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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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喫茶店の入り方


当喫茶店は会員制です。

入店資格は、私——

私が気を許せる人であるか否か……ただそれだけです。

初見で会員証をお渡しする方もいれば、

何度通っても決してれない人もいます。

こればっかりは、私が店主であるからして、

許して欲しい所存でございます。


こだわりと言えば沢山あるのですが、先ずは入り口です。

ガチャガチャと煩いパイプチャイムもないですし、

勿論、電子音センサーもありません。

そんなもの無くとも、私がずっと見ていますから……

誰が入り、誰が出て行くのかを。


次に、日当たりですね。

当店の窓は遮光性ですから、日光などは通しません。

それは、私が太陽よりも、アルコールランプの灯りが好きだからです。

付け加えて、影も好きなんです。

暗い部屋で小さな灯りを灯すと、影がゆらゆらと揺れるでしょう?

私はね、あれがその人の本性だと思うのです。

まったく歪みのない人間など、存在するはずがないのですから。

陽の光をお預けにすれば、あなたの真意など透けて見える……と、いうわけです。


色々と申しましたが、ご安心ください。

一度入ってしまえば、早々に追い出すようなことは致しません。

入店を許可したのが私であるからして、

退店を促すことは、それ即ち、

私自身の見る目がなかったという告白に他ならないのですから。

もしご入店頂けましたら、好き勝手におやり下さい。

自分を殺してでも、あなたのことを想うでしょう。

それほどまでに、私は自己性愛者なのです。


メニューでございますか?

当店は喫茶でございますので、口で嗜められるものであれば、

なんでもご用意してございます。

珈琲も紅茶も、砂糖菓子も煙草も、

受けも責めも、励ましも辱めも、

至高の毒も、良からぬものも……

お望みとあらば、その口に注いで差し上げましょう。


私のオススメとしましては、やはり毒ですかね。

それも、甘美であればあるほど良い。

苦い毒など、ありふれていますから。

毒とは、甘い幸福感があり、汗のような酸味が混ざり、

舐めてはいけないと舌先から思考の最奥まで届いているのにも関わらず、

それでも舐めずにはいられない……

なぜならば、あなたのよろこぶ顔が目に浮かぶから。

これこそが、私のご用意する至高の毒なのです。


おや?

どうやらお気付きのようですね。

そう、あなたは既に客人というわけです。

それと同時に、同業者なのです。

あなたはあなたで、また違う形の喫茶店をご経営なさっている。

勿論、あなた主観の会員制で。


それでは、あなたの店は?

何を受け入れ、何を拒むのですか?

どんな愉しみを与えてくれるのですか?

それとも、私のような者など、

最初から受け入れてはもらえませんか?


やはり、優しい客が好きですか。

悩みに寄り添い、弱さを叱らず、

あなたのためにと距離を置いてくれる。

わかります、あれは便利ですもんね。

だけど不思議と、利益には繋がらないのです。


是非、あなたの喫茶に訪れてみたいものです。

入口を開けた瞬間に、悲鳴のような、嘆きのような、

下卑たチャイムが鳴ったなら、

私はきっと、絶頂して差し上げるでしょう。

互いの店を行き来し合える仲になったのであれば、

たっぷりの角砂糖を入れて、

熱い抱擁に溶けましょう。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


本作における『喫茶店』とは、それぞれの心の在り方です。

というよりは、もっと単純に、『人を判別する目』と言いましょうか。

冷たく言えば、人間選びです。

あなたが、『この人と友達になり得るかも知れない』と思ったのならば、それがこの世界における『会員証の発行』なのです。


あなたは、どんな人間を受け入れ、そして拒むのか。

これは、殆どの人が無意識のうちに行っている行為ではありますが、それを今作では『自分の心の中の喫茶店』として具現化したのです。

そう考えてみれば、一度入店を許したがばっかりに、いつまでも長居された気怠い客も居るでしょう。

事あるごとに指摘してくるクレーマーや、あなたの敷地内で傷を見せつけてくる者もいたでしょう。


さて、あなたの心の喫茶店のドアは、ネジが緩んでいませんか?

定期的に見つめ直さないと、客質は荒れ、治安は意味を失くし、

あなたの心が廃れてしまいますよ。



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