16.破壊者 ロスト
寝ている間は安全である。
ゆっくりゆったりと夢の中で、何も考えずにさざなみに流される。
だが、やはりどうしても逃げられない事情はあるもので
他者の介入を絶対に受けないわけではない
「はぁ、世界樹が、世界樹が……」
もうどうしていいか分からない、そんな困惑と焦りに溢れている彼女が機械のように同じ言葉を呟いていた。
なんか大変そうだね。
「どう、どうすれば、世界、世界、世界樹?……世界樹!」
まだ起きた事にはバレていないようだ、よし、このままゆっくり目を閉じて、そのまま夢の中へ……
「ロストさん」
「はい」
目を閉じようとしている僕に対して、ミラはポツリと僕の名前を呼ぶ
僕は天井を見ている、ちらっとミラの方に目を向けると、そこには彼女の背中があって、表情は見えない、ただ、声で明らかに怒りという感情が鮮明に浮かぶ
「なんで、こんなことしたんですか?」
「……ちょっと、そうだな、いや、そうだ!あの――」
「嘘は、辞めてくださいね」
「……」
唯一の逃げ道を封じられた僕
ま、まぁ、意外と、意外とね
正直に、正直にね、正直に白状すれば意外と許してくれるかもしれない
「素材が、欲しくて、後、楽しくなって家を作ろうかと……」
「そうですか、素材、なるほど素材、そして家、ですか」
「悪気は無かったんだ、うん、悪気はなくて、そうなんだよ、」
「一回、黙りましょうか」
「ハイ」
……スゥ、どうしようか、怖い、うん、やばいな、やらかしたな
流石にやばかったか、世界樹だもんな
良くないよ、何やってんだ、僕
一応さ、エルフの女王と結婚するというかしたんだよね僕
ん?僕、エルフの女王と結婚してるのか……
「ミラさん」
「はい、何ですか?」
「よく考えたら、僕悪くないです」
「はぁ、何故ですか?」
「僕、エルフ国、ユグドラの王です」
「……」
「……」
「……なるほど?」
そう!僕は王なのである。
エルフの女王と結婚、つまり僕は王!
つまり世界樹をちょっとくらい削っても……
問題は無い!
「確かに、そうですね、そうでした、王になるんですね、その場合、前例もあります、世界樹を少々弄っても問題は無い……ですね」
「でしょ?はぁ、そうだよね、ああ、よかった」
「ですが……いや、そうですね、確かにそうです、事前に許可を取っていただきたかった所ではありますが、それ以外特に問題はありません」
許可か、確かにそれはそうである
ごめんなさい
よし、謝った、これでチャラで
「ねぇ?でさぁ、僕の問題が解決したところで」
「ところで、何ですか」
「いやぁ、もう一つ問題があるなぁと思って」
「もう一つ問題……」
「うん、もう一つの問題」
ミラは少し考えた後、一定のリズムで体を揺らし始める。
なんだろう、音楽なんて聞こえないけどね
「……この話は辞めましょうか」
「辞める?でもなぁ僕は王になるからなぁ」
「……」
「部下のねぇ、不手際はちゃんと解決しないとなぁ」
「あ―さっき、事前に許可を取れって言われたけど、何故か許可取れなかったんだよなぁ、なんでだろうなー」
チラチラとミラを見る、すると、びくびくとその長い耳が動いているのが見える。
恐らく、その顔に映る表情はきっと青ざめ、とてもいい顔をしているんだろう
「……で、何してたの?」
人を問い詰める時とは、こんなにも楽しい事なのか
勝ちが確定している時の議論ほど楽しい物はない
「別にねぇ、責めようってわけじゃないんだよ、何してたのかなって」
「本を、読んで、おりました……」
「あれれ、あなたって監視なんですよね、僕の」
「ウッ」
「休んだらとは言ったけどさ、休みすぎじゃない?しかも自分の家でなんて」
「グッ」
「すいません、本当に返す言葉もなく……」
「いやね、まぁ確かにこんな事になるまで働かせた女王も悪いと思うよ、でもさ、良くないのは確かだよね、そうだ、分かった、この事を黙っておくから代わりに――」
「ん?何を見てるんだい」
さっきまですぐそこに正座していたミラがいつのまにか、部屋の中とはいえ少し遠く離れた場所に行き、小さな木で作られた箱を覗き込んでいるのが見える。
あれは、確か……
「ロストさん、これは何ですか?」
僕は振り返りもせずそう問いかけるミラの背後に立つと、同じように箱を覗き込む
「あーこれね、世界樹を彫ってた時になんかすごい硬い石が出てきて、頑張って壊したからこれを元にして何か作ろうかなー思ったんだけど、魔術抵抗力が高いのかな、全然使えなかったんだよね」
基本的に他の家具もそうだが、魔術を使って加工している。なのでこういう魔術抵抗力が高い物は加工しづらいので使えなかったわけだ。
でも、別のアプローチをすれば魔道具作りには使えるかなと思い、箱に入れて置いておいたんだけど……
「世界樹の中、硬い石、魔術抵抗力が高い、この色……」
ブツブツ何かを言っているミラ、どうしたんだろう、まさか、すごい貴重な素材だったりするのかな
「ロストさん、まずエルフの国にはとある伝説があります」
お、伝説関連?それはすごい貴重な素材なんじゃないか?
「ライオネクロン伝説、細かいところは省きますが、エルフの国を襲った大魔獣を勇者が倒すそんな物語です」
「そう勇者は大魔獣を倒した、そう伝説には刻まれています、ですが、真実は違うんです」
え?
「勇者は倒せなかった、封印するのがやっとだったんです」
……ん?
「世界樹の中に……その大魔獣が生まれた卵の殻を使って……」
・
・
・
「……つまり?」
「このあなたが石と呼んでいた物の特徴、全てがその卵の特徴に一致します」
「……つまり」
殻を見つめる、中身なんてものは無く、ただバラバラになった破片である。
まるで、何かが、そこから産まれたような
そこから、出てきたみたいな様子だった。
「封印が解かれました、大魔獣の復活です」
……なるほど、なるほど、なるほど
でも……?
「それは僕のせいでは……」
「ある」
ミラは震えながら、苦虫を噛み潰したような顔でそう言い切った。




