【人】ゆきやなぎ
春が来るたびに、
よくもまあ、飽きないもんだなと思う。
心から綺麗だなんて思っているのだろうか。
花は花。
咲けば皆、美しい。
そうでなければ、
報われようがないではないか。
毎年この季節が来ると、皆こぞって君を称える。
貧相な美徳感で、儚い時を憂うフリをする。
君が洗い流せるものなど、浮ついた表層の油くらいだ。
根っこまでこびりついた焦げ付きなど、
春のそよ風ではどうにもならない。
私だって咲いている。
小さな純白の花弁を必死に広げ、私を見てくれと叫んでいる。
自分自身の重さで頭を垂れてしまうくらいに、
幾百の花を散りばめている。
それなのに……
春の木よ——
君よりも多くの花をつける私は、なぜ見てもらえないのか。
君よりも長く咲き続ける私に、なぜ皆が背を向けるのか。
せいぜい束の間の幸せに浮かれていればいい。
どうせすぐ、君はただの茶色い枝だけになる。
それでも世間は、君のその儚さに酔いしれるであろう。
出会いや別れの中心に植え付け、貧相な君を見つめながら、
次なる春を夢見るのであろう。
春の花よ——
君と同じ形をした私の前を、なぜ人々は通り過ぎて行くのか。
君と同じ花である私が、なぜ君を見上げなければならないのか。
浮世の不条理とはこのことだ。
君がひとつ開花させれば、くすんだ世界も華やいでしまう。
昨日までの悲しい話題は忘れ去られ、
誰もが君に釘付けとなってしまう。
もはや呪いではないか。
繰り返される輪廻の業。
そうでないならば何故ゆえに、
君は今年も咲き誇るのか。
何故ゆえに……
私が散らした花びらは、
誰も拾ってはくれないのか。
薄紅に見惚れる者たちよ——
私のことを知っているかい?
春に降る雪さ。
今日もほら、その花を見上げる君たちの傍らで、
満開に咲き乱れている。
知られていなくたっていい……
私がここで咲くと決めたのだから。
見つめてもらえなくたっていい……
私がこの色を選んだのだから。
春よ——
君を想えば想うほどに、自分の白が虚しく思える。
いっそ全ての花を落としてでも、振り向いて欲しいと願ってしまう。
誰かに見つけて欲しいと、風に揺られて泣いてしまう。
それでも……
私はピンクに手を染めない。
自らの白を、透き通るまで磨き上げる。
皆を魅了する色など要らない。
どこにでも落ちている色でこそ輝く。
そうでなければ私は——
歪んだ嫉妬や愛憎を咲かせ、
あらゆる首を切り落としてしまう。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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色々な方が桜を綺麗に描くのですが、私はやっぱりこうなります。
今作は、ユキヤナギという花の目線で桜を見ているのですが、テーマはそのまんま『嫉妬』です。
同じ人間なのに……同じ男、女なのに……。
そういった嫉妬心。
最後の最後で踏みとどまる危ういバランスを描いたつもりです。
『あいつが居なければ』以前に、『私が成らなければ』なのですが、やはり人間の憎悪ってやつは、そう容易くコントロール出来ないのだと思います。
故に、ユキヤナギは、あらゆる首を切り落としてしまわぬよう、必死に花を咲かすのです。




