【人】愛の歌
愛よ。
君にその名を授けたのは、人類だ。
愛よ。
君が自分だと思っているそれは、人類の欠片に過ぎないのだよ。
男と女。
親と子供。
愛とは、便利な言葉だ。
ふたつの拇印を連ねるだけで、
さも真理を知ったような口ぶりが出来る。
愛は、地球の反対側まで届く。
愛は、あらゆる物質を透過する。
それはそうだ。
そもそも形が無いのだから。
愛よ。
君に出逢わなければ、
人類はより原始的な幸福に包まれていたのかもしれない。
愛よ。
君が愛されているのは、
人類にとって利便性の高いナイロンだからだ。
ミジンコに愛はあるのか。
私たちの腸内細菌は、
本当に愛の力で動いているのか。
世界を救えると豪語するあたり、
よほどの自信家なのは伺える。
失ってはいけないものなのだから、
人間の中枢に巣食っているのであろう。
まるで、
ウイルスみたいなやつだ。
愛とは何か? と聞かれれば、
私はすぐに「概念だ」と答える。
哲学であり、
抽象画のような呂律の回らない色彩だ。
愛を知らないのか? と聞かれれば、
私はすぐに「見たことのないものを信じることは出来ない」と答える。
妄想であり、
生物学上のエラーに近しい。
愛よ。
なぜ私の前に現れてくれないのか。
君が姿を見せてくれたら、
どんな願いでも叶うのではないのか。
愛よ。
そんなに遠くから人類を眺めていてさぞ楽しいだろう。
自分を見たこともない人間が、
君の名を叫びながら蠢いている様子は、
さぞ滑稽だろう。
「思いやり」とは、「思いやり」だ。
「支え合い」とは、「支え合い」なのだ。
それを都合よく一括りに、
「愛」と呼んでいるだけだ。
ただの結束バンドなのだよ。
言っただろ? ナイロンだって。
ニッパーひとつで断ち切れる。
愛の本質なんてそんなものだ。
この世界のどこに行けば、
愛が満ちているというのか。
まさか、腐った歌みたく、
路地裏や、台所なんかに、
普遍的に漂っているとでも言うのかい?
私からしてみれば、
目の前に転がるビタミン剤の方が、
よっぽど愛に近しく思う。
愛よ。
私に足りないのはなんだ。
尊重か? 謙遜か?
まさか、信仰心なのか?
愛よ。
さっさと人類の元を去ってはくれまいか。
訳の分からぬ幻想ではなく、
ひとつひとつの現実の形を、
見せつけてはくれまいか。
それすら叶わぬならば、
どうか私に、
愛を教えてはくれまいか。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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久々に、完全なる作者の独白ものです。
愛とは簡単に言えど、愛とは何なのか。
私たちは、愛の形も本質も知らぬまま、気付けば知らぬ誰かが歌った『愛』を、本物の愛として受け止めてしまってはいまいか。
作者が思うに、愛なんてものは共有できないのです。
愛は軽くないのです。
それぞれが思い悩み考え抜いて、最後に残る最奥に沈殿している泥こそが、愛なのです。




