【独】お粥
あ゛ぁ……
二日酔いってのは、何度味わっても耐え難い。
昨日の自分を呪うことしか出来ない。
私ともなれば、それすらも諦めている。
皆の元に太陽が昇るように、
私の元へは二日酔いが顔を出すのだ。
日常であり、最愛の友と言っても過言ではない。
故に、私は誰よりも、
コイツとの付き合い方を知っている。
どんなに科学的に証明されていなくとも、
懲りない私の身体が覚えてしまっているのだ。
誇らしくもなんともない。
憐れみの余地すら存在しない。
実に可愛げのない友情だ。
水分補給は勿論のこと、
最も大事なのは食事である。
胃が荒れているのは明白であるからして、
当たり前に優しくなければならない。
蜆の味噌汁も良いが、市販のものは塩分の刺激が強すぎる。
ラムネも良いが、圧倒的に満足感が足りない。
そこで、お粥なのだ。
粥にも色々あるが、私なら七分粥だ。
程よい食感が無ければ、不用意に飲み込んでしまう。
ここで理解しなければならないのは、
二日酔いの人間に、やる気など存在しない。
物を噛んで食べることすらも、
自然に誘導してあげなければならないのだ。
よって、米を量る気力など存在しない。
一合……それで良い。
米一合に対して、水は1260ml。
安心しなさい。
何回も作っていれば、目測でいけるようになる。
900ml以上であれば、ひとまず形にはなる。
経験なのだよ、何事も。
研いだ米を水に漬けて半時置く……
二日酔いの者に、そんな辛抱は耐えられないからして、
米を研いだだけで偉いとする。
なんせこの後、約束された困難が待っているのだから――
鍋に米と水を入れ、沸かす。
甘味が欲しければ味醂を少々。
旨味が欲しければ料理酒を少々。
水が沸いたら火を弱火に落とし、大きくかき混ぜ、蓋をして、20分待つ。
さて、ここだ。
この20分が、途方もなく長いのだよ。
寝てもいけない。ソファでくつろぐのも危ない。
吹きこぼれそうになったら、少し蓋をずらしてあげなければならない。
まぁ、ストレッチでもしていなさい。
大丈夫。
あ゛ぁ~……と、うなされていれば、
優しさの欠片もなく、時間は過ぎ去るのだ。
無事に20分を耐え忍んだのであれば、
米の芯が残っていないか、ほんの少し食べて確認するのだが、
充分に気を付けなさい。
炊き立ての米と、出来立てのアヒージョは、
小籠包に等しき殺傷能力を有する。
ここで火傷をしてしまったら、全ては水の泡だ。
米粒が柔らかければ、火を止め、
しっかりと蓋をして、5分蒸らす。
これは待ち時間ではない……愛だ。
その証拠に、ほら。
立ち昇るお米の甘く優しい香りに、
二日酔いが和らぎ始めているのを感じているはずだ。
最後に塩をひとつまみ入れて、この薬は完成する。
具材は、梅干しでも、醤油を垂らした大根おろしなんかも好ましい。
生卵を溶き入れれば、火傷防止にもなるし、蜂蜜なんかも面白い。
私かい?
私のイチオシは、ペースト状にしたアスパラガスだ。
少々手間は掛かるがな。
なんだって?
それは卑怯じゃないかって?
甘く見てもらっては困るな。
私はね、前日の晩に用意しているのだ。
なぜならば、酒を呑み始める前から、
二日酔いに苦しめられることは確定しているのだから。
経験値が違うのだよ。
それに、明日の準備は前の日の晩に用意するって、
学校で習っただろう。
酒を嗜むことが出来る歳なのだから、
明日の自分だって、思いやれるさ。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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読み終えた後に、「いったい自分は何を読ませられたのだ?」と思って頂ければ幸いです。
なぜならば、作者ですら、なんで書いたのか分かっていないのだから。
それでも、これもひとつ、この短編集の主題である『孤独、執着、歪んだ愛、心の揺らぎ』なのですよ。
読んで馬鹿馬鹿しい物語こそが、私たちの日常の大半なのだと思います。




