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34話 シュタイナー伯爵の不吉な言葉とは

 3度目の公演は、バートラム家での朗読会にも来てくれたシュタイナー伯爵の家だった。

リアムとバートラムが加わっての公演は2度目となるが、最初よりは幾分角が取れているようで、ミネルヴァは安心する。

 特にアレックスとリアムのかけあいときたら、最高の一言に尽きる。2人の気が合わないのは周知の事実ではあるので、みんなどんなコンビネーションを見せてくれるのか、幾分ハラハラしながら見守っているのだが、心配はご無用。

 むしろ、素の状態が険悪であればあるほど、好きなやつほどかまってしまう心理なのでは……、という貴族令嬢の中にひそむ腐った乙女心の深読みまで誘ってくれるのである。

 そんなミネルヴァの読み通り、公演は大盛況。シュタイナー夫婦にいたっては、涙を流して喜んでいた。


 しかしながら、ミネルヴァのこの日の目的はグッズ販売である。

 リトグラフはギリギリ間に合った。アレックスは赤、リアムは白、バートラムは青の色調でまとめてもらい、リトグラフの縁には額縁を思わせるバラの花もあしらってもらった。

 名前もグループ名である≪アナザー・ロージア≫も、この国で流行っているという書体で入れてもらっている。

 正直、浮世絵のようなヘンテコな絵ができあがってきたらどうしようと思っていたのだが、それは杞憂に終わったらしい。写実的だが程よくデフォルメされており、なかなかの仕上がりだ。


 リトグラフだけではいささか寂しいので、バートラムに頼んで、赤と白、それから青のヘアアクセサリーやハンカチーフ、手袋など、メンバーカラーに合わせたグッズも用意した。さすがに販売に皇帝の妹が立つわけにはいかないので、王族御用達の商人に代理で販売に立ってもらっている。


 そして公演終了後……。

「お待ちください!」

「こちらは品切れになっております!」

「ラミー・ブックストアに来ていただければまた在庫はございます!」

 殺到する貴族の令嬢たちに圧倒された商人を横目に、ミネルヴァはホクホク顔である。

「ミネルヴァ様に、そこまで商才があったとは。おみそれいたしました」

 バートラムが心底驚いたようにこちらに頭を下げる。

 物の10分で用意したグッズは売り切れだ。現世での物販をアステルに応用したまでなのだが、ここまで反響があるとは。今後はもっとグッズ展開を増やしたほうがいいかもしれない。

 

「本当に、素晴らしかったですわ。ミネルヴァ様」

 シュタイナー夫人もツヤツヤとした顔でミネルヴァの手を握ってくる。

「私ももう少し若ければ、アナザー・ロージアに加わりたいぐらいですな」

 御年70歳に近いであろうシュタイナー伯爵が、どこまで本気か冗談かわからない顔で言ってくるので、ミネルヴァも「もう10歳若ければ、加入をお願いしたところです」とひきつった笑顔で返す。


「最後に良い思い出ができましたわ。本当になんとお礼を申したらいいか……」

 シュタイナー夫人が急にハンカチで涙を抑えるので、ミネルヴァは驚いてしまう。

「最後とは? どこかに行かれるのですか?」

 涙がとまらない夫人に代わって、「実は」と言いにくそうに口を開いたのは伯爵だ。

「隣国に嫁いだ娘から、そろそろ一緒に暮らさないかという誘いがありました。こちらは息子にまかせて、隠居しようかと考えております」

「そんな。せっかく仲良くなれましたのに」

 伯爵は「ミネルヴァ様」とこちらを真正面から見据えてくる。

「アステル国北部の国境が、最近不穏な動きを見せております。私は昔、北部の鉱山の経営を任されていたこともあり、もしかしたら軍事の頭脳として駆り出されるかもしれない。我らはすでに老いさらばえた身。恥ずかしながら、余生は安穏と暮らしたい」


 北部は、古くから狩猟を営むカナード族が居住する山岳地帯だ。確かに、アステルは少数民族が多く、歴史的に内乱も多い。しかし最近はそれも大人しくなっていたはずだ。

「わが町の弾薬工場も、稼働率が上がっております。何やらキナ臭いとは思っておりました」と口をはさむのはバートラムだ。

 ミネルヴァは、先日目にしたばかりのニコライの表情を思い出す。

 何を考えているのかわからない、いつも通りの笑顔だったけれど……。しかし、少しだけ疲れているようにも見えた。

 

――もし、また内乱があったとしたら、誰が指揮をとるの?


 ミネルヴァには、この地での戦争の記憶はない。しかし、ニコライとミネルヴァの父親は内乱によって命を落としたと聞いている。当時の皇弟が指揮に立ったというのであれば、きっとまた、それに準ずる身分の人間が戦いを指揮することになるのだろう。

 ミネルヴァが、思い当たる人物はただ一人だ。

「……アレックス」

「ミネルヴァ? なんて顔をしている? 俺たちの歌に不満があった?」

「違うの。そうじゃなくて」

 笑顔をとりつくろうとしたが、口がひきつるのがわかる。

 ≪アナザー・ロージア≫を誉めそやす来場客の声がざわざわと耳の中で鳴り響く。アイドル活動が順調にすすめばすすむほど、ミネルヴァの胸中には不安が押し寄せてくるのだった。


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