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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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【恋】オールドファッション


貴方に抱きしめられるたびに思います。

私は、嘘つきだなと。

その腕の感触が、遠いのです。

それは、裸になっても変わらない——


静かなJAZZが流れる喫茶店で、

貴方と口づけを交わした日。

ビターな珈琲の味が、

私のキャラメリゼを溶かしました。

苦い恋の始まりを、

教えてくれていたのでしょう。


春の木漏れ日で手を繋いでも、

大人な夜のネオンに胸を光らせても、

私の皮膚は、貴方の熱を通さない。

粘膜の薄い部分でしか、

貴方を受け入れられない。


かような嘘つきです。

怖くて堪らないのです。

ありのままを見せてしまうのが、

恥ずかしさを越えたオーブンの隅に逃げ込んで、

固く焦げ付いているのです。


愛されるとは、

嫌われる資格を有するということ。

めい一杯着飾った私であれば、

例え貴方に罵声を浴びせられたとて、

耐え忍ぶことが出来るでしょう。


ただ、ありのままであれば、

私は揚げたドーナツのように、

ボサボサに干乾びてしまうでしょう。

テーブルの上で粉々に散乱して、

もう二度と、元の形に戻ることは許されないでしょう。


いくつになっても女の子ですから、甘いクリームを纏いたいのです。

カラフルなチョコチップをまぶし、蜂蜜を染み込ませたいのです。

貴方に食べられたとき、あまりの糖分に顔を顰め、

子供みたいに夢中にさせたいのです。

お預けにしたら泣き出しちゃうくらいに、

どんな時でも、私のことを想っていて欲しいのです。


凛と咲く花。

淑女の余裕。

喪服のうなじ。

オールドファッション——


私も強く生きられたなら……

思うだけ無駄です。

貴方は綺麗だとか、美しいだとか言いますけれど、

私はただ、可愛くありたいのです。

いつまで経っても、砂糖菓子であり続けたいのです。

血糖値を支配して、無我夢中で舐めさせたいのです。


色とりどりなショーケースの中で、

ただの茶色い輪っかが選ばれる自信はありません。

黒い光沢や、ピンクの誘惑で、

うずうずと、

恥ずかしがる貴方の手が伸びるのを待つばかりです。


貴方に抱きしめられるたびに思います。

やっぱり、これで良いのだと。

その腕の感触が、塗りたくったチョコレートを脱がして、

ありのままの私に届くのを、ひっそりと願い続けるのです。

輪っかの内側をほじくられるたびに、

口から漏れ出る本音を、両手で塞ぐのです。


貴方の舌を、甘美に酔わせる。

冷静であろうとする心を、シナモンで惑わせる。

私の乾いた本性や、

真ん中に空いたみすぼらしい穴などには目もくれず、

一心不乱に、食べ尽くして欲しいのです。

このまま溶け合い、生焼けの微熱で、

不純な穴を塞いで欲しいのです。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


え~っと、ドーナツのCM見てたら思いつきましてね。

女性の方々の美への追及は、男性にとって不思議にも思えたりします。

最近は男の子も化粧をする時代のようなので、作者は既に置いて行かれております。

綺麗や美しいではなく、可愛くあり続けたい。

そんな女性の葛藤を描かせていただきました。


作者は好きですよ、オールドファッション。

ただ確かに童心に帰れば、わざわざ選ぶものではないなと思ってしまいますね。

因みに作者は、子供のときからココナツチョコレートが大好きでした。

当時も、大人になっても、中々賛同は得られません。

たまにはこんな、どうでも良い作者解説を残して——


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