12.独裁者 ■■
「女王様!女王様!」
「……」
「女王様!女王様!」
「五月蝿い、少しは静かにできないのか、愚図」
白で染められた浴室、薔薇で埋め尽くされた浴槽に全身を沈め、静かに天井をみつめる、長い金髪で耳の長い美しい女性がいた。
神聖な浴室に侵入してきた異物をちらりと見ると、煙たがるように目を逸らす
「ミラ様が、ミラ様がお戻りになられました」
「ミラ?で、どうせ空振りでしょ?あの真面目ちゃんが上手くできるわけがない」
しとやかに手のひらに薔薇の花を乗せる、そして、その花が枯れるのを見届けると彼女はふっと息を吹きかけて、入ってきた異物に灰をかける。
灰をかけられた異物は、何の抵抗もなく、それを受け止めると、静かに落ちる灰を見つめる。
「それ、掃除しておいてね」
そう言って、彼女は入浴に意識を戻す。
「いえ、探し人は見つかり、後、数刻でユグドラに来るそうです」
「は?」
少しの時が止まったような時間を過ごした後、彼女はすっと立ち上がる。
「……少し用ができた、早く去れ」
「は、はっ」
そう言って、異物はすぐに静かに浴室を出ようとする。
「ん?……貴様、その服、皺がついているな」
「え、いや、いえ、そんなことは……」
彼は、自分の服を見る、そして、服の端っこの方に小さな皴があるのを見つける。
「言い訳は良い、消えろ」
「い、いえ、待ってください、すぐ綺麗に……」
「汚い物が私の目に映った時点で罪、私の眼に映るのは綺麗な物だけ」
「はい、これで綺麗になった、少し汚れてしまったけれど……」
少し、血塗れた浴室で、彼女は生まれてしまった汚物を避けながら出口に向かう
「私は綺麗」
出口近くにある、鏡を見て、自分の顔を確認し、そう呟くと、彼女は浴室を出る
少しの汚物を残し、そして、浴室には誰もいなくなった。
※
世界樹の中に入ると、その中は神殿のようだった
豪華絢爛に彩られた空間の奥にある玉座には一人の金髪の女性が座っていた。
ん?待て、あの羽織っている服……?
「彼女が――」
「いい、下がれ、ミラ」
ミラの発言を玉座に座っている金髪の女性が遮る。
「はい、申し訳ございません」
そう言って、ミラは静かに後ろに下がる。
「お久しぶりです、ロスト様」
「久しぶり?だっけ」
僕がそう言うと、硝子が割れたような音が響く、あ、ミラか
なんだ?なんか鏡を落としてるな、大丈夫?
「え、ええ、久しぶり、ですよ」
久しぶり、なんだ、まぁいいや、
「へーまぁそれは良いんだけど、極楽鳥の毛布っていつ貰えるの?」
「……それはこちらに」
そう言って、彼女は自分が纏っていた毛布を少し頬を赤らめながら脱ぎ、差し出すとロストはなんの遠慮も無く、その毛布を貰い顔をうずめる。
「うわーふわふわだぁ」
うずめた顔を取り戻し、全身で毛布の感触を味わうために抱き着くと
全ての疲れとストレスが全部吹っ飛んで、幸福と満足感が脳を支配する
なんか、何もしたくなくなる、やる気が無くなって、全てがどうでもよくなる
もう寝れる、寝れそうだ、寝ようかな
あーこれ、人を駄目にするやつだ、駄目という次元じゃない
ほぼ精神支配に片足突っ込んでる、耐性が無かったら廃人になっててもおかしくないぞ
まぁ伝説の毛布なんだから、そんなもんか
取り扱いには気を付けないとな……レヴが使ったら面白くなりそう
「そうですか、ではこれからよろしくお願いします、我が夫」
あーでもこの毛布、洗濯機、駄目な奴なんだ
まぁでも、汚れ防止の魔術かければ大丈夫、万が一汚れたらレヴに洗ってもらえばいいし……
「それでは、明日、婚姻の宴があるのだけど……」
というか、何だろう、この匂い、なんかいい匂いがする
バニラ?っぽい感じだけど、柔軟剤?いや、極楽鳥の匂いなのかな
「……ん?」
「何が起こった?」
夫?宴?
あーなるほど、やらかしたな、僕、ほんと学ばない
……あー極楽鳥気持ちいいなぁ、今度生きてる状態で見てみたいなー
あれだけ探して見つからなかったって事は、エルフの国にいるのかな
探しに行くのもありかもしれない、ミラとか知ってそうだし
ああ、気持ちいい
よし、一旦忘れよう、明日の自分が何とかしてくれると信じて―――




