表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/69

噓つきな唇


きっかけは……覚えていない。

歌舞伎町のカラオケに集まって、一夜を明かした。

君と僕は元々知り合いで、

距離が近かったのもあるとは思う。


南国調の密室。テーブルに散らばる食べかけ。

名前すら憶えていない女と、記憶にすら残っていない男が、

聞くに堪えないくだらない話をし始めたとき……

僕は、君を部屋の外へと連れ出した。


知っているよ。

全部分かっていたんだろう?

今日の予定が組まれた時点で、僕が君に興味があるのだと。

それでも君は、予期せぬ出来事に戸惑うみたいに、

照れるような微笑みを見せた。


繁華街のど真ん中。

甘ったるいスイーツも、名ばかりの仮眠室もある。

欲望と共に息をするこの街で、あまりにも不用心だ。

君を通路の壁に押し当てて、僕はキスをした。


長かったのだけは覚えている。

それと、『いったい、いつから好きでいてくれたの?』って言葉。

知っているよ。

全部分かっていたんだろう?

〝これ〟が、好きとかではないということを。


手を繋ぎ、夜明けの街を歩く。

そこには恋心も、愛情もない。

冷めきった自分の体温を、人肌に温めたいだけだ。

抱きしめたい……

虚しさを、紛らわしたい。

今から僕たちは、この街の養分となる。

きっと、君の喘ぎを聞いた瞬間に、

僕の酔いも醒めるはずだよ。


お互いの気持ちを知っている。

僕と君とは、心は通じ合っている。

だからこそ、これから二人が行う行為も、

その後に待ち受ける結末も、

安い映画くらい分かり切っている——


〝休憩〟から目覚めた僕の傍らで、君は静かに眠る。

つい数時間前にその口から発せられた甲高い甘えが、

いまだ僕の耳をつんざく。

頭痛を撫でるようなソープの薫りが、

後悔を増幅させる。

もう一度その唇を塞ぎたい葛藤が、

天井のミラーボールに乱反射する。


知っているよ。

全部分かっているんだ。

今こうして、服を身に纏う僕の背中に聞こえるその安らかな寝息も、

全部、嘘なんだろう?


目覚めの口づけとは、真実でなくてはならない——


僕たちは、平気で他人を傷つけるくせに、

愛を踏みにじる勇気はないんだ。

互いの嘘も、ねじ曲がった倫理感も、

全部、アルコールとこの街のせいにしたいんだ。


「またな」と部屋を出る僕に、

寝ているはずの君が頷いた気がした。

それは、君の中の唯一の真実なのか……

僕の中の願望か。


知っているよ。

全部分かっているんだ。

今日からまた、僕たちは、

新たな虚しさを抱きしめるんだ。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


若かりし日の恋の過ちなんてものは、今になって思えば、ほんの些細な出来心と、心と頭が足りぬゆえ。

あのとき〝僕〟が〝君〟に口づけをしたのなら、また違う〝今〟があったのかもしれない。

それでも、正しい判断だったのだと思います。

目覚めの口づけに、嘘も悲しみも似合いませんから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ