9.使者 ミラ
「宿屋の娘じゃん、久しぶり」
「宿屋の娘……確かにそうですが、そうじゃないです」
そうじゃない?いやいやどっからどう見ても、宿屋の娘だよ?
「まずご挨拶から、エルフの国、ユグドラから参りました、ユグドラの騎士、エルフのミラと言います、宿屋の娘は仮の姿です。」
えーエルフ?あ、まぁ確かに耳長いなぁ
それに魔力も……
というか宿屋の娘が仮の姿、てことは……
「あの女将さんも?」
「はい、そもそもあなたみたいな怠け者、なんの意味も無しに拾うわけないじゃないですか、まぁあの子ならしそうですけど」
えーびっくり、最初から仕組まれてたのか
てっきりただの優しさで拾ってくれたのかと……
「まぁあなたが一文無しで現れるのは想定外でしたけどね」
そう言って、彼女は僕に呆れたような目線を向ける
それはまぁ許してよ、しょうがない事情があるんだ
にしてもよく僕がこの国に行くってわかったな、僕も分かってなかったのに……
「偽名も使ってたけど意味なかったのか」
僕の偽名作戦、一つも役に立ってないな
協会でバレて、エルフにもバレて
「はい、最初から分かっていました、あなたがロスト・ワンダー、女王の探し人だということは」
探し人、ねぇ、なんか面倒くさそうな空気がしてきたな。
まぁ彼女らには少しばかり恩があるわけで、それも女王の策略なんだろうけど
ちょっとだけ付き合ってみるか、面倒くさそうになったら逃げればいい
今の僕は結構気分がいいしね
「で、僕になんの用があるの?」
「はい、まずはこちらをご覧ください、ロスト様へ、エルフの女王様からのお手紙です」
エルフの女王からの手紙、ねぇ、ふーん
渡された手紙の封を開ける、するととんでもない長さの紙がマジックみたいに出てくる。
うわ、長、良いや、読まなくて
「うん、大体わかった、で、何?」
「……何と言われても、そこに書いてあることが全てなのですが」
「あ、そうなんだ、じゃあ断るで、じゃバイバイ」
「……ちゃんと読みましたか?」
「うん、読んだよ」
嘘は行ってない、最初の一行くらいは読んだ。
「そうですか」
「うん、断るって女王様に言っといて」
そう言って、僕は牢獄を出る。
ふぅやっと自由だ、さて何処に行こうかな
この街には居られないし、そうだ海鮮でも――
「あーあ、せっかく用意したご馳走が無駄になっちゃうなー」
「ご馳走?」
ご馳走?フッ、たかがご馳走で釣れるお子様だと思うなよ
そもそも内容を言わないってことは内容に自信が無いって言うのと同じじゃないか
やめやめ、確か近くに海が……
「あーあ、それに100年物のヴィンセント印のワイン、あれも私が飲んじゃおっかなー」
100年?ヴィンセント?ワイン?
おい、待て、100年物のヴィンセントとか聞いた事ないぞ、相当貴重だ。
フッ、だがそのくらいで動く僕ではな――
「あ、後、そうだ、ロスト様にあげるはずだった、極楽鳥の毛布……」
「よし、行こう、どこにかは知らないけど、行こう、すぐに行こう」
極楽鳥、僕が長年追い求めて来た伝説の鳥
その鳥の羽毛を使った毛布は天に昇るほど触り心地がいいらしい
生息地、不明、そもそもこの世界に存在しているか怪しいレベルの伝説
これは行くしかない
いや、まぁね、そのためじゃないけどね。
僕が本気になれば極楽鳥くらいすぐ捕まえれるし、あれだよ、人助け?
そもそも何の用なのかも、どこに行くのかも知らないけど、うんうん
海鮮?僕は海鮮が嫌いだ、山の幸のほうが興味があるね
よし、行こう、すぐ行こう、そして早く毛布を
「では、まずここを出て、仲間に会いましょう」
「仲間?いいよ、一人で行くから、場所だけ教えて」
「……あーあ、極楽鳥の毛布燃やしちゃおっかなー」
「ごめんなさい、ついて行きます」
※
「ねぇねぇ、君はさ、エルフなんだよね、得意魔術は?」
「……」
「エルフってあんまり国の外出ないと思うんだけど、今回が初めて?」
「……」
「エルフの女王の事、嫌い?はいかいいえで」
「……」
「沈黙は肯定として――」
「着きました」
遮られた、ちょっとくらい話してくれてもいいのに
ん?ここは――宿木亭?
そんなこんなで連れられたのは宿木亭、めちゃくちゃ見覚えがある場所だった。
宿木亭に入り、宿屋の娘についていくと食堂に案内された、すると奥で座っている大柄な男が歩いてきて話しかけられた。
「《《初めまして》》、ロスト・ワンダーさん、俺はガ……カードだ、よろしく」
「ん?カード?あなたは……」
「良いんだ?黙ってろ」
そう言って、彼は宿屋の娘の口を片手で塞ぐ
大きいな、今までで見たことないくらい大きい
ん?いや見たことあるぞ、えっと、確か、確か……
「あ」
「ゲッ」
「ミラ、すまん、俺は降りる」
彼はそう言って、走り出す
だが、走りと言っていいのかわからないくらい遅い
やっぱりそうだ、これで確信を得た
「相変わらず、逃げ足が遅いね」
そう言って、僕は彼の背中をポンと叩く
「久しぶり、デカブツ君」
「……オヒサシブリデス、ロストサン」
「ハハハハ、水臭いじゃないか、初めましてなんて、ねぇ」
「イヤイヤ、俺……私の事など忘れていると思ったので……」
「そんな気遣い良いのに」
忘れるわけないじゃないか、さっきまで忘れてたけど
久しぶりだなぁ、懐かしいよ
彼の名前は忘れたけど、僕はデカブツ君と呼んでいる。
「……お知り合いですか?ガードさん」
あ、ガードっていう名前だったらしい
彼との出会いは覚えてないけど
僕が人体実験にハマっていた時期
数年前、同じ第二階級の探索者として出会い
すっごく堅いんだ、物理耐久力も魔術耐久力も強くて、すごいなと思ったのでパーティに誘うという名目で連れ出し、捕まえ
数年間、実験動物として実験を手伝ってもらった。
「ああ……まぁちょっとな」
「ちょっとなんてもんじゃないよ、1時期ずっといたじゃないか一緒に、ねぇ」
「はい、ソウデスネ……」
結構長い期間いたような、いなかったような気がする。
あれ?なんで、彼と離れたんだっけ、実験に最適だったんだけど……
「あ、そうだ、君が逃げたんだ、デカブツ君」
「ハイ、ソウデス、モウシワケゴザイマセン」
そうだ、そうだ、思い出した、ある日、起きたらいなくなってたんだ。
あの時は悲しかったな、もっと遊びたかったのに
「よくわかりませんが、欲しいのでしたら差し上げますよ」
「おい、待て、ミラ」
「うーん、いや、いいや、もうやりたい実験ないし……いや、魔術師に売ったら売れるかな……」
「ハハ、ゴジョウダンヲ」
「……とにかく、その話は置いておいて、本題に進みましょう」
「今から、ロスト様にはエルフの国に行ってもらいます」
「なんで?」
「手紙に書いてあったはずですが……」
「そんな手紙読んでないよ」
「……で、私達はエルフの国に行くわけですが」
「先に言っておきますが、エルフの国に行くまでにいくつかので注意事項があります、まず――」
そこから、彼女の長い長い説明が始まった、長かった本当に長かった。
一人麻雀が一局終わるくらい長かった。
「……わかりましたか?」
「あーうん、分かった、分かったよ、うん」
「なら良いんです」
「まー大丈夫大丈夫、僕行ったことあるから」
「は?」
「うん」
「……エルフしか入れない、全世界に秘匿されている伝説の国に、ですか?」
「うん、なんだったかな、それこそ極楽鳥探しだったっけ、それで入って色々やって捕まりそうになって逃げてきたんだよ」
「……それ、絶対に女王様に言わないでください、絶対、絶対ですからね」
こうして、僕たちはエルフの国に向かう事になった
極楽鳥の毛布を受け取りに――




