4.■■者 レヴ
行方不明、誰かが彼をそう言った
受けた依頼の成功率はなんと驚異の0.1%
人の話を聞かない、とにかく気まぐれ、どっか行く
鎖にでも繋げておかないと、まともに話ができないのは意味が分からなかった
……多分、繋げていても無理かもしれないな
そんな、彼は第一階級の肩書すらも放り投げた
まぁ、あまり驚きは無かった
出たのは溜息と探協に対する呆れ
そして、これから訪れるであろう苦労を考えると、酒がいくらあっても足りなかった。
「ロスト、久しぶりだな」
請求してやる、ここに来るまでに消費した酒
そして、お前が奪いやがったワインの分を
※
「何しに来たの?レヴ」
鎖で身体をぐるぐる巻きにされたロストはとぼけたような声でそうふてくさる。
「特に用なんて無い、顔が見たかっただけだ」
「嘘つき」
「いや本当に、一発殴ってやろうと思って」
「残念だったね、外れて」
「ああ、残念だったならもう一発いこうか?」
「あ―いや、遠慮しとこうかな、ハハ、ほら疲れるじゃん」
そう言った次の瞬間、僕の顔が先ほどまであった場所に
レヴの拳が存在している。
「遠慮しなくていい、私とお前の仲だろ?」
……一難去ってまた一難とは、まさにこの事か
危なかった、僕、一応鎖で縛られてるんだよ?
手と足は動くけどさ
「ハハ、まぁ一旦さ、弁償すると言っても壊すのは悪いじゃん?」
「そうだ、注文しよう、酒場なんだから」
僕の奢りは無くなったけどね……大人ってバレたせいで
「あ、おじさん、これとこれとこれ、レヴは何にする?」
「奢りか?」
「うん、奢りだよ」
「そうか、珍しく金持ってるんだな」
「ん?持ってないの?」
「……主人、全部キャンセルで」
「えー」
「えーじゃない、良いわけないだろ」
流石に無理か、いつもなら、はぁ仕方ないと言って払ってくれるんだけど……
「わかった、じゃあルルウ鳥の丸焼きだけ、お願い」
「……拒否する」
静かに通る低い声、もう完全に拒否といった感じだ。
と、普通の人なら思うだろう
だが、違う
レヴはね、ここからが本番なんだ。
「そうだ、ペラフフの塩漬けは?好きでしょ?」
僕がペラフフという言葉を出すと、レヴがピクリと反応する。
やはり、ここだ。
「ここのペラフフは絶品だよ、本当にうまいんだ」
「そうそう、レヴと食べに行きたかったんだよ、こんなに早く夢が叶うとは」
うん、嘘じゃない、確かにさっきここの酒場の前にある看板を見た時
名物、ペラフフの塩漬けって書いてあったんだ。
そのときね、レヴ好きだったよなぁって、レヴと一緒に食べたいなぁって思った。
うん、思ったよ、本当に、神に誓って嘘じゃない
「……はぁ、主人、ペラフフの塩漬け、後……ルルウ鳥も頼む」
「え、やったーありがとう、レヴ、この恩は忘れないよ」
「いい、すぐ忘れろ、たかがルルウ鳥だ」
「うん、じゃあ忘れるね」
「……いや、後一時間は覚えとけ」
呆れた表情で僕を見るレヴ、残念だったね、僕に今プライドというものはないんだ。
そこから、とりとめのない話をしていると、ルルウ鳥とペラフフの塩漬けがやってくる。
ルルウ鳥、本当に何処にでもいる鳥だ。
陽気に鳴いているところをよく見かける。
そして、酒場でもよく見かける、定番メニューってやつだ。
基本、このように丸焼きにして出すのが主流なのだがこれを上手く解体できる人はモテるらしい
ちなみに、レヴはめちゃくちゃ上手い、僕はめちゃくちゃ下手
ペラフフの塩漬け、ペラフフという魚の身や内臓を大量の塩で長時間漬け発酵させたもの
とても塩っ辛く、独特な匂いと味がする。
好みが分かれるが、酒にとても良く合う
レヴはこれがめちゃくちゃ好きで、今も全く表情が変わっていないが尻尾がぶんぶん暴れているのでかなり喜んでいる。
ちなみに、僕は普通、まぁ好きかなっていう程度、ルルウ鳥の方が好き
レヴに解体してもらって食べやすくなったルルウ鳥の脚に齧りつく
うん、この店はいいね、火入れの具合がちょうどいい
味付けも、ハーブとガーリックかな
王道だがそれがいい
ルルウ鳥の丸焼きは単純な料理ではあるが、この料理の出来でその酒場の格が決まると言っていい料理だ。
この味なら他の料理にも期待できるだろう……
ちらっとレヴの様子を伺う、ペラフフの塩漬けをいつの間にか頼まれた純米酒とちびちび味わっている。
これは、邪魔しない方がいいな。
レヴも久しぶりの休暇?なんだし
またお金が溜まってからにするか、人の金で楽しむのもいいけど、自分の金で楽しむのも悪くない
「というか、ロスト、お前そんな呑気にしてていいのか?」
「んー?なんで?」
「はぁ、お前は自分がやった事の自覚を持て、探協は全勢力を挙げて、お前を捕まえる事を決めたそうだ」
「へー誰が来るんだろう」
「まぁ恐らく第一階級の誰かだろうな」
「禁忌が動くとは思えないし、ズーゼルも動けない、来るとしたらアレクか、それ以下か」
「レヴは?」
「……私は一抜けだ」
「なんで?」
「お前と戦うくらいなら、探索者協会を敵に回した方がいい」
「酷い評価だね」
「順当だろ」
まぁ僕もレヴと戦うのは嫌だから、ありがたい
にしても、そんな評価してくれるなんてね
あくまで、あの人を抜いた前提ではあるんだろうけど
「第一階級か〜」
「誰を思い浮かべた?」
「グラン」
「フッそういうと思っていた」
「知ってるだろ、僕、あの人苦手だ」
「ああ、知ってるぞ、お前がグランの事を嫌いなことくらい」
そう言って、レヴはペラフフの塩漬けを一口分つまみ、純米酒と一緒に楽しむと、箸を置く
「ロスト、私はな、お前とは戦いたくないが、お前が苦渋を舐める姿にはかなり興味がある」
「え?」
僕の言葉が口から飛び出るとほぼ同時に、レヴの背後から突如炎がとんできて、辺りを包み僕は燃える。
「私はただの見学者、本命は彼だよ」
炎、彼……ああ、最悪だ。
「ロスト、ロスト、ロスト、ロストォ」
問題の答えを知らせるように、聞き覚えのある声が炎の向こうから聞こえてくる。
「怒れ、グラン、聞け、ロスト、俺はお前を殺しに来た」
正気を失っているかのような白を剥いた目、怒りそのものがいるかのような表情、殺意が籠もった声
生えた一本の角、纏う拘束具、操る炎
第一階級、第六席
怒れる鬼人 グラン
彼が炎の中から姿を現した。
こんな問題に正解したくなかったよ―――




