Chapter9 Awakening of the fighter
day:5/7/2035 sat
「ヒートモード、起動!」
星奈は、機体に搭載されているマイクに叫んだ。
〈エクスカリバー〉の刃が橙色に染まり、シューシューと煙が昇る。これが〈エクスカリバー〉の隠しモードだ。
持続時間が短い代わりに、切断力を大幅に向上させる……のだが、今回は訓練なので実際には発熱していない。カメラで取り込んだ画像にエフェクトをARで追加しているだけなんだよね……
〈エクスカリバー〉を振るう。途端にクローは吹き飛んだ。
「これで……トドメだッ!」
ハンドガンを投げ捨て、逆手で〈カリバーン〉を抜き、こちらもヒートモードにする。
二刀はそれぞれ右肩、左腰を使用不能にした。
『撃破。鈴は回収版が来るまでコクピットから出るなよ?』
無線から、副部長の声が聞こえる。
『了解……にしても、いちばん最初に落ちるとはねぇ……』
同じように無線から、どこか悲しげな相手の声が聞こえた。
「よし、じゃ援護に行こうかな?」
私は二刀のヒートモードを切ってから、鞘に仕舞い、援護に行くために駆け出した。
大翔は、コクピットの中で舌打ちした。
それも仕方ない。だって相手があまりにもウザいからだ。
だって……ことごとくこちらの『必殺の一撃』をかわして、カウンターを飛ばしてくる。それにわざわざ〈グングニル〉を使えないようにするために、〈グングニル〉とマグナム本体をつなぐケーブルを執拗に狙ってくる。
このケーブルがないと、撃つのに必要な電力をおくれない。
普通、BNは手のひらのコネクタから手持ちの装備に電力を送ったり電気信号を送受信したりする。
しかし〈グングニル〉の場合、必要な電力が多すぎて、バックパックのバッテリーに有線接続する必要がある。だから、ケーブルは命綱だった。
だが、ヤツもカウンターを食らって片腕だ。つまり……
「これって、両手がなくなったらヤツ攻撃できなくなるんじゃね?」
俺は黒い笑みを浮かべ、〈グングニル〉を構える。
狙いは、残った右腕。
「喰らえ」
閃光と爆音とともに、弾丸は発射された。
狙撃型の手にしたレールガンから、光が漏れ出た。
やばい。もう避けられない。
たぶんあの体勢からして、俺の右腕を狙っている。右腕がなくなれば、ほぼ確実に戦闘力が下がる。
あれだけは食らってはいけない……!
でも、無理だ。音速の七倍以上のスピードで飛んでくる物体を回避する方法なんて……あるわけがない。
無理だ。星奈には悪いけど、負けてしまう。
それにアイツはたぶん、まだ電子戦型と戦ってるはず。今俺がやられたらレールガンによる遠距離からの一方的な射撃の的にしかならない。
どうすれば……
その時、俺の思考が一気にクリアになり、周りのものがすべてスローに見えた。
そう、あの事件のときや、一ヶ月前のように。
操縦桿を動かす。
それに対応して一号機は、左側に倒れた。いや、倒れてはいない。体重移動による機動力の上昇。
重たい〈ストームブリンガー〉をぶん投げ、レールガンの砲身に突き刺す。
ワイヤーガンを放ち、ワイヤーで引き金を引く。
〈ストームブリンガー〉から砲弾が発射され、レールガンを爆破した。
《システムアナウンス。権限レベルが0から1へ上昇。リンクシステムのを起動します》
「はぁ? 何いってん……」
突然、椅子から『首輪』のような部品が現れ、俺の首に巻き付く。
「お。おいハル? なんなん――」
《神経スキャニング完了。BMI起動》
突然、視界にHUDの映像が《投影》される。
何が起こっているんだ……これじゃぁ、BNに『乗っている』というよりかは、自分が巨大化したようだ。
《リンク完了。メインプログラムをシステム1から2に切り替え》
「おい、ハル!? 何やったんだ?!」
《〈グラディエータ〉の制御システムにあなたの思考を直結させました》
「だから、具体的にどうしたんだよ!?」
《簡単に言うと、体を動かそうと考えると、そのとおりに〈グラディエータ〉が動くというわけです》
「はぁ??!!??」
《今は話している場合ではありません。ほら、右から来ます》
「うぉ!?」
大昔の映画で、たしか後ろにのけぞって銃弾を回避するシーンがあった。ちょうどそのような姿勢で、ガトリングの射線をかわす。
にしても……すごい。本当に自分の体みたいに動かせる。ただ、今の状態じゃ片腕が動かないのがネックだが……
「……攻略法は見つかった。やつを叩き潰す!」
「なんなんだ……ありゃぁ」
思わず、大翔は呟いた。
視線の先にあるのは、例の近接型。だが……様子が先程までとは違う。
デュアルアイが緑色から、水色に変わっている。
BNのカメラの色は無人が黄色、有人が緑と世界共通となっている。だが……水色など聞いたことない。
それに、動きのぎこちなさが消えている。
乱暴に言ってしまえば、BNの操縦は格闘ゲームと同じ。使うのがコントローラー一個ではなく、スティック二本とフットペダル、タッチパネルとマイクであるのが違いだ。
それ故、プログラムした動きしかBNは出来ない。BNにピースサインでもさせたいなら、ピースサインのデータを予め入れないとなのだが……
あまりにも、あの青色の動きは自然すぎる。
そして……暗く、そして非常に重たい圧力。
まるで炎のように熱く、氷よりも冷たく、鋭い何か。狩人である親父が鹿にライフルを向けているときの雰囲気と、どこか似ているような……
そう思っていたとき、破裂音とともにやつの姿が消えた。
「!? どこだ?!」
慌ててスクリーンを確認したが、奴の動きは速すぎる。FCSでロックしようにも、一瞬出はずれてしまう。
「まさか……速すぎてセンサーも追いつけないのか?!」
これだ。
俺が求めていたのは、これだ。この速さ、この反応速度、この出力。この機体は腕力が足りないから、まだダガーナイフのほうが使いやすい。
もはや弾丸なんて喰らうこともない。流石に機体は弾丸より速くは動けないが、砲身の方向である程度予測は付く。
どんどんどんどん狙撃型へ近づいていく。
あのガトリングはやつの胸より下から飛んでくることはない。だから姿勢を低くして、矢のように突撃する。
「セェイッ!」
逆手に構えたナイフを跳ね上げ、狙撃型の左腕を潰す。
「次ぃ!」
さらに馬乗りになり、首にナイフを突き立てる。
「ラストォォッ!」
コクピットのある胴体にナイフを突き立てようとしたとき、
《演習終了。リンクを切断します》
ぷしゅー、という音とともに『首輪』が外れる。
「ハル……『レベル』って何のことなんだ?」
《回答不能》
「……なら、グラディエータは何なんだ?あんな訳の分からないシステム積んでいるけど、ほんとにただ
の量産試作機なのか?」
《回答不能》
「……そうか……」
一人でそう呟いた後、ベルトなどの安全装置をすべて外してから、俺はハッチを開け、外へ出た。




