【恋】雨が消えた町
この雨雲は、いつまでわたしの上にあり続けるのだろうか。
新しく買った白いワンピースも、
そこに描かれている群青色の花々も、
どこかくすんで、俯いて見える。
それでも貴方が居てくれるのならば、
わたしは幸せ者だ。
『愛』なんてありふれた名前、ちっとも好きじゃなかった。
わたしにはもっと、この雨雲みたく、じとじとした名前の方が似合う。
どんくさくって、真面目でもなくて、
嫉妬深くて、怒りっぽくって、嘘つきで。
それでも貴方がこの名前を呼んでくれるたびに、
わたしは自分の名前に頬ずりした。
別に、雨が嫌いってわけではない。
実際このワンピースだって、
どうせ雨が降ると思って買ったわけだし。
あと、長靴は好き。
色々な模様を愉しめるし、
なによりも、足の指が自由だし。
それに、おっちょこちょいなフリをして、傘を持たずに外出すれば、
貴方の肩に寄り添える。
反対の肩が濡れているところなんかに、
妙な満足感を覚える。
このまま雨に打たれ続けたいとすら思うけれど、
貴方の表情が曇るのは良くないから、
やっぱり素直に晴れを待つ。
この町も、そしてわたしも、
きっと雨に恵まれている。
だから、どこかで分かっていたのです。
明るくて、活発で、
外で遊ぶのが大好きな貴方が……
わたしの中の太陽のような貴方が……
雨は止み、町がキラキラと輝きます。
レンガ道がどんどんと乾いていって、
少しずつ違った色が蘇っていきます。
用を失った長靴のナイロンが、
テカテカに光を反射させます。
貴方は傘をたたみ、
わたしの元を去っていきます。
この雨雲は、いつまでわたしの上にあり続けるのだろうか。
世界はとっくに晴れているのに。
新しく買った白いワンピースも、
そこに描かれている群青色の花々も、
こんなにも清々しくなびいているのに。
それでも貴方が横に居てくれなければ、
わたしの雨は止みません。
雨が消えた町に取り残されて、
じめじめと涙を流します。
貴方の笑顔なくしては、
きっとこの心は晴れません。
色鮮やかで、陽気で、
暖かく抱きしめてくれるようなこの町で、
ひとりずぶ濡れるわたしは、
貴方が傘をさしてくれるのを、
いつまでも待っているのです。
お読みいただき、ありがとうございました。
誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。
【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
——————————
作者の解釈としては、〝わたし〟は実に狡猾な女性です。
決して〝貴方〟に合わせるのではなく、自分自身の領域に引きずり込みたいと……
「雨が嫌いってわけではない」という台詞の本意は、雨が好きなわけではないが、利用価値はあるという意味です。
そう思えば、これは単なる悲恋ではなく、既に晴れ間が差して陽気に戻った町で、一人だけじめじめとしている様は、悲しみを拭いきれない描写ではなく、同情を買い、次なる獲物を待っているようにも見えるのです。
最後の〝貴方〟とは、今までの〝貴方〟と同一人物なのでしょうかと……




