13.婚約者 ロスト
「女王様、ロストさん、ご結婚おめでとうございます」
「えー結婚生活には三つの袋が―――」
……何が起こった?
宴が始まった、そして、何か明らかに主役であるように見える二つの席の片方に僕は座らされている。
「どうしました?我が夫よ」
そして、隣にはこのユグドラの女王である彼女がいる。
そして、彼女は何故か僕の事を我が夫と呼んでいる。
……嵌められた、嵌められたな、これは、うん、そうに違いない
確かに、長い手紙は読まなかったし、極楽鳥に夢中で話も聞いていなかったけど
……これは罠だ、僕は悪くない
クソ、とんでもない話だ、おのれエルフ
というか、ミラ、ノリノリすぎるだろ
なんだ三つの袋って、定番すぎるだろ
今時、ボケでもまぁやらないよ
「いや、なんかそうだね、綺麗だなって」
「綺麗……」
本当に綺麗だ、なんだこの会場、なんだあの動く植物、初めて見た。
エルフの国にしかないやつなのかな。
でも、大丈夫なのか?あ、喰われてる
大丈夫じゃなさそうだな
お、なんだあの花
「ねぇあの花ってさ、貰えたりしないの?」
そう言って、一つの花を指差す
「……ベスコフランの事ですか?」
ベスコフランっていうのか、あのなんか白くて小さく綺麗な花
ちょうどいいし、あれで栞でも作ろうかな
「あ、二本くらい貰えると嬉しい」
「二本……分かりました」
そう言うと、エルフの女王は立ち上がり、その花の元へ行くと、花の前でかがみ丁寧に丁寧に摘む
その様子を見た周りのエルフ達は一斉に騒ぎ出す。
そんな喧騒の中、静かに戻ってくると、僕に二本のベスコフランを差し出す。
「取ってきましたよ、我が夫」
「ありがとう、うわーやっぱりいいなぁ」
受け取り、近くで眺めてみると、今までに見たことないくらい真っ白でいい香りがする。
「それはどうするのですか?」
「ん?あー栞にでもしようかなって」
「栞、ですか、それはいいですね」
いいだろう、いいだろう
この前、栞を無くしてね、お気に入りだったんだけどもっといい栞ができそうだ
うん、本当にいい案だ、今、僕は頭が結構冴えてる。
極楽鳥の影響かな。
にしても、結婚、結婚かぁ
大変だよなぁ、絶対
……てか、なんで結婚とかいう話になるんだろう
僕と結婚して何かメリットでもあるのか?
「すいません、私、少々お色直しへ……」
「あ、いってらっしゃーい」
「ミラ、来なさい」
そう言って、彼女らはどこかに行った。
……ちょっと暇だな
※
「はぁ猫被るのってなかなか大変ね」
「そもそも、人間に媚を売らなきゃならないなんて」
宴が行われている世界樹の下から、少し離れた鏡と椅子のみが置かれた小さな部屋で彼女はベールを脱ぐ
偉そうな格好で椅子に座り、適当に鏡を見つめている。
先ほどの上品で清楚でしとやかな様子なんて夢だったのかもしれないと錯覚するほどの豹変である。
「はぁ誰が決めたのかしら、あんなしきたり」
「初代女王様でしょうね」
「あんたも崩していいのよ、どうせ誰も見てないんだから」
当たり前のように、ぴっしりと背を伸ばし警戒を続けるミラ、誰も見ていないのに
「いえ、私はこのままで」
「堅物が、で、この後はどういうストーリーなの?」
「はい、この後、各族長への挨拶、巫女の舞、炎の奉納、世界樹への祝詞で終了です」
「ふーん、面倒くさいのね、はぁ結婚なんてしたくなかったのに」
「仕方ないですよ、しきたりですので」
そう、彼女は結婚など望んでいないのだ。
なのに、今、結婚をしている、しかも下等種族である人間と意味がわからないとは思うが、私もわからない
これには深い深い理由がある。
エルフの女王には『女王の命を救った者と結婚しなければならない』というしきたりがある
まぁ普通は、大体、女王のそばで護衛する、騎士団の騎士団長と呼ばれる存在と結婚する。
そもそもエルフの国から出ることなんて基本ないし、命の危険に晒される事も基本ない
なので、結婚適齢期になれば、魔獣狩りという催しが行われ、エルフ女王を襲ってきた魔獣を騎士団長が狩り、婚約となる。
だから、あくまでエルフの中で一番強い者、一番女王を守れる者と結婚するというだけの話である。
だが、当代の騎士団長は『私』だったもので
それに、加えて
たまたま国の外にでなければならない用事があって
道中で魔獣に襲われて
その魔獣が私でも敵わないほど強くて
たまたま通りかかったロスト・ワンダーという名の人間に助けられてしまったのである。
あの瞬間は絶句した。
本当に、声も出ないとはまさにこのことかと思った。
すぐに、今からしきたりを変更できないかとか、どうにかして結婚させないことはできないかと奔走した。
だが無理だった。
絶望の状況だった、このままでは強いとはいえエルフの女王が人間と結婚することになってしまう!
ただ、そんな状況を女王様は好機と捉えたらしい
『結婚してしまえばいいじゃない』
『は?』
『ミラの驚いた顔、初めて見たわ』
『結婚してしまえばいいの、まぁ人間だし、嫌なものは嫌だけど、そうと言ってられない都合があるし、それがしきたりと頭の硬いご老人たちというのは気に食わないけれど』
『それに、私達の目的にもぴったりでしょ?』
目的、確かにそうだが……
『結婚してしまえばいいのよ、まぁ私と結婚したくない男なんていないだろうし、それですんなり終わる話よ』
そういう理由で、私達は依頼を出して、ロストを国の招待しようとした。
だが、なぜか断られ、仕方なく、宿屋の娘として近づき、極楽鳥の毛布で釣り、ここまでやってきたというわけである。
「ねぇどう思う、ミラ」
鏡の前で髪をとぐ女王様は、後ろに控えている私に対してそう問いかける。
ん?どういう意味だろうか、どう思う?何の話だ
ああ、髪、身だしなみのことか
「ええ、お綺麗ですよ」
「そうじゃないわ、彼の事」
彼、ああ、ロストワンダーのことか
うーん、まぁ強さは当たり前にいいとして、不安なのが少し意味のわからない行動をすることがある、人間ってそうなのか?
人間なんて野蛮で無遠慮、無浅慮な種族だからな
ただ、あの本の良さが分かる人間がいるとは
そこだけは評価していいと思う。
「彼、私にメロメロだと思わない?」
うんうん、メロメロ……
・
・
・
メロメロ?
「彼、あんなに私の体を見て、あんな情熱的な目線向けられたの初めてだわ」
……羽織っていた極楽鳥の毛布を見ていただけだと思う。
「それに綺麗だなんて、まぁ当たり前の事だけど……あんなにはっきり、心が籠もった言い方されたの初めてだわ」
……まぁ確かに、綺麗な物を何よりも重視するエルフの国
綺麗と言える、言われるハードルがとても高く
綺麗=求婚くらいの言葉ではあるが……
「しかも、ベスコフランが欲しいって……」
まぁ確かに、自然を愛するエルフにとって花を摘み、人にあげるということは最大限の感情の表現
花言葉によって意味は変わるが、今回は
永遠の愛
長い時を生きるエルフにとって永遠という言葉は重い……
「それに二本って」
二本、つまり、一本は自分の元へ、もう一本は相手に元へ贈ることで
その花を自分だと思って可愛がってください的な意味になる。
「それを栞にするって」
女王様は本がお好き、それを事前にどこからか知り、プレゼントを栞にするなんて
「それに知ってるでしょ?ライオネクロンの伝説」
エルフの国にこんな伝説が伝わっている。
当時、エルフの国を滅ぼそうとする大魔獣がいた。
その大魔獣は大変暴れまわり、当時の剣聖、賢者、騎士団全員で戦っても止めることのできないほど強かった。
そんな状況で、これ以上の死者が生まれるのを恐れた当時のエルフの女王は、大魔獣と交渉をした
自分の身を捧げるので、どうかエルフの国を滅ぼすのを辞めてくれないか、と
そうして、エルフの国を救うために、生贄となった女王
そして、女王が大魔獣に食べられそうになった、その時
どこからか来た勇者が大魔獣を退治し、エルフの女王を救けた。
その勇者の名前をライオット・ネクロンと言う
エルフの国と自分の命を救ってもらった感謝に、報酬を与えるという女王
それを聞き、勇者は報酬として女王との婚約を望んだ。
女王は悩みながらも、報酬なので仕方ないという事で婚約を結んだ。
その後、魔獣討伐の祝いと婚約の祝いで宴が開かれた時
勇者は女王を綺麗と褒め、ベスコフランの花を二つ摘み、女王がアクセサリーが好きということで二つのネックレスにして、片方を女王に贈った。
そして、女王は勇者の行動に、自分をここまで愛してくれているのかと感動し、惚れ、女王と勇者は真に結ばれたという話である。
「これはもう私にメロメロよ」
なるほど、確かに、材料は揃っている。
「そうですね、はっきりと、客観的に言わせていただきますと―――」
そう、全て、客観的に、様々な角度から見て
私の超高性能なこの頭脳で分析した結果……
「メロメロですね」
「フフ、やはり、そうよね、そうに決まってるわ」
そうだ、確かに、言われてみれば
初対面、魔獣から救けた所で女王様に一目惚れ
最初の依頼を断ったのは照れ隠し
それに私が宿屋の娘に扮していた時、彼は私の事がエルフと気付いていなかった様だが、それも嘘、彼の様な実力者が分からないはずがない
つまり、私や女将役のノエルをエルフだと気づき、接近、どうにかして自分が好きな女王に近づこうとしていたのではないか
それに捕まった事、彼の様な実力者が捕まるというのも不可解
つまり、あそこで捕まることで私が助け、助けてもらった恩で仕方なく、エルフの国に行くというルートのための布石
極楽鳥も恐らく、理由付け
極楽鳥の毛布を貰った時も、こっそり女王様の身体を見ていたに違いない
つまり……
「これは、もうメロメロですよ」
確信、彼は女王に惚れている。
つまり、先ほどの一抹の不安、時々意味のわからない行動をするというのもただの杞憂
愛という名の鎖で、彼を従えることができた!
「ええ、まぁ私くらいの美貌を持てば一目惚れさせるなんてゆうに可能ってことよ」
「でも、こんな、盛大なプロポーズを用意してくるなんて」
「フッ、なかなか分かる人間もいたものね」
「だからって、なにか変わるわけじゃないけど」
「まぁそんなに好きなら、足を舐めるくらいしてくれれば、少し考えてあげようかしら」
「ハハハハハハ」
笑い声が部屋に響く
はぁ本当に笑いが止まらないわ
これで、私は一つ大きなピースを手に入れた
手駒とも言うべきか
彼がいれば、成し遂げれるかもしれない
「私は、どんな手段を使ったっていいの、この世界のすべてを、私が一番綺麗だと証明するために……」
強力な手駒を手に入れたエルフの女王
だが、彼女は知らない
行方不明、ロスト・ワンダーを―――
「女王様、女王様!」
お色直しをしていた部屋に一人の騎士が焦った様子で入ってくる。
「何?何か問題でも?」
私は入ってきた騎士に問いかける
「ロスト様が逃げました!」
「は?」
女王の驚きと疑問と怒りが混じり合った声が部屋に響く
では、その疑問にお答えしよう
ロスト・ワンダーは行方不明だから
ロスト・ワンダーなのだ。
孤宵です。すごく迷いに迷って気がついたらこんなところに来ていました。
その迷いが、特に更新頻度を決めていなかったのですが、毎日更新していたのに2日程空くという事態に繋がりました。その分長いので許してください。
こんな感じで、これからも不定期に更新していくのでよろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございました、もしよろしければ
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