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27話 初めてのコンサート、いざ作戦会議!

 今日は、バートラム家での打ち合わせだ。

「招待状はこちらです」

 招待状には、バートラム家の家紋入り。アレックスがゲストに含まれることがばれると騒ぎになるため、あくまで主宰はバートラム・グリーンだ。

 おまけにグリーン家は成り上がりの新興貴族、皇太后に近い貴族からは敬遠されている。秘密裡にことを勧めるには、これ以上ない人選だ。


「招待客は、通常の朗読会の規模からしても数名程度。10名が限度だと思われます。こちらにリストを」

 バートラムがさっと紙を差し出す。

「アレックスおよびサマール族に対する穏健派の貴族、またはもともと音楽に素養のある貴族の中から口の堅いご令嬢たちをピックアップしております」

「素晴らしいわ。ありがとう、バートラム」

 ミネルヴァが目を滑らせる。確かにサラ嬢の名前はあるが、シュゼット嬢とマーガレット嬢の名前はない。


「シュゼット嬢は入れてもらえる? 大々的に活動を始めるわけにはいかないし、じわじわと口コミで広げていきたいの。彼女のように、こちらに好意を抱いている噂好きのインフルエンサーは好都合だわ」

「……噂好きのいんふるえんさー?」

 アレックスが聞き慣れない言葉に口をはさむが、かまってはいられない。

「それから、マーガレット・ルーヴルも」

「マーガレット様ですか? 彼女はルーヴル公の愛娘ですよ?」

 ダグラスが言う。


「知ってるわ。でも、彼女のセンスは放っておくには惜しいもの。朗読会を目にしたら、こちらのチームに入ってくれるかもしれない。」

「反対です。ルーヴル公にばれたら、こちらの活動をつぶされかねません」

「マーガレットは言わないわ」

 正直、これは勘でしかない。でもマーガレットがアレックスを父親に売るとは思えない。それほど彼女がアレックスのことを語るときの瞳は真摯だったのだ。


「俺もそう思う」

 口をはさんだのは、意外にもアレックスだ。

「マーガレットは、自分がいいと思うものをいいと言える人間だ」

「……わかりました。さすが幼馴染なだけある。気が合っていらっしゃいますね」

 ダグラスがなんとはなしに茶化してくるので、ミネルヴァは少しだけ頬が熱くなる。

「最初の朗読会はいわば小手調べよ。どのぐらいみんなが音楽に対して拒否感を持っているのか、それとも飢餓感があるのか。それがわかれば、これからの活動の指針になるはず。だから披露するのは、一曲だけ。ラストの朗読にかぶせるように歌を入れていくの」


「朗読するのは『アステル建国記』だと言っていたよな。どこの節を朗読するんだ?」 

 ミネルヴァは、持っていた包みから『アステル建国記』の本を出す。

「最後の章。ケガをして動けない大鷲との出会いと開放。歌の内容にも合致するでしょう?」

「確かに。とらわれた鷲が飛び立つという描写とともに静かに始まる歌。……素晴らしいです!」

「始まりは、朗読に歌をかぶせたほうがいいかもしれない。だから、朗読の方は……バートラムにお願いしてもいい?」

「乗りかかった船ですから」

 バートラムはやれやれと言うように、ミネルヴァのリクエストを受け入れた。

「……それからダグラス。やっぱり、ここには何かしらの音が必要よね」

「はい」

 それはダグラスも同じ気持ちだったらしい。わかっている、というように頷く。

 

 たとえばミュージカルでも歌唱シーンでは、歌を追いかけるように音楽が始まるのが普通だ。唐突に歌が入ってきてそのままアカペラで歌が続くのでは、朗読とのメリハリがつかずに場違いな印象になるだろう。そうはいっても今ある楽器はミネルヴァのピアノぐらいで、人目につかずに運ぶことは困難だ。


「厨房から鍋とフライパンでも持ってきて、叩きまくるしかないですかね」

 半分、本気の目でダグラスが言うが、それではさすがに笑われてしまう。

「鍋ねぇ……あ」

 ミネルヴァは、前世で見たフェスを思い出す。バンドやDJだけでなく、アコースティックやジャズもあって、その中にたしか箱のような楽器が……。


「カホンよ」


「カホン?」

「そう。木の箱があって、一面に穴が開いていて。横板を掌で叩くことで、太鼓のような音が出るの。あれならもしかしたら簡単に作れるし、見つかったとしても楽器だとはわからないかも」

「トラネス国にある楽器なのですか?」

「ええと……たぶん。なんとなく思い出したものだから!」

「ほうほう」


 苦しい言い訳だけれど、ダグラスはさらっとメモにミネルヴァが言った通りの絵を描き始めている。

「これで音を出すなら、おそらく薄く柔らかい合板。作りは非常にシンプルですね。家具職人にスツールと言って作らせることもできるかもしれない」

「ダグラス、お願いできる?」

「もちろん! まだ見ぬ楽器との出会い。こんな楽しそうなことはありません!」

「それから、このサロンは南に面しているわよね。おそらく日中はぽかぽか陽気になるのだろうけど、アレックスの声に温かな日の光はそぐわないわ」

 そう言うと、アレックスが眉をひそめる。


「どういう意味だ」

「セクシーすぎるのよ。暖かなブランケットというよりはシルキーなベルベッドみたい」

 ダグラスとバートラムは「確かに」とつぶやきながらクスクス笑う。

「だから、朗読会のスタートはディナーの後。確認したら、その頃の月の南中時刻は夜9時ごろ。ちょうど朗読会のクライマックスには、満月をバックに歌が披露できるわ」

「なんと。そこまで考えていらっしゃるとは」

 ダグラスが賛同すると、アレックスもヒューっと軽く口笛を吹く。バートラムも目を細めて、軽く手を叩いている。


 ミネルヴァは盛り上がった場を少し収めるために、コホンと咳払いをする。

「それからアレックス」

「ん?」

 中心人物であるはずなのに、話の蚊帳の外にいたため、きょとんとした表情だ。

「この世界で天下をとるまでは、恋愛は禁止よ」

「え」

「恋愛、というよりも、あなたの場合は女遊びね。アイドルはみんなのものであって適当な女の子との浮名は大ダメージになるわ」

「なかなか厳しいな」

「楽しく話したり、手を振ったりは全然いいのよ。でも、肉体関係は一切禁止」


「ミネルヴァ。それ……私情が入ってない?」

 アレックスが右の口角を上げて、ニヤっとしながら言う。

「まさか! プロデューサー兼マネージャーとして当然のことを言っているまでよ!」

 ミネルヴァは、目の前の書類をバサっとテーブルに叩きつけながら、何かを振り切るように断言した。

 

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