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47話 届かない手紙と嬉しい便り


 王宮から出ることもなく過ごすこと数週間。

兄への謁見の依頼は出しているが、なかなか許可は下りない。妹のことは溺愛していたかのように見えるニコライだが、側近がそれを了とはしないのだろうか。

 

 それに手紙も、出すことはできるが、返事が届くことはない。

もしかしたら、兄ニコライもしくはルーヴル公の手のものが手紙のやりとりを阻止しているのかもしれない。

なんだったら自分の出している手紙だって、相手に届いているかもわからないのだ。そろそろマーガレットはガストニアに着いたのだろうか……。


「はあ~」

 ミネルヴァは、ライティングデスクに座ったまま、ため息ばかりをついてしまう。

「ミネルヴァ様、少しお休みになったほうが」

 アンナがハーブティーを運んできて、レモングラスの良い香りが漂ってくる。

「ハチミツをいれましょうか?」

「ええ。お願い」


 アンナがティーカップとともに、「それから」と封書を差し出す。

 封書は手紙というには大きく、何かの冊子が入っているようだ。宛名を見ると、“ラミー・ブックストア新刊案内”とある。


――お兄様が差し入れたのかしら?


 ペーパーナイフで封を開け、“春の新刊案内”と銘打った冊子を取り出す、と。

ヒラリ。冊子から一枚の紙が落ちる。

 拾い上げると、それはバートラムからの手紙である。


「!」

 さすがバートラム。蟄居中で時間がある皇妹に懇意の書店からのカタログなら、怪しまれることはない。手紙を持つ手に力が入る。

 

「ミネルヴァ様


あれからいかがお過ごしでしょうか。

私、バートラム・グリーンは蟄居を命じられましたが、最近は家をおろそかにばかりでしたので、これは良い機会とばかりに家業に取り組んでおります。

 また、没収されたマイト地区は、おそらく工場の密集地であることから目をつけられたのでしょうが、

もとより治安が良くなく、手を焼いていた地域でもあります。

 ミネルヴァ様におかれましては、あまりお気にやまれませぬようご注進申し上げます。


 また、ダグラスがサルコア国にて貿易学を学ぶために留学するということで、一度挨拶にやってきました。一時期は相当落ち込んでいるようでしたが、新しい音楽に触れるのが楽しみだと言っており、まだまだ懲りないようです。


「異国の流行りを勉強してまいります。大作曲家ダグラス・ポートの新境地を楽しみにお待ちください」との伝言です。


 おそらくもうすぐ反乱も平定され、アレックスも戻ります。

 また召集がかけられるのを、心待ちにしております。


追伸

 もし私に連絡を取りたいことがあれば、ラミー・ブックストア宛に

 封書にて新刊の申し込みをしていただければ、主人がとりつぎをしてくれるそうです。


バートラム・グリーン」

 

 ミネルヴァは手紙を読むと、「ダグラス! バートラム! 良かった……」とつぶやく。

とりあえず、バートラムとダグラスは元気でいるらしい。そしてどうやら自分を恨んでいる様子もない。

サルコア国は確かに遠方ではあるが、治安も悪くないし、文化的にもユニークなものがある。きっとダグラスにとっては悪くない経験になるはずだ。

 無事を知らせる手紙に、おのずと目に涙が浮かんでくる。

 

 そしてーー。

「こら!ヴィオレッタ」

 庭の方から声がして、さらにミネルヴァの居室の前でもアンナの声がする。

「どうしたの?」

 部屋のドアを開けると、そこにいるのは丸々と太ったヴィオレッタだ。ヴィオレッタはドアの隙間からするりと部屋に入り込む。


「ミネルヴァ様、すみません! 部屋の換気をしていたら、入り込んできたんです!」

 ヴィオレッタは、応接セットの豪華なソファに座りこみ、ゆったりと毛づくろいをしている。

「いいのよ、アンナ。この子が私のところに来るなんて珍しいもの。ヴィオレッタのほうも、よっぽど退屈しているらしいわ」

 それでなくても、今はバートラムからの手紙で機嫌がいいのだ。

 ミネルヴァが上機嫌のままヴィオレッタの背中をなでてやると、気持ちよさそうに耳を倒してもっとなでろと訴えてくる。


――可愛い。


何度か王宮で見たことはあるけれど、直接触らせてくれたのは初めてだ。

「あれ?」

よく見ると、首にはオーガンジーのリボンをしている。ヴィオレッタは王宮の庭に勝手に住み着いていて、飼い主はいないと聞いているが……。


――手紙だ。


 ミネルヴァはリボンにくくりつけられた、小さな巻紙を手に取る。

 くるくると開けると、そこには「愛しいミーナへ」の文字が飛び込んできた。

「リアムからだわ!」

 ハートリー家は王室との関係も近く、幸いリアムは謹慎以外の大きな処分は受けていない。きっとどうにかしてヴィオレッタを手なづけて、手紙を運んでくれるようにしたのだろう。


「愛しいミーナへ


 気分はどう? 君が落ち込んでいるんじゃないかと、毎晩心配しているよ。

 でも、大丈夫。僕はいつでも君の味方だから。

  

 困ったことがあったら、ヴィオレッタに手紙をくくりつけて。

 彼女の別邸は僕の寝室の一角にあるんだ。(くれぐれも焼きもちは焼かないでね)

 きっと僕の元へと手紙を届けてくれると思う。


 P. S もしこの手紙が君のもとへと届いたら、ヴィオレッタにも賞与を与えてあげてね。

 彼女は鶏のササミがお気に入りなんだ。


 リアム・ハートリー」


 リアムらしい親しみのこもった手紙におもわず笑みがこぼれる。


「アンナ! ヴィオレッタに鶏のササミを持ってきてあげて! 大量によ!」

「ササミ……かしこまりました」

ヴィオレッタは、その言葉がわかったかのように、ゴロゴロと喉を鳴らした。


――みんな、大丈夫。では、今、私にできることは何?


 ミネルヴァは机の上に、白紙を一枚取り出し、ペンを走らせる。

 

――コンサートを開きたい。


 まず問題となるのは場所だ。あんなことがあったのだ。もうアナザー・ロージアに場所を貸してくれる貴族はいないだろう。


――場所がないなら。


「……ゲリラライブ」

 前世の記憶がよみがえる。≪ロージア≫結成当時、まったくの無名だったころ。

 路上でスマホで音楽を鳴らしながら、≪ロージア≫の5人が歌った。大盛況とまではいかなくても、十数人は足を止めてくれて、たったそれだけでも死ぬほど嬉しかったっけ。


 リアム、レイ、バートラム、ダグラス。

 もしまたこれで捕まりでもしたら、今度こそ流刑や禁固刑は免れないかもしれない。

 それに軟禁状態の4人をどうやって一同に集めるか……。

 

「あら、もう灯りの準備をしなければ」

 ふと、窓辺に控えていたアンナがこぼす。

「もうすぐ聖イーグルの日ですし、いっそう日が短くなりましたね」

 何気なく言った言葉にひっかかる。


「聖イーグルの日?」

「ええ。聖イーグルが始祖に王冠をさずけたことを祝う、いわば建国記念日です」

確か、前に町に出た時にアレックスが言っていた。


「恩赦がある日だわ……」

 殺人や強盗などの重犯罪者以外なら、犯罪や処罰の対象であってもこの日ばかりは外出が許されるとアレックスは言っていた。ならば……。

「聖イーグルの日なら、みんな外に出られるかもしれない」

 


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