20.奴隷 ロスト
ん?え?は?
「え、えっと、な、何をしたんですか?」
「はぁ?ミラ知らないの?国宝、愛人の首飾り」
愛人の首飾り……たしか……
「自分のことが好きな相手に付けると、支配できるとかいう……」
「そう、まんまと引っかかったわけ」
「な、なるほど」
愛人の首飾り、確かに、国宝として崇められている物だ。
まさか、彼に使うとは、だが確かに一番いい使い方であるのは否定できない。
正直、何の使い道も無いものであると頭からその可能性を外していた私が恥ずかしい
「こんなもの使わなくても、私の美しさで奴隷にする事なんて可能なのだけれど、まぁ保険って奴ね」
保険……確かに、そうだ。
にしても、まさか、本当に惚れていたとは……
「フッ、何、ミラ、彼が私に惚れてるなんて私の勘違いだったと思ってたみたいな顔ね」
「え、あ、はい、すいません」
薄っすらと、いや明確に思っていた不安をさらりと言い当てる女王、あの時はたしかにそういう考えをしていた。だが今なら分かる、確かに自分が《《間違い》》であったことに
そばにいたロストの表情を見る。確かに彼は支配されている。虚ろで自我がないというような表情だ。
「ハハ、これだから男を知らない真面目ちゃんは困るのよ、相手が私に惚れているかどうかなんて顔を見ればわかるわ」
そうなのか、顔を見ればわかる、確かに私はわからないし、百戦錬磨、男を手玉にし転がしてきた女王様だからこそ言える言葉だ。
「私は綺麗なのよ、この世界で一番」
綺麗……
男ってやっぱりそうなんだ。
男って姿が綺麗であれば、中身なんてどうでもいいんだ……
「ま、なかなか、あなたも綺麗だけれど」
え?綺麗?かっこいいは結構言われるけど、綺麗?
しかも、女王様から?
ちょっと服を―――
「ロストワンダー」
そう言って、女王様は人形のようにピクリとも動かないロストの顎を持ち、クイッとあげる。
「……」
……そうですか、そうですよね、私が綺麗なんて言われるわけないです。
別にいいですけどね。本当に、本当に別にいいいですけど
「はぁこれでやっと計画を進めることができるわ」
「ロスト、椅子になりなさい」
そう女王様が命じると、すぐにロストワンダーは四つん這いになると、女王様はどかっとそこに偉そうに座る。
「フッ、綺麗な少年を椅子にするのはなかなか愉快なものね」
それを見て、すぐにミラは目を逸らす
……その姿がなんとなく見ていていい気分ではなかったから。
あんなに強かったロストワンダーが、恋という小さなものに封じられてしまったのが、何処か寂しく、悲しかった。
……だが、それはあくまで私情だ。
私はユグドラの騎士団長、仕事に私情は持ち込まない
ところで、私の本はいつ帰ってくるのでしょうか……
「じゃ、私はちょっとこいつで遊びたいから、寝室に行くわ」
「あ、遊び、ですか」
遊び?遊ぶってなんだ?寝室で?
……トランプとかかな
「あなたは、計画を進めておきなさい、ちょうどあのニンゲンからの連絡がそろそろ来るはずよ、適当に対応しておいてちょうだい」
「はい、かしこまりました」
そう言って、女王はロストワンダーを鎖に繋いで、まるでペットの散歩に向かうかのように寝室に向かった。
そして、私はあのニンゲンからの連絡を待つことにした―――
※
「足を舐めなさい、喉が渇いたでしょう」
女王は自身の寝室で、ワインセラーからワインを持ってくると、ベットに座り、ちょうど見下ろせる位置にペットをお座りさせると、そう言ってゆっくりと太ももに垂らし、つたってつま先へと向かった液体の雫を器用に、ロストワンダーの口へと運ぶ
それを受け取ったロストワンダーは静かに、つま先に舌をつけると、丁寧にワインと足を舐める。
「ハハッ、面白いわね、犬みたい、いや犬の方がまだマシね、犬畜生にも劣る姿……」
さっきまで、あんなにも強大に見えた少年が、今ではこんな恥ずかしい姿になっている。
……ああ、私が綺麗だったせいで
優越感、何とも言えない幸福が身を包み込む
「ねぇ私は綺麗だと思う?」
足を引き上げ、また、顎を持ち、自分の顔がよく見えるように彼を近づけると、女王はそう尋ねる。
「はい」
無機質で空虚なその返答が部屋に響く
「私が世界で一番綺麗だと思う?」
また、女王はそう尋ねる。
「はい」
また、無機質で空虚な返答が部屋に響く
「いい子ね、いい子だったら聞いてくれるかしら」
「はい」
また、無機質で空虚な返答が部屋に響く
「禁忌の魔女を殺したいのよ」
「え?それは無理」
命が宿った、きっぱりとした返答が部屋に響く
・
・
・
「は?」
え?は?ん?
……いや、違う、これは夢だ、夢であるのだ。
夢だ、夢?ああ、寝室に入って寝てしまったのか
そう、そのせいで見た夢だ。
よし、目を瞑ろう、夢ならば覚めるはず――
「え、いやだから無理だって」
恐る恐る目を開き、声がする方を見ると
そこには、そう、数時間前見た。
支配なんて一切受けていない、ただ当たり前のようにきょとんとしているロスト・ワンダーが、そこにいた。




