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2.働かざる者 ロスト

和やかな風に吹かれながら、朝を迎えるのはとても幸せな事である。


「ロウさん、ロウさん」


硬い床ではなく、柔らかいベットの上で


それも、森の中で小鳥のさえずりなんかもおまけでついているとなお良い


「ロウさん、ロウさん、起きてください、いつまで寝るつもりなんですか」


断じて、宿屋の看板娘の声ではない


「はぁ早く起きてください、全く掃除もできないんだから」


「もう少し……」


顔を見たあと、そう言って僕は布団に頭を引っ込ませる。


そうしていると、看板娘はトコトコ歩いて何処かへ行くと、布団叩きを持ってきて、天高く掲げ振り下ろす。


「何がもう少しですか、引っ叩きますよ」


もう引っ叩いてるじゃん……


僕は諦めて、ずるずるとベットから出て適当な椅子に座る。


すると、看板娘はカーテンをどけ、窓を開ける。


ああ、太陽が入ってきた、最悪だ。


もう浴びてしまったのだから、しょうがなく僕は窓辺に映り


せわしなく動く人並みを見下ろしながら、風と太陽を感じる。


そして、懐から取り出した煙草に火をつけると一服始める。


「吸い殻は灰皿に落としてくださいね」


「はいはい」


「はぁ、朝食の時間、もうすぐ終わりますから、それを超えると食べれませんからね」


「え、もうそんな時間?」


そう言いながら、僕はテーブルに置いてある水を飲む。


「はぁ、もうそんな時間ですよ、そもそももう皆さん働いてる時間ですからね、怠け者のロウさんとは違って」


「怠け者じゃないよ、懸命に働いたからこそ今があるんだ」


「金が無いからと、土下座して泊めてくれと言ったのは何処の誰ですか」


「それは、まぁ何も言えないけど……」


「はぁお母さんもお人好しなんだから、こんな一文無しの怠け者、追い出してやればいいのに」


ワイバーンで適当に飛んでいたら辿り着いた国


ウルムンガルド公国


その中心部から少し外れた場所に位置する宿屋にロウという偽名を使って、僕は今お世話になっている。


宿木亭、看板娘である彼女と女将である彼女の母が営むこの宿屋は


和の空気を感じる屋敷の様な作りと温泉があり、なかなか繫盛しそうな要素がそろっているが、何故かお世辞にもあまり繁盛していない


だがそこがいい


静かで居心地がいいから


そして、この宿のいいポイントがもう一つある


それは……


「はい、今日の朝食、ラバーンフライのタルタルサンドね」


料理がとても美味しいのだ


ラバーン、確か、この辺りでよくとれる白身魚だ


かなり臭みが強い魚だったはずだが……


狐色にキレイに揚がった衣と白い少し黄み掛かったタルタルと新鮮なみずみずしさを感じるレタスを挟んだ歯ごたえのありそうなゴーンパン


それを口をしっかりと大きく開けて、齧りつく


「美味い」


臭みなんて無粋な事は一切感じさせないふわふわな白身、何か秘密があるのだろうか


タルタルも酸味の具合が丁度よく、それにピクルスの食感が心地いい


そんな白身魚のフライとタルタルのサンド、まぁ当たり前に美味くないわけがない


「ん?」


サンドをじっくりと味わいながら、ぼーっと外の風景など辺りを眺めていると、誰もいない食堂の端のテーブルで看板娘が何やら大きな鞄をごそごそ漁っているのが見える。


物盗りか、なかなか大変だな、でももう少し隠れてやった方がいい気がする。


「盗みなんてしませんよ、失礼ですね」


……見ているのがバレたか、盗みじゃないのならなんなんだろう。


あれは……携帯食料?と縄?それに、回復薬、しびれ薬、毒消し草なんてものもある。


看板娘は鞄の中の物を取り出し、一つずつ物の名前を声に出しながら確認すると、また鞄に詰め込んでいく、そして恐らく全ての物の確認が終わると、鞄を閉め背負う


「これから探索区域に行くんです、友達と」


ああ、なるほど、その大層な荷物はその為に、言われてみれば探索に必要なものばかりだ。


にしても、この年齢で探索区域に行くなんて……あれ何才だっけ、忘れたな


まぁとりあえず15才とするとして、なかなかいないぞ、その年齢で潜るのは


「なので、何か問題があればお母さんに言ってください、できればそんな事は無いように終わらせて欲しいですが、無理そうですし」


いやいや、僕を舐めすぎだ、迷惑をかけないことくらいできる。


「ああ、はいはい、分かったよ」


「はい、しっかりしてください」


「では行ってきます」


そう言って看板娘は鞄を背負って食堂を出ていく、その姿をひらひらと振る手と共に見届けると、僕は食事に戻る。


と言っても、もう残っているのは一口サイズの欠片のみであり、それを口の中に放り投げる。


ふぅ自分で作るのとは違って、人の作った料理とは良いな、片付けとかいうとても面倒なものから逃げる事ができる。


まぁレヴがいたらレヴがするので問題はないのだが、いつもレヴがいるわけでもなく……


部屋に足の踏み場がないという事は全然許容できるのだが、キッチンが汚れているというのはどうしても許容ができない。


一時、洗い場に使った皿や調理器具を溜め込んで大変なことになった事から得た学びだ。


とんでもない異臭と蠢く何かの存在を確認した時、本気で引っ越そうか考えた。


ちなみに、その事件はキッチンを封鎖し、レヴを呼ぶという事で何とか解決した。


めちゃくちゃ怒られたので、その事も後悔している。


いくつもの皿や調理器具が駄目になったし……


食事の後に考えることじゃないな、辞めにしよう。


「お口に合いましたか?」


看板娘の母、女将さんが出てきてテーブルに珈琲をカチャリという音と共に置くと僕にそう問いかける。


「美味しかった、また食べたい」


そう言いながら、食後の珈琲を一口頂く


「まぁありがとうございます、こんな家庭料理で……」


美味しいラバーンが出てくる家庭なんて無い、少なくとも僕が知っている限りでは


「珈琲のおかわりが必要でしたらいつでもお声掛けください」


少しの雑談の後、そう言って彼女は調理場の方へ下がっていく、いい距離感だ、さらに気遣いもできるとは……本当に何故この宿に客が来ない理由がわからない


その方が僕にとっては都合がいいんだけど……


まぁ良いか、さて、今日は何しようかな。


そんな事を考えながら、珈琲の中に持参した牛乳と砂糖をたっぷり入れてかき混ぜる。


そして、また一口飲む


うん、丁度いい


食後の珈琲を味わいながら、窓から外を眺めてみる。


忙しなく働いている人々が、さらに珈琲の味を引き立てる。


甘い菓子でも頼んでみようかな、きっと彼女が作る菓子は美味いだろう。


そうして、調理場の方に目を向ける、だが寸前口から言葉が出る一歩手前であることに気づく


……お金が無い


そういえばそうだった。あくまでこの朝食と珈琲は泊まりに付随したサービスにすぎない、まぁ泊まりの料金すら払っていないのだが……


いや、いけるか?一文無しで働く気が見えない僕を宿に泊まらせ、朝食から食後の珈琲まで出してくれるのだ、むしろこれで甘い菓子の一つや二つ出さない方がおかしいまである。


……辞めておこう、これ以上欲張って看板娘の堪忍袋の緒が切れ、泊まる場所すらも無くなってしまえば悲惨だ。


ふぅ、牛乳と砂糖が大半を占め、もはや元の形を忘れてしまった珈琲を一口飲む


さて、本当に今日は何をしようか


本屋に行くとか、魔道具店に行くとか、古代遺物を漁るとか……


うん、全部お金がいる。


探索者協会にお金を全部預けていなければ、こんなにお金に困ることなかったのに


……財布も無くしたから、意味ないか


お金、お金、お金、お金


依頼か魔獣を狩るくらいしか稼ぎ方を知らないな


バイトなんてしたことないし、したくないし


ホームレスのふりしてお金をもらうか?


いや、あれ時給が悪いんだよなぁ、運みたいなところあるし


それか、レヴに泣きつくか……


あ、そういえば酒奪ったから今怒ってるな、駄目だ





……よし、探索者協会に行こう!


そうだ、確かに、探索者協会に行けばいいじゃないか


銀行からお金が引き出せないとしても、こそっと依頼を受けに行くくらいはできるだろ。


偽名使ったらいける、いける


あいつら節穴だから


なんでこんな簡単な考えに至らなかったんだ。


なら、さっそく……


いや、もう少しだけゆっくりしていこう


「すいません、珈琲のおかわりを」


「はいはい、あ、お菓子焼いたんですけど、いかがですか?」


「……頂きます」


もう、このままここに墓を作ってもいいかもしれない。


そんなこんなで優雅なティータイムを過ごしたロスト


さて、彼は無事にお金を稼ぐ事ができるのだろうか


次回、ロスト・ワンダー捕まる。


お楽しみに

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