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3.良くない方の楽観主義者 ロスト

探索者協会に行けないから困ってるんだ、なら探索者協会に行けばいい


こんな簡単なことに気づけないとは、もう探索者を名乗れないよ


そんな事を考えながら、大通りを歩く


にしても、あの宿は本当に最高だ。


珈琲をいくらおかわりしても問題は無いし、焼き菓子もすごく美味しかった。


忙しなく働く人たちとすれ違いながら、ゆったりとゆっくりと歩く、ああ、これが許される世の中で良かった。


そんな日常を深く味わいながら歩いているとふとあることに気づく


「あれ、僕は何処に行こうとしているんだ?」


そういえば、この国、この街のどこに探索者協会があるのかを知らない


僕は何処に向かっていたんだろう、その答えは分からないが、とにかく今何処に向かえばいいのか分からなくなってしまった。


というか、僕はなぜ働こうとしているんだ?


働いたら負けという崇高な言葉があるように、働くという行動は僕に害しか与えない気がする


働くまでに、こんな苦労しているということは、働くのはもっとしんどいはずだ。


それになんとなく今日は体調が悪い、お腹が痛いし、頭は痛いし、手足も何故か思うように動かない


やはり、働きたくない時に働くべきではないのだ


よし、帰ろう、そして帰りついでにさっき見たパン屋にでもよって―――


あ、金が無い


……なるほど、何故か働きたくなってきたな


よし、働こう、そうだ僕は労働のために生きているんだ


そうとなれば、誰か適当な人に道でも尋ねるか


「ロウさん、何をしてるんですか、こんな所で」


おお、すごく丁度いい人材がいた


宿屋の娘、そして、恐らく探索者仲間であろう男と女が後ろにいる。


宿屋の娘、本当に友達がいたんだな


「探索者協会って何処にあるの?」


「探索者協会ですか?なんでそんなところに……」


「この大通りをまっすぐ行って、確か左に曲がったところにあります、分かりやすいのですぐ分かると思います」


「なるほどね、ありがとう、お礼に何かおみあげでもかってくるよ」


「そうですか、何をしにいくのかわかりませんが、期待せずに待っておきます」


「じゃあね」


そう言って宿屋の娘と別れ、僕は大通りを歩く、ぼーっと何の気なしに、人間観察でもしながら―――







ロウさんが意気揚々と去っていく、歩く姿はまさに怠け者といった所でだらしない


「あいつはなんだ、探索者か?」


私の後ろに佇む背の高く人相が悪い黒髪の男が私に向かってそう尋ねる


「いいえ、違いますよ、お客さんです、怠け者の」


「そうか、それは本当の話だな?」


「あんな子供が探索者なわけがないでしょ」


私の後ろに佇む、もう一人のまさしく悪女といった雰囲気を纏う女が男の言葉に対してそう答える。


「……ええ、ずっと宿にこもっているくらいですから、無職です、何故、探索者協会に行くのかはわかりませんが」


彼が探索者なわけがない、つまり別の用事があるという事だが……


「へぇなかなか綺麗な顔をしていたけど、無職なのね、ならナシだわ」


「少し臭うが、問題無いならいいだろう、行くぞ、バレると面倒なことになる」


「はい……行きましょう」


そう言って、彼らは外套に身を包み路地裏に入っていった


まるで、何かから身を隠すように―――







「ユーラテリア王国出身、ロウ・テンダーさん、特技剣術ですか……」


「特に問題はありませんね、ですが……そのずいぶん幼く見えるのですが」


「背が低いからですか?」


「はい」


「正直ですね」


「年齢制限があるので、よくいるんですよ」


年齢制限とかあったんだ


「でも……まぁ身分証に問題は無いので……」


怪訝な表情で、僕が渡した身分証を見ているが問題は見つからないようだ。


そりゃそうだ、しっかり問題が無いように作ったからね。


「では、簡単な説明をいたしますね」


「あ、大丈夫です」


「……?、いやこちらが大丈夫では無いのですが」


「大丈夫ですよ、知ってるので」


そりゃあね、もう一回登録してるわけだから知らない方がおかしいよ。


「そうですか……ただ規則を破ると罰金ですからね」


規則……規則とかあったんだ、そういえば、たまに探索者銀行から身に覚えのない引き落としがあったな、あれか


「特に重要なので言えば、依頼の失敗ですね、特にそもそも受けるだけ受けてやらないとかも重大な違反に―――」


やりまくってるな、やってないと嘘でも言えないくらいやりまくってる。


「あとは、協会内での戦闘、暴力行為、まぁ当たり前の事ですが」


うーん、やりまくってるな、両手でも足りないくらいやりまくってる。


そういえばレヴとの出会いもそんな感じだったな。


「さらに、その戦闘で建物が壊れたりした場合弁償ですね」


うーん、めちゃくちゃ覚えがあるな、そういえば一回協会を全部吹っ飛ばしたことがあったけど、あれどうなったんだろう


「それと、そうですね、後は――」


その後、色んな規則の説明があった、半分くらい聞いてなかったけど


ほぼ100%破った事があったので、気にしなくていいんだと思う。


「まぁこれくらいですかね、絶対破ってはいけない規則としては」


「ん?ああ、終わった?」


「……何してるんですか?」


「パン作ってる」


「なるほど、はい、まず違反1ですね」


受付嬢は手元のノートの様なものに、何かを書き記す


「え?協会でパン作ったら駄目なの?」


「駄目ですね、しっかりと協会内でパンを作ってはいけないという規則があります」


「へー、そんな細かいのもあるんだ、大変だね」


「はい、そうですね、過去に同じことをして、その人は協会内でパンを作ってはいけないという規則はないとごねたらしく、それで出来たそうです」


「はぁ、そういう非常識な人のせいで規則が増えるんだな」


「全くです」


「……そして、これは余談ですが、その人は協会職員からかなり嫌われているそうです」


「ひどい人だな、じゃ、僕は行くよ」


さて、探索者登録もして、パンも作れたことだし、魔獣でも狩りに行こう


「いえ、少しお待ちください、少々御用がありまして」


「え?」


ガチャリという音がした、音がした方、僕の手首に目を向けると


見事なほどにすんなり手錠がかけられていた


そして、手錠に繋がれた長い鎖の持ち主は先ほどの受付嬢であった


「覚えがないですか?まぁないでしょうね、私は覚えてますよ、しっかりと」


「ロスト・ワンダーさん」


鋭い眼光が僕を捉える、だが、まったく覚えがない


これは僕が悪いのだろうか


「連れて行ってください」


そして、鎖は大柄な男に引き継がれ、そのまま地下に連れていかれる


そして、鉄格子の独房に入れられる


そして、明らかに拘束するつもりマックスというような椅子に座らされる


そして、手と足と胴体、全ての自由を封じられる


そして、僕はどうやら捕まったようだ―――









「はぁ無理だったかー」


失敗した、まさかばれるなんてさ、自信あったんだけどな


ロストはとぼとぼと落ち込んだ様子で、大通りを歩く


「どうしたんだ、坊主、浮かない顔だな」


店前を掃除していた酒場の主人が話しかけてくる


「いやーそれがね、ちょっと失敗しちゃって」


いや、ほんとに何とか逃げてきましたけれど、急に人を捕まえるなんて酷いよ


……先に急に逃げたのは僕か、まぁいいや


「そりゃあ大変だな」


「おじさんはどう?景気は」


「まぁぼちぼちだな、今は暇だ、そうだ、一杯飲んでくか?」


良いね、飲みたい、昼に飲む酒以上に美味い物はないだろう


いや、でも金無いんだよな~


財布を確認するも、あ、確認する財布が無いんだった。


「いや、良いよ、一杯おごりだ」


「マジで?」


「ああ、子供には優しくするっていうのが俺の信条なんだ」


俺、大人なんだけど……まぁいいか、奢ってくれるなら


あれ、もしかして酒じゃないのか?まぁいいか


「やった、奢りだ、奢りが一番―――」


そう、言おうとしたその瞬間、一人の女性の影を見た。


すぐに目を逸らし逃走しようとしたが、もう遅い


その真紅の眼孔に捉えられたのだから


「あ、いや待って、話を―――」


ドンという大きな音と共に、左頬に拳がかする


「ロスト、久しぶりだな」


「……修理費は君が払ってね、レヴ」


余りにも情熱的な壁ドンは、情熱的すぎて建物にヒビが入る程だった。


何かしたかな、覚えがない、覚えがないよ


本当に……


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