19.支配者 ■■
ほのぼのとした目覚めだ、久しぶりの誰にも邪魔されない朝
いつもの当たり前のそんな日常が、今になってとても幸福な物に見える。
世界樹の部屋で、極楽鳥の毛布に包まれてすごく快適な睡眠の時間を過ごした僕は、ぼーっとした頭を晴らす為に毛布に包まれたまま、もそもそと動き、どこからか取り出した魔導珈琲メーカーで珈琲を作り始める。
この魔導珈琲メーカーはなかなかの優れもので、とりあえず材料をぶち込むだけで気が付いたら珈琲を作ってくれる。
「はぁ便利な世の中になったもんだよねぇ」
まぁ職人とか上手い人が作るほど美味しいわけではないが、全然満足できるくらいのクオリティだ、これを家で特に何も手間をかけずに作れるのだ。
そりゃあ買うしかないだろう
なんとこの珈琲メイカー、税込み32000G
「どう、女王様?」
「どうって言われましても」
「買わない?この珈琲メーカー」
僕はそう言いながら、テーブルの真正面の椅子に座る女王に対して、白いコーヒーカップに入れた珈琲を差し出す。
女王はそのコーヒーカップを受け取ると、静かに飲み始める。
「なんと、今なら特別な珈琲豆がついてきてさ、さらにこれで珈琲を作るとさらに美味しくなる水素水が――」
「少し、話があってきました」
エルフの女王は神妙な面持ちで、そう話を始める。
なんだ?何の話だ?あ、もしかして、あれか昨日の大魔獣の話か?
やばい、確かに、あれ結構僕のせいなところあるらしいしな
ミラがチクってたらどうしよう、でも僕倒したしな、解決したの僕だしな
悪くない、そう悪くないか、確かに、これで怒ったりしてきたら最強のカウンターできるわけだ。
よし、何だ、話ってなんだ、僕に隙はないぞ……
「初夜の話なんですけど……」
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初夜?
「正確には昨日だったんですが、色々あったのも含め、今日が初夜という事になりました、で、衣装の相談を……」
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衣装?
気が付いたら、僕の隣に女王様がいて、よくわからない色んな衣装が載ったカタログがテーブルにあり開かれている。
へー初夜って初めてだったけど、衣装とか選べるんだ。
……選べるのか?
「どれがいいと思います?」
「んーそうだね、どれもいいと思うけど、この黒の奴とか似合うんじゃないかな、あー赤も似合うよね、瞳の色が赤だし」
「なるほど、我が夫の好みとしては?」
「好みか――」
流れるように、進んでいく話し合いをただ呆然と見つめている女がいた
……何が行われているんだ?
部屋の隅、一人佇むミラは今目の前で起こっている光景が信じられないままでいた。
大魔獣討伐された後、女王様は人が変わったように静かだった。
何かを考えるように、ずっと黙りこくっていた。
そして、口を開いたかと思えば、ロストワンダーのことばかり
そもそも最初からそうだ、傲慢苛烈人間嫌いで知られる女王様が仕方ないとはいえ、人間に媚を売り始めるなんて……
それに、正直に言って今までのロストワンダーの行動を振り返ってみると、女王様に惚れているなんて冗談でも思えない。
しかし、女王様の言い分としてはかなり正しく正当性があるように見える。
勇者伝説を元とした口説き方、偶然にしては一致しすぎているし、ロストワンダーからすれば結婚する必要などないのに結婚している事もある。
そもそも断ればいい、極楽鳥の毛布が欲しいだけならもう受け取っているし、世界樹の素材が欲しいなら普通に奪えばいい、それをできるだけの力を持っている。
そして、まともな人間なら連絡もせず、後から思いついたように女王様の夫という盾を振り回す必要はない。
それら全てを説明するためには、ロストワンダーは女王様に惚れているというのが一番納得できる理由である。
ただ……
今までの行動がなぁ……
婚約の宴を抜け出し、偽者で女王様を騙す、勝手に世界樹に登り、世界樹を傷つけ、部屋まで作り、大魔獣の封印を解き、そのくせ戦いたくないとのたまう。
これら全てが幻で、そんなことは一切何もなかったのならば、安心できるのだが……
それにしても、いくつか知らないことあれどそれら全てを帳消しにして、まだロストワンダーが自分に惚れていると言える精神はどこから来ているのか
……まぁ、女王様は綺麗ではある。
性格は、お世辞でもいいとは言えない、なんなら最悪だ、こんな事女王様の前では言えないが、傲慢苛烈な性格が周知されている中でも婚約の申し出は尽きないのは意味が分からないと思う
男ってそうなのか?美貌さえあればそれ以外何もいらないのか?
実は、自分が考えていることこそが全くの幻でロストワンダーは女王様に惚れていて、女王様の一人勝ちだとでも言うのか?
一旦整理をしよう
まず、ロストワンダーの心情、不明
次に女王様、目的のためにロストワンダーを自分の手駒にしたい、ロストワンダーは自分に惚れていると思っている、そして、惚れるだけじゃ足りないから、さらに硬く壊れないなんらかしらの鎖が欲しい、その為に媚を売り、何か画策している……
最後に私、とにかく本を返して欲しい……
こんな感じか……
なるほど、つまり私がやることは一つかもしれない
アシストだ。
全く、女王様がどうやってロストワンダーを自分の手駒にしようとしているのか、全く、本当に全くわからないが、私はユグドラの騎士団長、女王様の命に従うこと、願いを叶える事だけが使命
ちょうど、本を没収されたところだ、ここでなんとか活躍し、挽回しなければ……
「うわーなにこれ、かっこいいネックレスだね」
「つけてみてください、我が夫」
「うん、つけてみる、え、どう似合う――」
そのネックレスを付けると、ロストの眼から急にハイライトが消え、真っ暗な意志のない人形の様な表情になる。
……ん?
「ハッハハッハッハ、馬鹿ね、何の警戒もせずに付けるなんて、やっぱり人間って下等種族」
…………え?
「我が夫なんて言われて、調子に乗っちゃって、まぁ気持ちはわかるけどね、私みたいな綺麗な異性に言い寄られたんだもの」
………………は?
「何、ぼーっとしてるの?ミラ、もうこんなところに用はないんだから、早く帰るわよ、人間臭い」
アシストする前に……終わっちゃった……
え?ロストワンダー?早すぎない?
ねぇちょっと、というか本当に惚れてたの?
え、じゃあ――
私の本は?
今回、行方不明、ロスト・ワンダー、支配される。
ミラ、多分当分本は帰ってこない。
次回、こうご期待




