とろどろ
水で溶いて、とろみをつける。
ダマにならないように、火を止めて加える。
とろとろと、粘膜を刺激する。
熱が、必要以上に熱く迸り、
私の心を湿らせていく——
別に、愛憎ってわけではなく、
むしろ単純な興味本位に近しいと思う。
趣味嗜好と言いますか……
とにかく、私が貴方という存在を認識して以来、
ぬるぬると粘りのあるその魅力の虜となってしまったのです。
最初はいつもみたく、一過性の症状だと思っていましたが、
どうやら今回は本気のようです。
その証拠に、貴方の幸せが憎いのです。
言葉の節々から伝わってくる充実が、気に食わないのです。
貴方が愛されているという事実と、それを突き付ける夥しい数の根拠が、
親指の爪を噛み切ってしまうほどに切ないのです。
私はきっと、元には戻れません。
こうなってしまった以上、俗に言う〝普通の恋愛〟なんてものでは、
舌は勿論、胃袋が満足しないでしょう。
喉に詰まってしまいそうな粘りが……
身体の内側から火傷してしまいそうな貴方の温度が、恋しいのです。
その女は誰ですか?
大して美味しそうには見えませんが?
パサパサに乾いたローリエのような、
何処にでも転がっていそうなものにしか思えませんが?
それとも、少しの力加減でバラバラに砕けてしまいそうなひ弱さこそが、
愛するに値する美しさとでも言うのでしょうか。
ここはとても寒いのです。
四六時中日陰で、じめじめと湿っぽくて……
貴方もきっと気に入ってくれるはずです。
台所のシンク下のような、無頓着に散らかった冷暗所。
すぐ横で流れている水の音は、汚らわしい排水音。
知っていますとも。
貴方の好きなものも、苦手なものも。
指先が辿ったもの……舌先が感じたもの……
なんだって見ています。
私が貴方の中で嫌いに思っているところも、
貴方が私のことを、愛してなどくれないということも。
だって、仕方がないじゃありませんか。
私は、貴方のことが好きなのですから。
好きだから、知りたいと思ってしまうのです。
好きだから、私と関係のない所での幸せなど無価値なのです。
この感情に、現実なんてものは関係ないのです。
あるのはただ、貴方と溶け合いたい願望だけなのです。
色欲で溶いて、とろみをつける。
怨念にならないように、気持ちを制御しながら加える。
どろどろと、入れ過ぎてしまった気もする。
それでも、熱が……貴方に食べて頂きたい本心が、
必要以上に熱く迸り、
私の心を湿らせていく——
素材で勝負出来るものなんて持ち得ませんから、
せめてキラキラと輝くためには、とろみしかないのです。
貴方の生活の中に私を混ぜ込んで、
徐々に固めていくしか出来ないのです。
いつの日か、この沼に貴方を沈めて、
高熱の抱擁で溶け合うように、ひとつの塊となるのです。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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本作のテーマは、片栗粉です。
まんま、片栗粉を見つめながら書き始めました。
最初のうちはセクシャルな内容を想像していたのですが、なんだかあの味気のない、しかし存在感はある片栗粉という存在が、愛憎のような気がしてきまして、今作の完成と相成りました。




