人の少年がVRゴーグルを外し、スマホで誰かと連絡を取っていた。
「教主様、ええ、目的は果たせました。『巫女』に、予め渡されていた例のデータをリンクシステム経由で流し込んで、『覚醒』させました。今はまだせいぜいレベル1ですが……計画に問題はないかと」




