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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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ブランコが揺れる


深夜の公園。

二人して、互いの家を抜け出して、

ひっそりと落ち合う。

携帯電話のない時代だ。

約束を守ってくれること……親に見つかったり、

不測の事態が起きないことをただ願うばかり。


だだっ広い公園の端っこに、

二つ並んだブランコが揺れる。

話の内容なんてものは、然程も覚えていない。

小学六年生の記憶ってことを鑑みるに、

きっと他愛もない会話さ。

未熟さや、不勉強が折り重なって、

深夜に似つかわしくない煌びやかさを、

纏っていたのだと思う。


君は確か、東京に行きたいと言っていた。

当時の僕には、東京ってものが分からなかった。

今なら分かる……そして、願うよ。

君が東京には行かず、大したことのない幸せに、

微笑んでいることを。


人生もきっと、ブランコに似ている。

前に進むなんてのは幻想で、実際は同じ場所で揺れているだけなのさ。

あのときの僕たちはまだ、ブランコの漕ぎ方を知らなかったんだ。

だからこそ、さして失うものも無かったし、

また、その恐ろしさも知らなかった。

おざなりな人生なんて詰まらないかもしれないが、

そこまで辛くもないってのも事実なんだと思う。


不登校だった君と、単純に世間の外側にいた僕との恋路は、

君がより頑なに籠城ろうじょうすることにより、あっけなく幕を閉じた。

二人掛けのブランコの片一方だけが揺れる——

隣でピクリとも動かない座板を見つめながら、

当時はまだ知らなかった感情だけが揺れる——

いつものように、キーキーと嫌な音を立てることのない鎖……

僕はあのとき初めて、何かを失ったのかもしれない。


君は今、何処で何をしているのだろうか。

僕の記憶の中にある君の実家に、住み続けているのだろうか。

家族とは打ち解けられたかい?

君が嫌っていた人間関係ってやつに、解決の道は見えたかい?

知り得ない……それもまた、

悲しいものなんだなと気付いたよ。


知らず知らずのうちに、僕たちは沢山のものを手に入れてしまう。

携帯、パソコン、ゲームだって、誰に許可を得るわけでもなく手に入る。

その代わりに、壊れたり、買い替えたり、

興味を失ってしまったりする。

友達、恋人、家族だって、ほんの少しの勇気で手に入る。

その代わりに、傷ついたり、思い悩んだり、

やっぱり、興味を失ってしまったりする。


僕たちが深夜に揺らしたブランコ。

親、命、自分ってやつを、あのとき既に手に入れてしまっていたのさ。

互いのブランコは、確実に揺れていたんだ。

その代わりに、嫌悪を覚えたり、失望したり、

それでも、興味を失ってはいけないものを、

手に入れてしまっていたのだ。


僕は揺らすよ。

例え横に君が居なくとも。

耳障りな鎖の音に歯を食いしばりながらでも、

ポケットから大事なものを落としながらでも。

願いが届くのならば、君の座るブランコも、

この世界の何処かでちゃんと、揺れてくれていたら良いな。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


今作は、〝昔を懐かしむ理由〟をテーマに書きました。

作者考察を申しますと、幼いころの記憶であったり、青春時代の恋であったり……昔の記憶に想いを馳せてしまうのは、あのときと変わらず同じ場所で、揺れているからだと思うのです。

私の中に丁度ブランコの記憶があったので、それと重ね合わせた次第でございます。


元々、人生に於いて『前を向く』ってのは正しいと思いますが、『前に進む』って言葉は好きではありません。

何故ならば、私たちは時の流れに逆らえないのですから、わざわざ意識などせずとも、みな平等に前には進んでいるのです。

しかし、それは四次元の話。

四次元を理解し得ない三次元の住人たる私たちは、同じ場所でブランコを揺らしているのです。


大きく揺らせば、それ相応に、大きな幸せや不幸せが手に入る。

小さく揺らせば、それ相応に、小さな幸せや不幸せが手に入る。

どちらを選ぶかはそれぞれの自由ですが、作者としましては、ブランコを止めたとき、決して無くしてはいけない物を失う気がするのです。


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