21.弱者 ロスト
急に生気が宿ったロストワンダーの姿にびっくりして、女王はベットの上で壁に寄るように後ずさる。
「え、いや、だから無理だって」
「ヒッ」
そう言って、立ち上がるロストワンダーを前に、女王は何とも恥ずかしい間抜けな怯えた声を見せる。
「な、なんで?愛人の首飾りは?」
「愛人の首飾り?」
愛人の首飾りって、たしか自分のことが好きな相手につけると支配する的なやつだったよな。
僕は首にかけたネックレスを取り外すと、じっと見つめる。
いやいや、これはどう見ても―――
「これ、愛人の首飾りじゃないよ」
「は?愛人の首飾り、じゃない?そんなわけが」
「うん、似てるけどね、これ、支配の首飾りだよ」
はーなるほど、これ愛人の首飾りだと思ってたんだ。
まだ見た目は似てるけど、そんなわけないじゃんねぇ
「支配の首飾り?」
「うん、つけた相手を支配するっていう、愛人の首飾りの上位互換的なやつ」
「は、はぁ?え、いや、じゃあ、それが愛人の首飾りじゃなくて支配の首飾りだとして、なんで、今、支配されてないの!」
それは――
・
・
・
まぁ……
「それは……まぁいいじゃん」
うん、本当にいい、どうでもいいんだ、そんな事
「良くない!おかしいわ、支配の首飾りなのに!」
「いや、あれじゃない経年劣化的なね、うーん、たぶんそうだね、きっとそうだ」
そうそう、それ以外考えられない、それ以外考えてほしくない。
「そ、そんなわけが……エルフの秘宝、国宝が……」
ブツブツと何かを呟く女王、よくわかんないけどなんか大変だね。
ふぅ、結構時間かかったな。
ちょっと遊んでた、観察してたせいもあるけど、思ったより解析に時間がかかった。
どのタイミングで解除しようか伺ってたんだけど
とんでもないこと言い出すもんだから……
「で、禁忌の魔女を殺したいって、何?」
「ヒッ、い、いや、出来心なんです」
そう言って、ゆっくりと後退る女王様、あんなにイキって高飛車だったのにねぇ……なんか気分がいいや
「命だけは、命だけは!」
そう言って、頭を垂れ平伏する女王
もう下げれる空間がないくらい下げている。
怖がられすぎだろ、あの人
何したんだよ
「いやぁ僕は知らないからなぁ」
「お願いします、お願いします、すいません、助けてください、何でもしますから」
そう言って、足に纏わりついてくる女王、泣きじゃくったその姿は、何とも惨めで可哀想だった。
そんな感じなら変なこと企てなければいいのに
「そうだねぇ、足でも舐めてもらおうかなぁ」
「な、舐めます、いくらでも」
そう言って、僕のつま先に口をつけようとする女王
だが……
「いや、いいよ」
「え」
「大丈夫、大丈夫、僕から言っとくから、ただの冗談だって」
僕がそう言うと、女王は涙を手で拭うと、また頭を下げ始める。
別に助ける必要なんてないんだけど、まぁ大きな大きな借りができたと見れば、そっちの方が得だろう
そもそも、あの人もそんなに怒ってはないだろうし……ただ、少し怖いだけで
「本当ですか、ありがとうございます、ありがとうございます」
まぁ大丈夫でしょ、駄目だったらごめんね、それでもミラが犠牲になるくらいで丸く収まると思うからさ
そんな事を考えながら、頭を撫でる。
「次からは冗談でもその名前は出しちゃ駄目だよ」
普通に殺されても文句は言えないからね。
「はい、わかりました、本当に、本当につい出来心で」
というか、本当になんでそんなこと考えたんだ。
「実際何があったの?まぁ多分、あの人がなんかやったんだろうけどさ」
大体は想像できる、大体あの人が無意識でやらかして、恨みを買ってるパターンだ。
あの人は潜在的、というか全部表に出てるけど、自分以外の全生物を見下してるから――
「……私より」
私より?
「禁忌の魔女の方が綺麗だって、鏡が……」
・
・
・
……馬鹿だ
「馬鹿だ」
前言撤回、あの人悪くないじゃん
綺麗だった罪か?どういう罪だよ、それ
僕が馬鹿というくらい馬鹿だ、レベル、次元の違う馬鹿だ、まぁ調子に乗っていたんだろうが、助けなくていいかな、もう
「はぁ別にさ、普通に綺麗なんだから、他と比べなくていいじゃん」
「そ、そうですか?」
うん、何年も積み重ねられてきたプライドがボコボコにぶっ壊されて、恥も知らずに命乞いしてる所とか、綺麗だと思うよ
「そう、ですか、ありがとうございます」
そっぽを向いて、表情は見えないが、感謝の気持ちは伝わってくる。
長い耳が赤く染まっているのだけ見えた。
「そう、です、確かにそれが理由だったと思います、ですが、なんと言えばいいのでしょうか、あの時、あの鏡を見た時、なにか……《《熱が溢れる》》ような感覚がありました」
熱が溢れる感覚?なんだそれ、冷静じゃなかったって事か?
「その鏡は?」
「その鏡は、確か……ミラが……」
「ミラ?」
ミラが、ねぇ
もし、ミラが黒幕だった場合、そんな事をする人だとは思わないけど、まぁ黒幕なんて大体そういう意外なところにいるものだ。
確かに、言われてみればミラは怪しい
最初、よくわかんない黒い外套で身を隠してたし、そもそも監視すっぽかして本を読むってなんだ、戦犯も戦犯じゃないか
よく考えたら、とにかく僕に戦わせようとして、
自分は戦わなかったし、あいつ酷いやつだな。
それら全てが、真に、ナチュラルに、素でユグドラを想う気持ちでやってるわけがない
よし、これからあいつのことを裏切り者と呼ぼう
裏切り者、裏切り者、なんかしっくりくるな
確かに、僕も最初からそうだと思ったんだよ――
「そうです、確かに、そうです、あのミラの表情、あなたが、あなた様が支配されている時の――」
……支配?
「あの特徴的な瞳、生気を無くしたような瞳です、私は人を支配したのがあなたが初めて、だったので気づきませんでした、それに確か、ミラが付けるはずがないネックレスを付けていたような……」
支配……支配……なるほど、確かに言われてみれば支配だった、うわーなるほど、ミラは裏切り者じゃない
支配の首飾りを使って裏切るように支配された者だったんだ。
長いな
まぁ最初から分かってたよ、確かに生気を無くしたような瞳をしてた、ずっと無表情だし、怪しいと思ったんだよね。
言われてみれば、ネックレスをつけていた気がする。
支配の首飾り、これに似たやつを……
そう、ミラの支配を解くために、解析もしてたんだ。
ああ、そのためにわざと支配をくらったんだよね、支配の首飾り、あんなの普通だったら僕がかかるわけないよ、かかるのは馬鹿か弱者だけ、解析と女王がミラが支配されてるっていうことが分かるように――
「ここ数日のミラにそのような姿は見られませんでした、なので今のミラに問題はありませんが、私を、ユグドラを害する物の存在は見逃すことはできません」
そ、そうだよ、そうだ、そうだ
確かに別にね、生気はあったよね、生きてるんだもの、それにネックレスもつけてなかったね、よく考えたら
まー分かってたけどね、最初から
うんうん……
……じゃあ、天然の馬鹿だったのか、ミラは
「エルフの国を恨んでいる、もしくは禁忌の魔女を恨んでいる人物……」
エルフの国は知らないけど、あの人を恨んでる人……
心当たりしかなくて、笑っちゃうな……
まぁこの件はあの人がどうにかするだろうし、どうにかしないならその程度だったってことだ。
僕の手伝いなんて、多分猫の手にもならないだろうし、僕は何もすることはないな、報告くらいだ。
でも、僕、支配されてんだよなー
彼女、女王にはそこそこの罰というか、面白い光景が見れたのであまり深い感情はないが
裏にいた人物がのうのうと高笑いをしながら見下ろしているのなら……
ま、結構楽しかったし、いっか、支配も、支配が解けた後の逆転も楽しめたし
「ん?というか、愛人の首飾り?なんでそれで支配できてると思ったんだ?」
「グッ」
エルフの女王の顔がみるみるうちに赤くなっていくのが見える。
「あーもしかして、僕が君のこと好きだと勘違いしちゃった?女王様?」
「グッ」
また、女王の顔が一層赤くなる。
「へーそうなんだぁ、で、今どんな気持ち?恥ずかしい?エルフってプライド高いもんねぇ」
もうプライドなんて消えてなくなるような出来事が前段で起きてるが……
「というか、さっきからだけど、なんか――」
少し思ったことを言おうとしたら、何処からか枕が飛んできて、顔面を覆う。
「少し退出いただけますか、少し、ほんの少し、用事がありまして」
その少し震える声と女王の手に背中を押され、言われるがままに部屋を出る。
そして、ぽとりと顔面から枕が落ちる。
この枕はどうすればいいんだろう。
そんなことを考えながら、僕はとぼとぼ枕を抱えて、歩き始めた。




