48話 ゲリラライブしかない!
ミネルヴァはさっそくメンバーへと手紙をしたためる。
「聖イーグルの日、14時。中央広場に集合。再始動よ」
念のため、すべてアンナの名前を語り、ラミー・ブックストアを通して郵送してもらう予定にする。
アレックスは……アレックスは帰ってこれるかどうかもわからない。ただ「聖イーグルの日、14時に。できることなら」とだけ、届くかわからない手紙を戦地へと送る。
それから。第一にすることは“模様替え”だ。
ミネルヴァはアンナを呼び寄せて、「模様替えをしたい」と伝えた。
「模様替え、ですか?」
「そう。いらない物を箱に詰めるから手伝ってほしいの。気分を変えなくちゃ」
「承知しました」
アンナは意味ありげにこちらをチラと見るが、何も言わずにメモをとる。
話が早い。何かを企んでいるのかはわかっているけれど、それについて追及することはない。
アンナはなかなか有能なスタッフだ。
ミネルヴァはにっこりして、部屋の中からゲリラライブに使えそうなものをピックアップしていく。
豪華なアイボリーのベッドスローは、広場へと向かう花道がわりに。それからフカフカのクッションにペンナイフを突き立てれば、中からあふれ出すのは美しい純白の羽毛だ。これを横からパタパタと扇げば、どんなに美しい演出になるだろう……。
楽器は……。やっと一本手に入れたヴァイオリンは、ミルトンのくそ野郎に破壊されてしまった。アカペラにして歌うか、もしくはカホンでリズムを刻むだけにするか。カホンなら万一見つかったとしても、楽器とはわからないはずだ。
あとは……。衣装は無理だとしても、できれば揃いのアクセサリーをつけたい。
何かいいものがないかとクローゼットを開けて探してみる。と、過去のミネルヴァのやりかけの刺しゅうが目に入る。
「ふふ。不器用なミネルヴァ」
美しい布に刺しゅうを施そうとしているものの、縫い目はガタガタだ。
赤、白、青、黄色をベースにしたサテンの布を選び、裁縫セットを手にする。マーガレットほどはうまくできないけれど、それでも、前世では針と糸を持ってロージアの衣装の手直しをしたことはある。
「……お手伝いしましょうか?」
考え込むミネルヴァにアンナが声をかけてきた。
「いいの。これは私の手でやりたいから」
以前のミネルヴァの人生の続きを紡いでやりたい。
――あなたがいなかったら、今の私もいないのだから。
……
そして聖イーグルの日まで1週間というある日――。
「ミネルヴァ様!」
ソファで揃いのリボンを作っていたミネルヴァのもとへ、アンナが駆け込んでくる。走ってきたのであろう、はあはあと息をきらしているのに、その顔色は真っ青だ。
「こちらをご覧ください」
手にしているのは外で配布されたであろう号外新聞だ。劇画タッチで描かれているのは、戦闘服に身を包んだアレックスの姿……。嫌な予感に、受け取ろうとする手が震える。
『カナード族の猛攻! キルケ渓谷での戦乱ののち、アステル国軍隊は散り散りに。
皇帝代理として大将をつとめていたアレックス殿下は渓谷にて落馬のち行方不明』
パサッ。
思わず新聞が手から落ちる。
「何それ」
顔から血の気が引くのがわかる。
『俺は死なないよ』
出征前、アレックスは確かにそう言った。
「……漫画みたい」
床に膝をつくと、嫌でも新聞の文字が目に入る。「行方不明」。
いつの間にか足元に来ていたヴィオネッタが、珍しく脛にスリスリと身を寄せてくる。
「大丈夫。きっと戻ってくるわ」
誰にともなく、ミネルヴァはつぶやく。
「だって、アレックスは和睦のために行くって言っていたもの」
「ミネルヴァ様……」
もしこれで本当にアレックスが戻ってこなかったら、ミネルヴァは一生ニコライを許すことはないだろう。
よろよろと椅子に座り直すと、作りかけだった赤いリボンを手に取り、一心不乱に針を動かした。




